二〇〇七年十月十七日

山も動く [土佐日記]

 廿二日、昨夜の泊より、異泊りを追ひて行く。遥かに山見ゆ。年九つばかりなる男の童、年よりは幼くぞある。この童舟を漕ぐまゝに、山も行く、と見ゆるを見て、あやしきこと、歌をぞ詠める。その歌、

 「漕ぎて行く舟にて見ればあしひきの
  山さへ行くを松は知らずや」

とぞ言へる。幼き童の言にては、似つかはし。

 今日、海荒らげにて磯に雪降り、波の花咲けり。ある人の詠める、

 「波とのみ一つに聞けど色見れば
  雪と花とに紛ひける哉」

 二十二日、昨日の港から違う港へとたどっていきます。はるかに山が見えます。九歳くらいの男の子がいて、年よりは幼い子がいたんですけど、この子が、船を漕いでいくと山も進むように見えるのを見て、不思議なことに歌を詠みました。その歌は、

 「漕いでいく 船から見れば 山もまた
  動くということ 松は知らない」

と言ったんです。小さい子の言葉としてはぴったりですね。

 今日は海が荒くて、磯には雪のような波が打ち寄せ、波の花が咲いたように見えました。ある人が詠んだ歌。

 「波の音一つだけしか聞こえない
  見れば雪やら花にも見えるよ」

by 紀貫之&松永英明 二〇〇七年十月十七日
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