物語理論とウェブログ

ウェブログの定義 決定版」は『物語理論事典』のために書かれた解説なので、多少前提知識が必要と思われる。物語理論(narrative theory)というもの自体に馴染みが少ないので、ちょっと調べてみた。

2003年10月14日18:31| 記事内容分類:ブログ/ウェブログ, 執筆・書き方・文章| by 松永英明
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 一番わかりやすいのは、松岡正剛氏(まさに適任)による解説だろう。「松岡正剛の千夜千冊」から、『物語論事典』(ジェラルド・プリンス)の解説として書かれた物語論の概説の一部を引用したい。

 物語(narrative)は基本的には語り手(narrator)が聞き手(narratee)に伝える物語内容(content)と物語言説(discourse)から成り立っている。内容は「何かと誰か」の語り、言説は「いかに」の語りである。
 その内容と言説は物語の複雑多岐性はどうであれ、それなりの物語枠(frame)をもち、物語軌道(narrative trajectry)に乗っている。これが物語の「世界」(diegesis)である。聞き手はこの世界の提示を了解し、これから始まる物語を一貫した出来事の集積であることを受け入れる。つまりその物語には終わり(coda)があることを理解する。
 つまり、ウェブロガーを「語り部(Storyteller)」とみなし、ウェブログを「ものがたり」の一つの形態としてとらえたのが、「決定版・ウェブログの定義」ということになる。であるから、これはむしろ「物語理論によるウェブログの定義・決定稿」と訳すべきだったと反省。この定義の視点は、むしろ一般的なものとはかなり違っている。しかし、こういう視点は非常に興味深い(特にライターとしては)。

 もう少し引用してみる。

 物語の本質は広い意味での「紛糾」(complication)である。その解きほぐしと解決(resolution)である。そのため大半の物語構造は多くの階層や部分や要素でできあがっているのだが、それだけでは物語は機能しない。
 そこで、そうした物語素(classeme)を相互につなげるための連結(linking)、連接(conjoining)、埋め込み(embedding)、交替(alternation)、協和(consonance)、混合(interweaving)、合成(compound)、入れ子(nesting)などの“関係付け”が必要になる。また、それぞれのプロットの並べ方を縫い合わせる手法が要求される。たとえば省略法(ellopsis)、不等時法(anisochrony)、錯時法(anachrony)、後成法(analepsis)、あるいはフラッシュバックやフラッシュフォワード、また会話、モノローグ、間接話法、自由間接話法、無媒介話法などの話法による“関係付け”である。
 長々と引用させていただいた上に、用語だけ並べられてもわからんと言われそうだが、ここで注目したい用語がいくつか見られる。「物語素を相互につなげるための連結(リンク)……、埋め込み、……などの関係付けが必要になる」というのは、ウェブログが多用するリンクやコメント、トラックバックの性質を思い出させるし、「それぞれのプロットの並べ方」といえば、カテゴリ分けと時系列順を併用するMTなどのウェブログツールが最も重視しているポイントではないだろうか。

 これらの手法によって、物語には、その物語を基本的に成立させた語り手と聞き手だけではない“物語内部の語り部”や“内包された読者”(implied reader)をつくりうる。『フランケンシュタイン』で姉に手紙を書いているウォルトン、『嵐が丘』の間借り人、ホームズの聞き役になっているワトソン博士はそうした“内包された読者”であった。
 これらの手法によって、ウェブログには、そのウェブログで形作られる世界を基本的に成立させたブロガーと読者だけではない「ブログ内部の語り部(引用されたブロガー)」や「内包された読者(トラックバックするブロガー)」をつくりうる。

 いや、ウェブログに限る必要はない。これは日記コミュニティや「はてなダイアリー」といった日記系サイト、あるいは相互言及的なテキストサイトでも言えることだ。

物語の本質は広い意味での「紛糾」(complication)である。その解きほぐしと解決(resolution)である。
 いわゆる「テキスト界隈」でもめごとが起こり、またそれを好んで話題にする人が多いのは、物語にとって紛糾が必要だからではないだろうか。そして、各人が好き勝手な「解決」を記す(それがまた紛糾のもととなったりするのだが)。

 日本のインターネット・コミュニティの歴史を、物語理論の視点から振り返るのもおもしろそうだ。


その他の物語論関係リンク・書籍 (◆はウェブサイトへのリンク、■はオンライン書店へのリンク)

■『物語論辞典 増補版 A dictionary of narratology』《松柏社叢書 言語科学の冒険》ジェラルド・プリンス、遠藤健一 ¥3990(税込) 1997/07
■『言説のフィクション Fictions of discourse ポスト・モダンのナラトロジー』《松柏社叢書 言語科学の冒険》パトリック・オニ-ル、遠藤健一、小野寺進 ¥4095(税込) 2001/02
■『物語論の位相 Narratology 物語の形式と機能』《松柏社叢書 言語科学の冒険》ジェラルド・プリンス、遠藤健一 ¥3150(税込) 1996/12

ナラティヴに関する、どこまでも私的な研究ノート NAKAHARA,Jun
◆読後メモ NARRATIVE ANALYSIS - by Catherine Kohler Riessman 1993 (in Boston University) -

■『定本物語消費論』 大塚英志 ¥650(税込) 角川文庫 2001/10
■『動物化するポストモダンオタクから見た日本社会』東浩紀 ¥693(税込) 講談社現代新書 2001/11
■『過去と記憶の社会学』片桐雅隆 ¥2415(税込) 世界思想社 2003/02
社会学におけるナラティヴ・アプローチの可能性――構築される「私」と「私たち」の分析のために―― 菊池裕生・大谷栄一

家族療法の物語論的転回 その社会学的含意について 浅野智彦氏
■『自己への物語論的接近 家族療法から社会学へ』浅野智彦 ¥2940(税込) 勁草書房 2001/06

物語論へのアプローチ(「物語に基づく医療」についての論考)宮坂道夫氏
 ・〈物語〉とは何か
 ・物語的正義
■『物語としてのケア ナラティヴ・アプローチの世界へ』野口裕二 ¥2310(税込) 医学書院 シリーズケアをひらく 2002/06
■『ナラティブ・ベイスト・メディスン Narrative based medicine 臨床における物語りと対話』トリーシャ・グリーンハルシュ、ブライアン・ハーウィッツ、斎藤清二 ¥5040(税込) 金剛出版 2001/10
■『ナラティブ・ベイスト・メディスンの実践』斎藤清二、岸本寛史 ¥4410(税込) 金剛出版 2003/07
■『ナラティヴ・セラピーって何? What is narrative therapy?』アリス・モ-ガン、小森康永、上田牧子 ¥2730 金剛出版 2003/01

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2003年10月14日18:31| 記事内容分類:ブログ/ウェブログ, 執筆・書き方・文章| by 松永英明
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人気のウェブログについてですよ‥ 松永英明氏のblog ウェブログ@ことのは 2 続きを読む

コメント(1)

松永さん、またまた素晴らしい記事を非常感謝であります。実はわたしもweblogへの関心として、「もの語り」をベースに考えています。

■マチともの語り::その一
http://blog.readymade.jp/tiao/archives/000078.html
■マチともの語り::その二
http://blog.readymade.jp/tiao/archives/000079.html
■あなたのマチにはもの語りがありますか?
http://blog.readymade.jp/tiao/archives/000080.html

というような考察から、昨年は「Qストーリー」という九州を舞台としたもの語りの公募サイトを実験。

■Qストーリー
http://www.q-story.jp/

その実績を検討しながら、次の企画へつなごうとしているところでしたので、大変に参考になりました。

最後にもう一度、非常感謝!

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