戦略思考の本質を探る二冊――しかし戦略思考を超える必要もある

 書きそびれていた書評を今年の締めくくりに。

 今回は、二冊の「戦略」に関する本についての書評である。

2005年12月30日15:41| 記事内容分類:戦略・戦術, 書評| by 松永英明
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戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ

戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ
日本経済新聞社
野中 郁次郎(著), 戸部 良一(著), 鎌田 伸一(著), 寺本 義也(著), 杉之尾 宜生(著), 村井 友秀(著)
発売日:2005-08-06
売上ランキング:92
おすすめ度:おすすめ度:3.08
おすすめ度:4前作は読んでませんが...
おすすめ度:3ビジネスへの適用は難しい
おすすめ度:3『失敗の本質』には及ばないが・・・
おすすめ度:4戦略について考える、ということを提起する書
おすすめ度:4戦略論にみる目的の明確化

 民主党ブロガー懇談会のときに、[R30]さんが「10月31日の参加者の方々には、課題図書としてこの9月に出たばかりの野中郁次郎ほか著『戦略の本質――戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』という本を挙げておきたい。書評は後ほど。当日、ちゃんとこれを読んで原稿用紙2枚以内に感想をまとめてくること」と書いていたので、当日紀伊国屋で購入し、国会図書館の入り口の椅子に座って読み始めたのだった。

 自分自身、戦略とか戦術は大好きで、PCゲームでも、やりこんだといえば「信長の野望」「天下統一」「大戦略」といった戦略・戦術シミュレーション系のものばかり。最近のオンラインゲームならオリジナルシナリオも作れる「戦国史」がオススメ。という人間なので、こういう本はもともと大好きなのである。

 読んでみてすぐにわかったが、これはブロガーじゃなくて民主党議員さんの必読書という意味だった。『戦略の本質』は、劣勢に追い込まれた側がいかにして優勢な陣営を打ち破ったかという「逆転の戦略」まとめた本。「二大政党」どころか「野党第一党」に落ち込んだ民主党が逆転を狙うならば本気で取り組むべき書物、という意味でR30さんは課題図書に指定したのだろう。

 目次を抜き出すと、以下のとおり。第2章から第7章が具体的事例となっており、ここが非常に興味深く、またデータ的にも重要なものとなっている。

  • 序 章 なぜいま戦略なのか
  • 第1章 戦略論の系譜
  • 第2章 毛沢東の反「包囲討伐」戦――矛盾のマネジメント
  • 第3章 バトル・オブ・ブリテン――守りの戦いを勝ち抜いたリーダーシップ
  • 第4章 スターリングラードの戦い――敵の長所をいかに殺すか
  • 第5章 朝鮮戦争――軍事合理性の追求と限界
  • 第6章 第四次中東戦争――サダトの限定戦争戦略
  • 第7章 ベトナム戦争――逆転をなしえなかった超大国
  • 第8章 逆転を可能にした戦略
  • 終 章 戦略の本質とは何か――10の命題
    • 命題1 戦略は「弁証法」である
    • 命題2 戦略は真の「目的」の明確化である
    • 命題3 戦略は時間・空間・パワーの「場」の創造である
    • 命題4 戦略は「人」である
    • 命題5 戦略は「信頼」である
    • 命題6 戦略は「言葉」である
    • 命題7 戦略は「本質洞察」である
    • 命題8 戦略は「社会的に」創造される
    • 命題9 戦略は「義」である
    • 命題10戦略は「賢慮」である

 不利な立場に追いやられた陣営は、物量ともに勝る優勢な陣営と真っ正面から戦えば、単につぶされて終わりである。それはランチェスターの法則からも明らかだ。

 しかし、どのような目的を果たすために、どのような部分を思い切って切り捨て、どのような成果を上げるか、と思考し、それをねばり強く遂行するならば、逆転のポイントが見えてくるのである。

 優勢な軍隊で勝つのは当たり前、と思うかもしれない。しかし、優勢な軍隊が優位を保つこともまた難しいのである。言い換えれば、いかに劣勢であっても、敵の優位を崩すことは不可能ではない。そのためにはどうすればいいかという戦略が、この本で学べる。

 劣勢な軍勢は必然的に守りの体勢にならざるをえない。そこで、守りに徹するなら、いかに攻撃側の損害を大きく、味方の損害を小さくするか。あるいは無駄な所にばかり攻撃させるか。攻撃軍をいかに分断して各個撃破するか……。こういった戦略的思考が逆転を可能にするのである。

 終章の命題はやや抽象的なきらいもあるが、逆転戦略の本質はたしかにここにきちんと描かれているように思う。そして、戦略なくして戦う者には、破滅しか残されていない。

最強!戦略書徹底ガイド

最強!戦略書徹底ガイド
ソフトバンククリエイティブ
有坪 民雄(著), 守屋 淳(著)
発売日:2005-11

 さて、こちらは先月、編集者の方から送っていただいた本。最近作った本だということで、私が戦略ファンであることはご存じなかったはずだが、手にしてすぐに読み始めた。

 77のコラムで戦略書が紹介され、さらに参考文献も豊富に盛り込まれている。内容的には孫子やクラウゼヴィッツに代表される軍事戦略書と、経営戦略書がともに区別されることなく盛り込まれている。重要な戦略書はこの一冊で概観できる便利なガイドブックだ。

