愛宕百韻

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愛宕百韻(あたごひゃくいん)は、本能寺の変の数日前に愛宕山に参詣した明智光秀が行なった連歌の会で詠まれた句。一般に、光秀が詠んだ発句「ときは今天が下しる五月哉」を謀反の意図を込めたものと解釈することが多いが、極めて陰謀論的な根拠のないこじつけである。

陰謀論的には、「とき(土岐氏である明智)が今、天下をしる(統治する)五月かな」と解釈することが多いが、明智氏が土岐氏の分流という説自体の根拠もあやふやで、後からのこじつけにすぎない。

愛宕百韻は、愛宕山威徳院にて、天正十年五月二十四日(1852年)に詠まれた。

参加者

  • 明智家
    • 光秀……明智光秀
    • 光慶……明智光慶(十兵衛)
    • 行澄……東行澄(六郎兵衛)
  • 愛宕山
    • 行祐……愛宕西之坊威徳院住職
    • 宥源……愛宕上之坊大善院住職
  • 連歌師
    • 紹巴……里村紹巴
    • 昌叱……紹巴門連歌師
    • 心前……紹巴門連歌師
    • 兼如……猪名代家の連歌師

全文

初表

  • ときは今天が下しる五月哉     光秀
  • 水上まさる庭の夏山        行祐
  • 花落つる池の流れをせきとめて   紹巴
  • 風に霞を吹き送るくれ       宥源
  • 春も猶鐘のひびきや冴えぬらん   昌叱
  • かたしく袖は有明の霜       心前
  • うらがれになりぬる草の枕して   兼如
  • 聞きなれにたる野辺の松虫     行澄

初裏

  • 秋は只涼しき方に行きかへり    行祐
  • 尾上の朝け夕ぐれの空       光秀
  • 立ちつづく松の梢やふかからん   宥源
  • 波のまがひの入海の里       紹巴
  • 漕ぎかへる蜑の小舟の跡遠み    心前
  • 隔たりぬるも友千鳥啼く      昌叱
  • しばし只嵐の音もしづまりて    兼如
  • ただよふ雲はいづちなるらん    行祐
  • 月は秋秋はもなかの夜はの月    光秀
  • それとばかりの声ほのかなり    宥源
  • たたく戸の答へ程ふる袖の露    紹巴
  • 我よりさきにたれちぎるらん    心前
  • いとけなきけはひならぬは妬まれて 昌叱
  • といひかくいひそむくくるしさ   兼如

二表

  • 度々の化の情はなにかせん     行祐
  • たのみがたきは猶後の親      紹巴
  • 泊瀬路やおもはぬ方にいざなわれ  心前
  • 深く尋ぬる山ほととぎす      光秀
  • 谷の戸に草の庵をしめ置きて    宥源
  • 薪も水も絶えやらぬ陰       昌叱
  • 松が枝の朽ちそひにたる岩伝い   兼如
  • あらためかこふ奥の古寺      心前
  • 春日野やあたりも広き道にして   紹巴
  • うらめづらしき衣手の月      行祐
  • 葛のはのみだるる露や玉ならん   光秀
  • たわわになびくいと萩の色     紹巴
  • 秋風もしらぬ夕やぬる胡蝶     昌叱
  • みぎりも深く霧をこめたる     兼如

二裏

  • 呉竹の泡雪ながら片よりて     紹巴
  • 岩ねをひたす波の薄氷       昌叱
  • 鴛鴨や下りゐて羽をかはすらん   心前
  • みだれふしたる菖蒲菅原      光秀
  • 山風の吹きそふ音はたえやらで   紹巴
  • とぢはてにたる住ゐ寂しも     宥源
  • とふ人もくれぬるままに立ちかへり 兼如
  • 心のうちに合ふやうらなひ     紹巴
  • はかなきも頼みかけたる夢語り   昌叱
  • おもひに永き夜は明石がた     光秀
  • 舟は只月にぞ浮かぶ波の上     宥源
  • 所々にちる柳陰          心前
  • 秋の色を花の春迄移しきて     光秀
  • 山は水無瀬の霞たつくれ      昌叱

三表

  • 下解くる雪の雫の音すなり     心前
  • 猶も折りたく柴の屋の内      兼如
  • しほれしを重ね侘びたる小夜衣   紹巴
  • おもひなれたる妻もへだつる    光秀
  • 浅からぬ文の数々よみぬらし    行祐
  • とけるも法は聞きうるにこそ    昌叱
  • 賢きは時を待ちつつ出づる世に   兼如
  • 心ありけり釣のいとなみ      光秀
  • 行く行くも浜辺づたいひの霧晴れて 宥源
  • 一筋白し月の川水         紹巴
  • 紅葉ばを分くる龍田の峰颪     昌叱
  • 夕さびしき小雄鹿の声       心前
  • 里遠き庵も哀に住み馴れて     紹巴
  • 捨てしうき身もほだしこそあれ   行祐

三裏

  • みどり子の生い立つ末を思ひやり  心前
  • 猶永かれの命ならずや       昌叱
  • 契り只かけつつ酌める盃に     宥源
  • わかれてこそはあふ坂の関関    紹巴
  • 旅なるをけふはあすはの神もしれ  光秀
  • ひとりながむる浅茅生の月     兼如
  • 爰かしこ流るる水の冷やかに    行祐
  • 秋の螢やくれいそぐらん      心前
  • 急雨の跡よりも猶霧降りて     紹巴
  • 露はらひつつ人のかへるさ     宥源
  • 宿とする木陰も花の散り尽くし   昌叱
  • 山より山にうつる鶯        紹巴
  • 朝霞薄きがうへに重なりて     光秀

名残表

  • 出でぬれど波風かはるとまり船   兼如
  • めぐる時雨の遠き浦々       昌叱
  • むら蘆の葉隠れ寒き入日影     心前
  • たちさわぎては鴫の羽がき     光秀
  • 行く人もあらぬ田の面の秋過ぎて  紹巴
  • かたぶくままの笘茨の露      宥源
  • 月みつつうちもやあかす麻衣    昌叱
  • 寝もせぬ袖のよはの休らい     行祐
  • しづまらば更けてこんとの契りにて 光秀
  • あまたの門を中の通ひ路      兼如
  • 埋みつる竹はかけ樋の水の音    紹巴
  • 石間の苔はいづくなるらん     心前
  • みず垣は千代も経ぬべきとばかりに 行祐
  • 翁さびたる袖の白木綿       昌叱

名残裏

  • 明くる迄霜よの神楽さやかにて   兼如
  • とりどりにしもうたふ声添ふ    紹巴
  • はるばると里の前田の植ゑわたし  宥源
  • 縄手の行衛ただちとはしれ     光秀
  • いさむればいさむるままの馬の上  昌叱
  • うちみえつつもつるる伴ひ     行祐
  • 色も香も酔をすすむる花の本    心前
  • 国々は猶のどかなるころ      光慶