ドロップシッピングはなぜネットで定着しなかったのか

3~4年ほど前、アフィリエイトに次ぐネットビジネスのキーワードとして「ドロップシッピング」が注目されたことがあった。当ブログでも「1ページでわかる日本型ドロップシッピングとは(ドロップショッピングではありません)[絵文録ことのは]2006/11/02」という記事を掲載している。

しかしこの記事から3年半。今、ドロップシッピングは決して流行っているとはいえない。2006年8月に、アフィリエイト業界からドロップシッピングに進出した電脳卸も、今から1年前の2009年6月末に「電脳卸ドロップシッピング」サービスを終了した。

ドロップシッピングはなぜ日本のネットで定着しなかったのか。先日のNHK番組でもあたかも詐欺商法であるかのように報道されていたが、そんな誤解さえまかり通るほど、知名度は低い。いや、実はこのシステム自体は非常によく使われている。しかし、ちょっと手軽に副業としてやれるレベルのものではなかった、というのが最大の原因だと考える。

2010年6月23日18:58| 記事内容分類:ウェブマーケティング| by 松永英明
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ドロップシッピングとは

最初にドロップシッピングについて説明せねばならない。これは「1ページでわかる日本型ドロップシッピングとは(ドロップショッピングではありません)[絵文録ことのは]2006/11/02」の記事を読んでもらうのが一番の早道である。図解も入っているのでざっと眺めてみていただきたい。

簡単にアフィリエイトとの違いを中心に述べてみよう。アフィリエイトは「紹介」である。何かを売っているお店に連れて行ったら、そこで紹介料がバックされるわけである。自分自身では何かを売ったりしないし、紹介した客から直接お金をもらうわけではない。

ドロップシッピングは「在庫を持たない店舗」である。お店は構えている。お客様からお金を受け取るし、販売主体である以上は「特商法」の表記も必要だ。しかし、商品はそこにはない。メーカーや問屋から直送してもらうのである。お客様から受け取った金額から、メーカー・問屋に払う「仕入れ代金」や送料・手数料などを引いた金額が自分の収入となる。

わかりやすいドロップシッピングの例としては、楽天の家具屋ショップの多くが挙げられる。その大半は自店舗を持っているわけではないし、自分の倉庫に家具があるわけでもない。実際に購入すると「メーカーから直送します」と言われる。これがまさにドロップシッピングである。「原産地の農家から直送します」という八百屋ショップも同様だ。

上記記事から下世話なたとえ部分を引用しよう。

 アフィリエイトは、「風俗店紹介所」あるいは「客引き」である。お客さんをつかまえて、どういう店がいいですか、と要望を聞きながら、自分の契約している店に連れて行く。こうしてお客さんを連れて行くと、店から紹介料が支払われる。

 ドロップシッピングは、「デリバリーヘルスの受付窓口」である。窓口に行って「この子がいい」と申し込みをして代金を支払い、ホテルで待っていると、指定された女の子がやってくる。この場合、女の子が自宅待機していて指名がかかったら出てくるという方法をとっていれば、まさに「メーカー直送」というわけで、ドロップシッピングに似ている(そのままではないけれども)。

もう一点、比較で言うならば、アフィリエイトは価格と報酬の決定権は店にしかない。しかし、ドロップシッピングでは価格はある程度自分で決められるし、それによって報酬も変わる。安売り競争に巻き込まれた場合はさほど利益は見込めないのだが、基本的に同じ価格の同じ商品が一つ売れたとすれば、アフィリエイトよりドロップシッピングの方が収入が大きくなりやすい。

これでドロップシッピングについては理解していただけただろうか。

DSP(ドロップシッピング・サービスプロバイダ)の登場

ドロップシッピングというのは、もともと「ネットショップを開きたい」しかし「在庫を抱えるというリスクは大きすぎる」から、「注文があったときだけメーカー・問屋に発注して、商品もメーカー・問屋から発送してもらえれば」というアイデアである。メーカー・問屋も、自分でネットショップを開店するリスクが省けるとか、販路が広がると考えるならば、両者ともにメリットがあるといえよう。

その先駆的な例としては和食器益子焼販売 楽rakuなどが挙げられる。

しかし、2006年ごろに注目されたドロップシッピングは、その主な形態が「Tシャツのデザインをして、ショップに掲載しておき、注文があったらそれをプリントして売る」というスタイルに偏っていた。

