《松永英明のゲニウス・ロキ探索――「場所の記憶」「都市の歴史」を歩く、考える 》はまぐまぐで発行されているメールマガジンです。

No.102:江東区横十間川親水公園の和船に乗る

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◎水曜日の和船

先日、神田川から日本橋川へのクルーズに乗船した後(この話は追って 電子書籍『水の東京・明治~平成版』にて公開予定です)、東京深川モダ ン館に寄りました。こちらは江東区/深川の観光案内のような場所です。

こちらで「江東区あたりで隅田川以外に船に乗れるところはありますか?」 と訊いたところ、毎週水曜日に横十間川(よこじっけんがわ)親水公園で 和船体験ができるとのこと。

天気のよい水曜日で予定の空いている日、というのはなかなか条件が合わ ないかと思いきや、10月6日にちょうどその条件にぴったり合ったので、 現地に向かってみました。

ちなみに乗船料は無料です。
3月~11月は毎週水曜日(水曜日が祝日のときは翌日)
12月~2月は毎週日曜日
10時~13時45分

江東区和船

◎船に乗る

今回はまず東陽町まで地下鉄で、それからバスで錦糸町行き(東22系統) に乗って千田バス停で下り、海砂橋のたもとの「海辺乗船場」に向かいま す。

このあたりが「海砂橋」とか「海辺」という地名なのは、昔、このあたり がほとんど海沿いの運河地帯だったことによると思われます。

橋に着いたのが13時、少々のんびりしていたので寄り道していたら間に合 わないところでした。

乗り場では「和船友の会」の皆さんがのんびりと和船を浮かべています。 今回は一人での参加となりましたが、受付に行くと前後特にいなかったの で一人で一船独占という形になりました。名前と住所(町名まで)を書い て、救命胴衣を付けて、いよいよ木の船に乗ります。

今回の写真はこちら
http://f.hatena.ne.jp/GeniusLoci/No102/?sort=old
古い順に見るとよいと思います。

乗った船の名前は「かるがも」。船の前には解説してくださった河合さん、 後ろに船頭さんと、歌の担当の方が乗ります。貸し切りで豪華な船の旅の スタートです。

ここで乗れる船はいろいろなタイプのものがあり、いずれもかつて実際に 使われていた本当の和船だそうです。その和船にもいくつもの種類がある とのことで、私が乗った「かるがも」丸は「網船」というそうです。

網船の前部の蓋を外して見せてくれました。何か収納できそうなスペース があります。

「この網船っていうのはね、網で魚を捕るんだ。その魚を新鮮なまま持っ て帰りたいってことでね、ほら、ここにいけすを作ってあって、ここに魚 を生きたまま入れて帰るんだよ」 http://f.hatena.ne.jp/GeniusLoci/20101025010705

いけす付きの船!なかなか粋じゃありませんか。

船はけっこう揺れます。揺れるといっても傾いたりはしないのですが、な かなか心地よい揺れに感じたものの、ちょっと怖いと感じる人もいるそう です。

「あの向こうを通ってるのが猪牙(ちょき)船。遊郭まで行くのに、とに かく気が急いて、早く行きたいって若い衆が思ったわけだね。それで、揺 れても何でもいいから、とにかくスピードの出る船を作った。それが猪牙 船なんだ」 http://f.hatena.ne.jp/GeniusLoci/20101025010706

船の種類をおもしろがって聴いていると、次々教えてくれます。どうやら 乗客に合わせて話をしてくださっているようです。

夏以来、東京の川の船にいろいろと乗ってきましたが、橋の下をくぐる感 覚は楽しいものです。今回の和船は往復800メートルを20分というのんびり スピードで、時速2.4キロ、歩くよりもずっと遅いわけです。のんびりと川 面を揺られながらただよっていく感じで、何とも楽しい時間と感じます。

さて、南へ進んで横十間川ボート場近くにやってきます。和船がある日は ボートには乗れないのでご注意(逆にいえば、和船がなくてもボートには 乗れるということです)。

「前にいるのが荷足(にたり)船っていうんだ。荷物の荷に、人の足。つ まり、荷物も人も運ぶ船ってことだね」 http://f.hatena.ne.jp/GeniusLoci/20101025010708

この荷足船にはお母さんと子供が乗っていて、二人とも楽しそうでした。

このあたりでUターンして戻ります。途中で「木の間にスカイツリーが見 えるよ」と教わったので狙っていたのですが、ほんの一瞬だけ木陰に見え て、すぐにビル影に入ってしまいました。

また橋をくぐっていきます。

「あそこに泊まってる船の側面をよく見てね。船を作るときに釘を内側か ら打つんだけど、それが外に飛び出るんだ。それが格好悪いってことでね、 江戸の漁師たちは外から銅をはめた。しかも、その銅を釘のないところに も付けて模様に見えるようにしたんだよね。これが江戸の粋ってことでさ。 その銅がさびると緑青っていって青緑になる。それが船のデザインになっ てるんだ」 http://f.hatena.ne.jp/GeniusLoci/20101025010712

こうしてスタート地点に近いところに戻ってきます。

「向こうに行ってるのが伝馬船ね。ここの和船は4種類ある。また別の船 にも乗りに来てよ」
http://f.hatena.ne.jp/GeniusLoci/20101025010714

20分の船の旅。あっという間に終わったように思われました。 けっこう終了時間に近かったので「もう一回」とは言えませんでしたが、 もう少し早めに来ていたらもう一周していたと思います。

この和船は、もともとは文化財的に江東区が保存していたものだそうです が、ただ保存しておくのはもったいない、乗れるようにできないかと和船 友の会の方が働きかけて、こんなふうに週一回、和船乗船体験ができるよ うになったということです。和船を操船する技術もまた文化財というわけ で、歴史や文化も体感できるよいイベントだと思います。

無料のイベントであり、もちろん案内などもみんなボランティアとのこと ですが、和船を楽しいと思ってくれる人が増えるのが何よりうれしいとの こと。

時間と都合の合う方、揺れに耐えられる方はぜひ乗船を。揺れるといって も「思ったより揺れる」程度であって、ディズニーのなんたらマウンテン みたいなことはありません。聞くところによると、片側の舷に大の大人が 十人座ったとしても、多少傾いたとしても落ちることはないとのこと。と いうのも、和船は木の船なので、自重があって、転覆しないようになって いるそうです。

なお、事前に申し込めば船を漕ぐこともできるようです。詳しくはこちら
江東区 和船乗船体験
http://www.city.koto.lg.jp/seikatsu/douro/7476/7477.html

……さて、この横十間川、実は南北に流れています。そして、少し北には 「竪川」が東西に。縦と横が通常のイメージとは90度ずれているのがこの 江東区(深川・両国)の水路です。これはお城(江戸城)の方を向けば、 西向きが正面となり、縦が東西・横が南北になるのも当然ということにな ります。

この日はこのあと、ぐるりと歩いて行ったのですが、それは追ってご報告 といたします。


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