廿二日、昨夜の泊より、異泊りを追ひて行く。遥かに山見ゆ。年九つばかりなる男の童、年よりは幼くぞある。この童舟を漕ぐまゝに、山も行く、と見ゆるを見て、あやしきこと、歌をぞ詠める。その歌、
「漕ぎて行く舟にて見ればあしひきの
山さへ行くを松は知らずや」
とぞ言へる。幼き童の言にては、似つかはし。
今日、海荒らげにて磯に雪降り、波の花咲けり。ある人の詠める、
「波とのみ一つに聞けど色見れば
雪と花とに紛ひける哉」
二十二日、昨日の港から違う港へとたどっていきます。はるかに山が見えます。九歳くらいの男の子がいて、年よりは幼い子がいたんですけど、この子が、船を漕いでいくと山も進むように見えるのを見て、不思議なことに歌を詠みました。その歌は、
「漕いでいく 船から見れば 山もまた
動くということ 松は知らない」
と言ったんです。小さい子の言葉としてはぴったりですね。
今日は海が荒くて、磯には雪のような波が打ち寄せ、波の花が咲いたように見えました。ある人が詠んだ歌。
「波の音一つだけしか聞こえない
見れば雪やら花にも見えるよ」