二〇〇七年十月十七日

阿波を越えて和泉へ到着 [土佐日記]

 卅日、雨風吹かず。「海賊は夜歩きせざなり」と聞きて、夜中ばかりに舟を出だして、阿波の水門を渡る。夜中なれば、西東も見えず。男女、からく神仏を祈りて、この水門を渡りぬ。

 寅卯の時ばかりに、沼島といふ所を過ぎて、多奈川といふ所を渡る。からく急ぎて、和泉の灘といふ所に到りぬ。

 今日、海に波に似たるものなし。神仏の恵み蒙れるに似たり。今日、舟に乗りし日より数ふれば、三十日余り九日になりにけり。今は和泉の国に来ぬれば、海賊物ならず。

 三十日、雨風吹きませんでした。「海賊は夜中は行動しないものである」と聞いたので、夜中のうちに船を出して、阿波の海峡を渡りました。夜中なので西も東もわかりません。男も女もみんな必死で神仏に祈って、この海峡を渡りました。

 午前五時ごろに沼島というところを過ぎて、多奈川という所を通ります。必死で急いで、和泉の灘というところに着きました。

 今日は波のようなものはありませんでした。神仏のお恵みがあったみたいです。今日は、船に乗った日から数えると三十九日になってますね。今は和泉の国まで来たので、海賊なんてこわくないわ。

by 紀貫之&松永英明 二〇〇七年十月十七日
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