【絵文録ことのは.】HOME|過去ログ表紙 > [いろいろ] > 百年前の牛丼屋(というか牛鍋店)
別に牛丼という料理が日本から消えたわけではないのだが、「牛丼の吉野家」から牛丼メニューが消えたことは一大ニュースとなった。
吉野家 牛丼の歴史より
そもそも、牛丼のルーツといわれているのは、明治時代に流行った牛鍋の残り汁をかけた丼飯。それまで、牛丼を食べる習慣がなかった庶民の前に登場した牛鍋という料理、そしてその副産物ともいえるメニューが牛丼だったのです。
肉店には三等級ある。旗を店先に翻すのは上等だ。行灯を角に掲げるのは中等だ。障子戸を看板代わりにしているのは下等だ。みな朱で牛肉という二文字を書いている。これは鮮肉を表わしている。
鍋にもまた二等級ある。ネギと一緒に煮るのを並鍋という。値は三銭半。脂で鍋をこすって煮るのを焼鍋という。値は五銭。
一客一鍋、火盆ごと出す。酒を注文する者もあれば、飯を注文する者もいる。火をつければ肉は縮む。
肉を食べるときは和をもって貴しとなす。老人も若いのもこれに従う。もう食べに食べてお腹一杯、体も温まり、佳境に入る。
客は店の二階に座っていた。そのとき、ブタをひいて店の前を過ぎる者がいた。客はこれを見て言った。
「ブタをどうするんだね」
「屠殺場でばらすとこなんだが」
「そいつがフタフタと死地に赴くようなのは見るに忍びないね。牛をそれと交換してくれよ」
その客は肉を味わってなかったのだな。牛とブタが同じなんてことはありえない。
もし牛を屠ったら、その肉も捨ててはいけない。私は叩いて食べるよ。その糞も捨てちゃいかん。カラスの餌にはなるんだから。
これが霊薬として力を発揮するのは味噌にしたときだ。ああ、不老の大薬、ああ、不死の良医。
君、牛よ、私は君に引導を渡そう。君は
君の魂に霊力があるなら、私の愚かさを養って上質の智となし、必ず月に金いくらかを得させておくれ。三年喰ってもまだ官職を得られていない。銭もたまっていない。
また、君は短命を嘆いてはならない。「身を殺して仁をなす」とは君のことだ。死んで人に利益をもたらすならば、どうしてこの世に恨みがあろう。君が老いてカスの中で死ぬよりも、鍋に入って成仏する方がいい。
最近聞いたのだけど、君はときどき美人の口に入るが、それは極楽浄土の往生だ。あるときは英雄の腹に葬られ、あるときは美人の腸に収まる。これもまた縁ではありませんか。もし道路で死んでむなしく腐ってしまうなら、どうしてこんな大葬をしてもらえようか。牛よ、君は吼えてはならない。牛よ、君は嘆いてはならない。私はいろいろはかりごとをめぐらても、まだ大臣にお近づきはできていない。財布をはたいても、まだ美人の手に触れることはできていない。君は死肉のくせに、生きている私よりはるかに恵まれているではないか。私は自分の肉を屠って、君のようになりたいと思うほどだ。そうしたら願いがかなうかもな。しかし、食べる人が私の肉だと知ったなら、必ず吐いて野良犬どもに投げ与えるだろう。果報は寝て待てというが、私はそのときを待つにも至らない。ましてや腹が不平を言ってるぞ。腹が鳴ってゴロゴロ、ああ、牛肉に満足したようだ。
露店を開いて肉を売る者がいる。これを烹籠(にこみ)という。これは肉店に上がることのできない貧乏人相手だ。不精オヤジが水バナをすすりながら作る。竹串で肉を貫き、これを大鍋に入れる。火は常についていて、肉は常に沸いている。一串で値段は文久二孔。オヤジが「にこみあったかい」と呼び込みをする。
店を四通の街に開くときは、必ず人や人力車のよく通るところだ。人力車夫が鍋を囲んでこれを喰う。とにかく群がって、縦食いするものあり、横食いする者あり、あるいは串を争って闘う者もいる。
この肉のことなんだが。毎日屠殺場を回って、その廃肉を買ってくる者が多いらしい。こわばって渋紙のようになっているのは、すでに十日経った肉。柔らかくて豆腐みたいなのは、もう腐ったような肉だ。下汁は鎌倉時代のみたいな古いのがたまってるし、日々古くなっていき、その臭気は鼻をつくようだ。肉はもともと薬食だといっても、これを喰っても効果がないのは藪医者だって知っている。それどころか、屠殺場の廃肉が手に入らなければ、犬・馬の肉を混ぜる者もいるという。餓鬼となってもそんな毒は喰いたくない。もし誤って犬肉を食ったら、開化もたちまち野蛮となり、おそらくは文明人にかみついてしまうだろう。
それでこの店の看板にこう書いてあるのだな。「近頃、我が店の肉に偽の肉がまじっていることがございます。四方からお越しのお客様、その肉の色を吟味してからお召し上がりください」と。
【絵文録ことのは.】HOME|過去ログ表紙 > [いろいろ] > 百年前の牛丼屋(というか牛鍋店)
コメントとトラックバック
このエントリー登録状況一覧
旧URL★
はてなブックマーク ★MM/Memo
新URL★
はてなブックマーク ★MM/Memo
トラックバック(参照元逆リンク)用URL
この記事へトラックバックする場合は、このトラックバック用URLを、あなたのウェブログ等の投稿ページの「トラックバック先のURL」欄に入れて更新してください。
トラックバックが重複しても削除依頼コメントは不要です。見つけ次第適当に消します。
こちらの記事へのリンクのないトラックバックは受け付けていません。無関係な記事からのトラックバック、宣伝のみのspamトラックバックは削除することがあります。
記事内容と関係のないコメントは削除します。
コメントならびにトラックバックについては、「管理人がこのブログには必要ないと判断した」というだけの理由で断りなく削除することがあります。
コメント(ご意見・ご感想)を投稿する