イギリスに「萌島」と翻訳される島が実在した

 イギリスに「萌島」と訳される島が実在したという「萌島 - 白爛日報 ver. blog」(台湾香港のブログ記事)からの小ネタ。小さな島だが、案外有名かもしれない。日本では「マン島」と呼ばれているのが「萌島」だ。その語源もたどってみた。

2005年9月16日13:38| 記事内容分類:世界史, 地理・地誌, 言葉| by 松永英明
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マン島は萌島だった

マン島 (マン島語:Ellan Vannin または Mannin; 英語:Isle of Man または Mann) は、グレートブリテン島とアイルランドに囲まれたアイリッシュ海の中央に位置する淡路島ほどの小さな島。首都はダグラス (Douglas) 。人口は約8万2000人。

 日本語ではこのように書かれているだけで、萌島という話は出てこない。ところが、Wikipedia中国語版では事情が変わってくる。

曼島(Isle of Man或是Mann,香港译為萌岛,台湾译為曼岛,有時又會直接意譯為人島),是一個位在英格蘭與愛爾蘭間的海上島嶼,是英國的皇家屬地。此島的自治政府有著長遠的歷史,他們在公元10世纪就已經有自己的国会,首府為道格拉斯(Douglas)。

 冒頭部分を訳すと、「曼島(Isle of ManあるいはMann,香港では萌島、台湾では曼島とし、直接意訳して人島とすることもある)」ということである。広東語で「萌」は「マン」と発音するのでそういう訳でもおかしくない。というか、「萌え」とはまったく関係ない。

萌島の名称の由来はモナだった?

 中国語版Wikipediaには「直接意訳して人島とすることもある」とあるが、実はMannは「人=man」が語源ではない。調べてみたところ、マン島の語源についてはいくつかの資料が見つかった。

19世紀の記述

 1811年にロンドンで刊行された"AN ACCOUNT OF THE PAST AND PRESENT STATE OF THE ISLE OF MAN"(『マン島の過去と現在の状況についての記述』GEORGE WOODS著)の第1巻第1章では、冒頭でマン島の名称の語源についてこのように論じられている。

 この名称の由来についての語源学者たちの見解は一致していない。ウィルソン主教によれば、これはManningの省略形で、その現在のManksという呼び方はマンクス語で「囲まれている」を意味するという。この島は他の土地に囲まれているからである。また、充分な権威があるわけではないが、カエサル(シーザー)がこの島の住人を呼ぶのに使ったと推測される「モナ(Mona)」に由来するという人たちもいる(1)。モナとモノイダ(Monoida)は、プトレマイオスによってアイルランドの島に分類されており、プリニウスはモナとモナピア(Monapia)がアイルランドとブリテン島の間にあると述べている(2)。タキトゥスの描くモナは、間違いなくアングルシー島(Anglesey)のことだ。その『年代記』では、スエトニウス軍の歩兵が本土から平底の船で渡っていく状況や、馬が浅瀬の道を渡っていったり、泳いでいったりする状況が描かれているからである。それから、アグリコラ将軍の伝記で、この将軍麾下の軍が船を使わずに海峡を渡り、その行為の大胆さによって住民を震え上がらせ、たちまち降伏を申し出た、と描かれている。

 おそらく、モナとマンという言葉は、どちらも古代ブリトン語のmônに由来し、「孤立しているもの」という意味であろう。

(1)カエサル『ガリア戦記』第5巻13章“Alterum (latus Britanniae) vergit ad Hispaniam atque occidentem solem: qua ex parse est Hibernia, dimidio minor, ut estimatur, quam Britannia: sed pari spatio transmissus, atque ex Gallia est in Britanniam. In hoc medio cursu est insula quae appellatur Mona: complures praeterea minore. objectm instulae existimantur.”((ブリタニアの)もう一方の側はヒスパニア(スペイン)と沈む太陽の方に向いている。そちら側にはヒベルニア(アイルランド)がある。それはブリタニアの半分以下であると思われる。しかし、それはガリアからブリタニアまでと同じくらいの距離がある。この途中にモナと呼ばれる島がある。さらに、多くの似たような島が反対側にあると思われる。)

