二〇〇七年十月十七日

日を望めば都遠し [土佐日記]

 廿七日、風吹き波荒らければ、舟出ださず。これかれ、かしこく嘆く。男たちの漢詩に、「日を望めば、都遠し」など言ふなる事のさまを聞ゝて、ある女の詠める、

 「日をだにも天雲近く見る物を
  都へと思ふ路の遥けさ」

 又ある人の詠める、

 「吹風の絶えぬかぎりし立ち来れば
  波路はいとど遥けかりけり」

 日一日、風止まず。爪弾きして寝ぬ。

 二十七日、風が吹いて波が荒いので、船を出しませんでした。あの人もこの人もひどくため息をつきます。男たちが漢詩で「日を望めば都遠し(太陽は目で見えるが、都は目で見えないからずっと遠い)」とかいう故事を言ってるのを聞いて、ある女が詠みました。

 「太陽でも雲の近くに見えるのに
  都に向かう旅路ははるか」

 またある人が詠みました。

 「吹く風が止まってくれなきゃ波が立つ
  海路はなんてとおいのかしらね」

 一日中風がやみませんでした。縁起直しに指を弾いて寝ました。

by 紀貫之&松永英明 二〇〇七年十月十七日
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