廿七日、風吹き波荒らければ、舟出ださず。これかれ、かしこく嘆く。男たちの漢詩に、「日を望めば、都遠し」など言ふなる事のさまを聞ゝて、ある女の詠める、
「日をだにも天雲近く見る物を
都へと思ふ路の遥けさ」
又ある人の詠める、
「吹風の絶えぬかぎりし立ち来れば
波路はいとど遥けかりけり」
日一日、風止まず。爪弾きして寝ぬ。
二十七日、風が吹いて波が荒いので、船を出しませんでした。あの人もこの人もひどくため息をつきます。男たちが漢詩で「日を望めば都遠し(太陽は目で見えるが、都は目で見えないからずっと遠い)」とかいう故事を言ってるのを聞いて、ある女が詠みました。
「太陽でも雲の近くに見えるのに
都に向かう旅路ははるか」
またある人が詠みました。
「吹く風が止まってくれなきゃ波が立つ
海路はなんてとおいのかしらね」
一日中風がやみませんでした。縁起直しに指を弾いて寝ました。