(2)プリニウス『博物誌』第4巻16章“Inter Hyberniam ac Britanniam' Mona, Monapia, Ricnea, Vectis, Silimnus, Andros.”(ヒベルニアとブリタニアの間には、モナ、モナピア、リクニア、ウェクティス、シリムヌス、アンドロスがある。)

 モナといっても語源は「おまえらも暇な奴らだなあ」ではないので注意。

水と関連?

 上記記事が掲載されているのと同じサイトにA Manx Note Bookというコーナーがあり、そこにOrigin of the name Man(マンの名前の由来)というページがあるので、ここも参考までに訳してみた。

 マンという名称は、カエサルの『ガリア戦記』で、アングルシー島とマン島の両方を、マンという名称に対応するラテン語名「モナ」として言及しているほど、たいへん古いものである。海の真ん中にあるというこの島の解説は、まさにマン島を指している。後世のプリニウスは、やはりモナとしてマン島のことを記している。

 多くの著者たちがこの名称の語源を考察した。18世紀初めのウィルソン主教はこのように述べている。

マン島はおそらく、サクソン語「mang(=among、囲まれた)」から今まで変化したものだ。というのも、イギリス王国、スコットランド、アイルランド、ウェールズからほぼ同じ距離のところにあるからだ。それゆえ、隣国はMancks-men(マンクス人)、Mancks-language(マンクス語)などと使っている。

 この島へのサクソン人侵入が過去に起こったことは確かなのだが――オールド・マン・オブ・コニストン山といった地名に使われていることからManは「孤立」「離れている」といった言葉と同系列であると考える人たちもいる。イングランドの一部に定住した古代スカンジナビア人のケルン(石塚)やそれに似たものを指すのに「man」が使われることは、遠くから見えるケルンの説明として「false man(偽りの人)」と呼ぶような用法から来たもので、おそらく関係がないだろう。

 アイルランドの地名学者は現在、マンとマナナン(Mannanan、海神の名前)はどちらも水に関係しているというふうに方向転換しつつある。つまり、Manは「水際」という意味となる。これは、カエサルがアングルシー島を名付けてマンと呼んだもの、あるいはアイルランド海の海岸近くの地名といった両方のManについての説明となっている。

 まあよくわかってはいないが、「孤立」または「水際」がManの語源だということである。別にメイドさんや猫耳の人が多かったから萌島となったわけではない(といちいち断らんでも)。

おまけ

 ちなみにマン島は一部では有名ではないかと思われる。同じく日本版Wikipediaから。

 島の公道を使って一周60kmを走るオートバイレース、マン島TTレース(世界選手権からは除外)は、世界最古の公道レース、また世界でもっとも歴史の長いオートバイレースとして有名。また、マン島は保存鉄道でも知られる。保存鉄道は、蒸気機関車、アプト式登山鉄道、狭軌の電車の3系統がある。

関連リンク

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コメント(2)

はじめまして、真嗣(しんじ)です。
ブログご来店本当にありがとうございます。

この機会でブログを拝見させていただきます。
このブログは本当にすごいと思います。
記事は多いし、範囲も広い
ほんとうにすばらしい

実は、私は香港人です
私とブログも香港にいます (w

これからもよろしくお願いします。私、日本語下手だけど…

マン島に棲む猫で尻尾が無いものをマンクス
と言って一つの種類の様です。それと、私の
仕事場の近くにあるカレー&バーの店で、
ヒュッテ マンクスと言うのが有り、とても
美味しいので、お勧めです。店長さんが、
猫好きでこの名前にしたらいいです。http://manx.yoyogi.cc/

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