「お盆」の版間の差分
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+ | * 日本のお盆では、直接ご先祖様に食事などを供える。自恣日などは関係ない。 | ||
盂蘭盆経においても、死者が霊界から帰ってくるとか、死者の霊をそのまま供養するという考え方は存在していない。 | 盂蘭盆経においても、死者が霊界から帰ってくるとか、死者の霊をそのまま供養するという考え方は存在していない。 |
2009年8月12日 (水) 13:13時点における最新版
お盆は、日本の夏に「ご先祖様が帰ってくる」という民間信仰(アミニズム)をもとにした風習。日本人の多くが、この時期に先祖のお墓参りを口実にして実家に帰省するため、「お盆休み」「お盆の帰省ラッシュ」が存在する。
お盆というのは『盂蘭盆経』というお経がもとになっている仏教の風習だと思っている人が多いが、実際にはお釈迦様とは何の関係もない風習である。確かに語源は『盂蘭盆経』なのだが、この『盂蘭盆経』というお経自体が中国で儒教道徳の影響のもと作られた偽経であり、「お盆」という風習はさらに日本古来のアニミズム信仰が混じって成立した、お釈迦様とは何の関係もない風習なのである。
日本では儒教道徳の影響を受けて、「親孝行」は無条件に「善」であるとされることが多いが、仏教にはそのような思想はない。また、死んだ人は49日の間に次の世界に生まれ変わるため、「先祖霊」「先祖供養」とか「水子霊」といった発想は仏教のものではないのである。今の日本仏教が「先祖供養」「水子供養」を商売にしているのは、本来の仏教とはかけ離れた行為である。
『盂蘭盆経』
「お盆」の名前の由来は、『盂蘭盆経』というお経にある。このお経に基づいて行なわれるようになった行事「盂蘭盆会(うらぼんえ)」が「お盆」と呼ばれるようになった。
「盂蘭盆会は七月十五日に行なう」と指定しているのも、この『盂蘭盆経』である。ちなみに、現在の日本では、お盆は旧盆(旧暦7月15日)またはそれに近い新暦8月15日に行なわれることが多く、通常の「お盆休み」も8月15日を中心として設けられることが多い。ただし、新暦7月15日に行なわれることもある。
というと、お釈迦様がお盆の起源のように思われるかもしれないが、決してそうではない。『盂蘭盆経』は中国で作られた偽経なのである。登場人物こそ仏弟子であるが、インド仏教の思想とは何のゆかりもなく、中国の親孝行の思想が盛り込まれている。大体において、親孝行とか先祖供養とか言い出すのは、本来の仏教ではなく、中国や日本の思想が入り込んだものである。
→盂蘭盆経(全訳)
「盂蘭盆」の意味
この経典を文字通りに読めば、「盂蘭盆」とは要するに「盆」のことであり、僧たちへの捧げものを乗せた「盆」そのものであるということになる [1]。
しかし、伝統的に、盂蘭盆とはサンスクリット語の「ullambana(ウッランバナ)」の音写という説が唱えられてきた。ウッランバナとは「倒懸」と漢訳される言葉で、逆さづりの苦痛という意味になる。あるいは、最近になって、ペルシア系のウルヴァン(urvan=「霊魂」)が原語という説も出ているようである。
ただ、いずれにせよ中国で初めてでっち上げられた偽経なので、そのあたりはどうでもいい。とりあえず「盂蘭盆会(うらぼんえ)」が日本で「お盆」と呼ばれているということは確認できる。
中国の「盂蘭盆経」によるお盆
この盂蘭盆経に基づいて考えると、実は、今の日本で行なわれている「お盆」とはまるで違ったものになる。
- 仏陀の二大弟子の一人である目連が直接、餓鬼道の母親に食事を与えようとしても無理だった。ところが、自恣日(懺悔の会)に参加している仏弟子たちを供養すると、母親は救われた。
- 日本のお盆では、直接ご先祖様に食事などを供える。自恣日などは関係ない。
盂蘭盆経においても、死者が霊界から帰ってくるとか、死者の霊をそのまま供養するという考え方は存在していない。
なお、七世の父母というのは、自分の親からさかのぼって七代という意味ではなく、自分が輪廻転生してきた過去七世のそれぞれの父母ということではないかと思われる。先祖代々と読み取ってはいけない。
したがって、日本の「お盆」は「盂蘭盆経」+アルファであると考える必要がある。
中元との習合
Wikipedia:三元から、中元について引用する。
中元
旧暦7月15日。半年間無事に暮らせたことを祝い、祖先の霊を供養する日。元々道教では、中元は人間贖罪の日として、一日中火を焚いて神を祝う風習があった。これが日本に伝わると盂蘭盆(うらぼん)の行事と習合し、祖先の霊を供養し、両親に食べ物を送るようになった。この習慣が、目上の人、お世話になった人等に贈り物をする「お中元」に変化した。
「祖先の霊」という話が出てきたら仏教ではないと思えばよい。こうして日本の「お盆」に一歩近づいた。
日本の「魂祭り」「盆踊り」
日本の民俗学的には、折口信夫の論考を参照するとしよう。折口信夫の『盆踊りの話』(全文現代語訳)から、ここでは「お盆」に関する重要なポイントをまとめて補足する。
- 日本の伝統では年二回(年末と夏)に「魂祭り」が行なわれた。これは「生魂の祭り」と「死霊の祭り」であり、「お盆」は死霊の祭りに当たる。
- 「祭り」とは本来、死んだ霊をまつるのではなく、死んだ魂をこの身に受けることであった。
- 盆踊りの起源。もともとは「鎮花祭」で、平安時代には疫病を避けるための踊りになっていった。そこから、空也上人の踊念仏が生まれ、時宗の一遍に受け継がれていった。
盆踊りの起源は、空也の「踊念仏」だというのは歴史上の定説である。そのため、盆踊りは仏教起源のものとされることが多い。しかし、空也が踊念仏を始めたのは、日本の伝統(言い換えれば神道的な起源)に根ざしたものであり、決して仏陀の教えに踊念仏があるわけではないという意味では、これも仏教とは関係ないということになる。
このように見てくると、「お盆」というのは今では仏教行事のように思われているが、そのほとんどすべてが仏教とは関係ない起源を持っており、極めて中国・日本的な行事であるということになる。そして、中国の「孝行」と日本古来の「アニミズム」が習合し、仏教的な飾りをつけたもの、と結論できる。
参考文献
- ↑ 赤松考章『「盂蘭盆」考』(高松大学紀要33)