アフィリエイトでは、アマゾン・楽天・Yahoo!のように自社システムでアフィリエイトをやっているところと、アフィリエイトを導入したいショップを集めてアフィリエイターにタグを貼らせるASP(アフィリエイト・サービスプロバイダ)を利用する例がある。ASPではリンクシェア、A8、電脳卸、バリューコマース、トラフィックゲートなどが有名どころといえる。

ドロップシッピングも、メーカーや問屋と直接契約すれば(楽天の家具ショップや上記「楽raku」のように)独自に行なうことができる。しかし、一方でドロップシッピングに対応するメーカー・問屋を集め、ドロップシッパー(※)に販売商品を提供するシステムが作られた。これがDSP(ドロップシッピング・サービスプロバイダ)だ。DSPでは、もしもドロップシッピング、リアルドロップシッピングなどが二大巨頭といえる。この二社のシステムはやや異なっており、「もしも」はアフィリエイトにかなり近い感覚でドロップシッピング商品のタグをブログやサイトなどに貼る方法が中心で、「リアル」はリアルマーケットというショッピングモールへの出店が中心となる(リアルの方は流通の革命を目指している)。

こうして2007年ごろにはDSPも続々と立ち上がり、ネットで収入を得る方法の一つとしてドロップシッピングという手法がクローズアップされる土壌ができあがっていった。

※ドロップシッパーは、日本ドロップシッピング協会においては「ドロップシッピングのシステムを利用して販売するショップ」を意味するものとされている。ただし、本来の英語ではメーカー・問屋側を指す言葉であった。ここでは日本ドロップシッピング協会での定義に従うものとする。

ドロップシッピングの伸び悩み

わたしはドロップシッピング関係者に取材も行なっていった。(ネットでの粘着による嫌がらせがなければ)解説本も出版される運びだった。しかし、その後、ドロップシッピングはネットでも話題になりそびれていった感がある。

それはなぜか。ドロップシッピングはあくまでも「ネットショップ」を開店する一方法であり、それだけに「本格的に取り組まなければならない」というハードルがあったからだとわたしは考えている。

アフィリエイトはいまや簡単である。たとえばアマゾンと契約してブログサービス有料版に登録するだけで、本やDVDを紹介するたびにアフィリエイトリンクとなり、あるいは自動でアフィリエイト広告が作成される。とにかく紹介したい商品のアフィリエイトリンクを貼るだけ。もちろん、貼ったからといって買ってもらえるかどうかはわからないし、実際にアフィリエイトでそこそこの収入がある人は少ないが、何の資格も何の覚悟もいらない。

ドロップシッピングも、もしもやリアルの登場で手軽にはなった。しかし、曲がりなりにも商品を売る主体者となるというのは、非常に大きなハードルだ。本来のドロップシッピングでは「ショップ」を開店するだけの気合いの入っている人にはよいが、そうでなければ「特商法の表記も原則として必要」「お客様から問い合わせやクレームが来たら全部対応せねばならない」「返品リスクがある」「安売り競争に巻き込まれると利益率も小さい」「同じシステムを使っていると、商品も似てくるので、競合ショップが多い」といった問題をクリアしていかなければならない。もちろん、それをクリアすれば「よいショップ」として儲けられるようになるわけだが、それは本格的な「開店」の決意と努力が必要だ。

かといって、もう少しお手軽なアフィリエイトに似たシステムでは価格決定権も小さかったりして、結局アフィリエイトの方がマシということにもなりかねない。

「お手軽にショップを開ける」という仕組みがあったとしても、ショップを運営し、利益を出していくのは決して「お手軽」なことではない。

本質的にドロップシッピングの仕組みを使うということは「開店」するということである(Tシャツデザインを作るというレベルでなければ)。それは、開店の決意があり、店舗経営の努力をしていく人たち、つまりは少数の人たちにしか活用できない仕組みだったといえるだろう。

NHKによる誤った報道、悪質業者の登場

ドロップシッピングという仕組みはわかりにくいのも確かだ。6月21日、NHKの朝のワイドショー型番組「あさイチ」でネットの悪質商法の話をやっているのをたまたま見たのだが、アフィリエイトやドロップシッピング自体があやしいかのような報道をするわ、ドロップシッピングの説明も間違ってるわで最低の内容だった。出演していた「ネットの悪質商法に詳しい弁護士」もその間違いを修正しない。

この番組では、ドロップシッピング業者(DSP)は「ネットショップのホームページを作ってあげたりする」業者だと説明されていた。それはまったく違う。ショップページやショッピングカートを提供する場合もあるが、ショッピングカートは自分で用意しろ(用意しなければ契約しない)というDSPもある。基本的にDSPは「メーカー・問屋」と「ショップ」を仲介する立場である。番組ではその仕組みをまったく理解していないようだった。

逆にいえば、NHKもわからないような仕組みがドロップシッピングであるといえる。そこにつけ込んだ悪質業者が出てきて、それによってあたかも「ドロップシッピングという言葉は詐欺」のような誤解を受けるようになった。マルチや「転売権の転売」、あるいは大半の情報商材のような「ほぼ詐欺」と違って、ドロップシッピングそのものは極めて健全な商売方法である。ドロップシッピングという言葉を使って詐欺を行なっている悪い連中がいるだけの話である。

ドロップシッピング業界に望むこと

ドロップシッピングが健全に発展するためには、まずは仕組みをわかりやすく伝える努力が必要だろう。ドロップシッピングとは「産地・メーカー直送のショップを開くこと」くらいにかみ砕いて理解してもらう必要がある。場合によっては「在庫なしショップ」くらいの言葉の方がよいかもしれない。

一方で、ドロップシッピングの仕組みは、ネットでショップを開きたい人にとっては切実に必要とされている。わたしがアドバイスしている某ショップでは、注文すれば直送をやってくれる問屋を見つけたために、ドロップシッピング形態でのネットショップ開業が可能となった。DSPを経由していないので、商品も独自性が高いし、競合も少ない。先に例示した「楽raku」も、「ネットに支店を出させてください」という勢いでメーカーと交渉して開店したものだ。

今、求められているのは「ドロップシッピング形式ネットショップで商品を販売してほしいメーカー・問屋」と、「ドロップシッピング形式ネットショップを開店したいネット店主」のマッチングを行なう仕組みではないだろうか。つまり、今のDSPが「多メーカー vs 多ショップ」のマッチングを行なっているのに対して、「1メーカー vs 1ショップ」の独占契約を可能にしてくれる仕組みだ。仮にメーカーがネットに自店舗を持っていたとしても、他に1ショップが売ることに専念してくれるなら、決してマイナスにはならない。メーカーショップが楽天で、ドロップシッピングショップがYahoo!やカラメルに出店していても、決してそれは競合とはならない。同じ商品を同じ価格で扱っていても、宣伝方法や問い合わせへのサービスなどによって違いは作れるし、場合によっては出店先によって売れ筋商品が違ってくるということも実際に起こりえる。

もちろん、ドロップシッピングの仕組みを使ってネット開業するのに、直送販売法を認めてくれるメーカーを探し、ねばり強く交渉するくらいの熱意は必要だ、という考え方もできるかもしれない。

いずれにしても、ドロップシッピングの仕組みはわかりやすく説明すべきだし、一方で「素人が簡単にやれるものでもない」、それなりに覚悟のいるものだ、というアピールをすることで、悪質業者を排除できるのではないかと思う。「誰でも簡単」(ただし、基本的に儲からない)なら、すでにアフィリエイトが存在している。

DSPが今ひとつ広がりを見せられなかったのは、本来はショップ開店希望者向けのサービスなのに、アフィリエイター向けのサービスとして展開したことに問題があるのではないか。すでにショップを持っている場合、もしもやリアルを利用するのは逆に面倒だったりもする。

ドロップシッピングというのは、ネットショップ店主にとっては「在庫リスクがない」ゆえに開業資金も抑えられる点で、非常に理想的な仕組みである。それだけに、詐欺師たちのせいで悪印象が植え付けられるのは何としても避けてほしいと思うのである。

おまけ

ドロップシッピングを活用して実際に儲けている人によるイチオシおすすめ本は『月に100万稼げるドロップシッピング』である。タイトルはちょっとアレかもしれないが、内容的には真っ当かつ正攻法のビジネスとして書かれており、決して間違いのないショップ運営に役立つと確信する。

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2010年6月23日18:58| 記事内容分類:ウェブマーケティング| by 松永英明
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