  • 第1章 『孫子』とその影響圏
  • 第2章 悪と対峙する戦略
  • 第3章 東洋の戦い方、日本の戦い方
  • 第4章 ナポレオンとその影響圏
  • 第5章 革命のもたらした悲喜劇
  • 第6章 戦略はビジョンに従う
  • 第7章 カイゼンの道は改革につながる
  • 第8章 成功する組織に秘訣はあるのか
  • 第9章 めざせ、経営学のメルクマール!
  • 第10章 二十世紀の戦い方―ゲリラ、テロ、核、封じ込め

「ビジネスマンに必要なのは戦略だ!孫子から堀江貴文までを徹底解剖!毛沢東、コトラー、マルクス、小倉昌男、野中郁次郎、キッシンジャー、クラウゼヴィッツなどなど…戦略のエッセンスがここにある」という帯の文句には偽りはない。まさか『腹腹時計』まで載っているとは思いもしなかった。

 ただ、全体にやはり散漫な感じは残る。記事は著者の主観に立った解説が主となっており、百科辞典的というよりは戦略書をテーマにした講義を聴いているような感じにまとまっているわけだが、やはり章テーマの分け方にもう一工夫ほしかったというところだろうか。

 個人的には、軍事戦略を安易に経営戦略として読むことにはあまり賛同できない部分もある。もちろん、孫子の兵法は経営の場面でも生きることはあるし、ランチェスターの法則を経営的に生かしたという例もある。しかし、軍事と経営では目的が異なる。つまり、経営では必ずしも「敵に勝たなくても別の次元で勝利を収める」ということもありえるわけで、勝つか負けるかだけの世界ではない。勝つか負けるかの世界においては兵法も役立つだろうが、それ以外の枠組みも必要だろうと思うのだ。

 それはさておき、素直に東洋の軍事戦略、西洋の軍事戦略、現代の軍事戦略、経営戦略、といった流れで時系列順に紹介してもらったほうが、戦略思想の流れもかえってつかみやすかったのではないかと思う。ソフトバンクの孫正義氏の「孫の二乗の法則」も、孫子の兵法の枠組みで第1章に入るよりは、経営戦略の流れの中で見た方がわかりやすいところもあるのではないか。

 もっとも、共著者の中国文学者・守屋淳氏が孫子の兵法と経営戦略を結びつけた書籍を多く書いていることもあって、そのあたりは守屋氏の色が出たということなのだろう。

 あと蛇足的に言えば、「カイゼン」などの経営戦略用語が解説なく用いられているのも気になった。読者層的に知っていて当然の用語なのだろうが……。

 とまあ、少々気になった部分もあるのだが、この本はやはり一度は通読すべき本である。世の中には「クラウゼヴィッツが正しくてジョミニは原則論だ」とか、「孫子最強」みたいなことを言い出す派閥的な人たちもいるのだが、これだけの戦略書を概観すれば、すべての場合において通用する戦略などありえないということがよくわかる。

 それをふまえて守屋さんのあとがきを読めば、ここに三つ挙げられている「個々の戦略を生かすためのベースとなる原則」が非常に納得できるものと思われる。

  • すべての戦略には使うべき状況がある
  • 理論は現実に適用したさい、ほとんどの場合に齟齬が出る
  • すべての状況に、唯一正解となる戦略があるとは限らない

 当たり前といえば当たり前なのだが、手法においてはやはり「臨機応変」が最大の戦略なのではないかと思われる。つまり、現状で最適な戦略を選び続けること。それができるかできないかが、成否を分けるはずである。流行だからといってある戦略をまねしたり、状況が変わったにもかかわらず同じ戦略を採り続けるのは、明らかに失敗への道だということだ。

 言い換えれば、フォームを保つべきところは保ち、変化すれば素早くそれに対応して変える、という態度が必要だということになる。そして、そのフットワークが軽いところは、確実に波に乗ることができるだろう。

戦略思考を超える

 ところで、先ほども少し書いたが、少なくとも経営においては「敵に勝つ」という思考ではなく、それを超えた次元、戦わなくてもいい次元というものもあり得るはずである。その場合、敵を打ち負かすための策略である軍事戦略はあまり役に立たない。もちろん、孫子の兵法は「確実に勝てる状況を作れば勝てるのだから、そういう状況を作れ。それができていないうちは戦うな」という理論だから、単に衝突部分で有利になるという視野の狭いものではなく、むしろ全般的な国家運営そのものが問われたりするわけだが、そもそも戦う必要のない経営というのもありえるわけである。

 たとえば、ニッチなジャンルを攻めるというものだ。用語的にはニッチ戦略というような言葉も使われるが、この場合の戦略は「運営方針」という意味でとらえるべきだろう。表だってはいないかもしれないが、それなりの範囲でニーズがあり、しかもまだ誰も手をつけていないジャンルを見つけ、そのジャンルを押さえる。ここには別に競争も競合もなければ、奪い合いもない。ただ必要とされていたものを提供するだけで成功がある。

 私自身のウェブサイトも、ニーズがあるはずなのにそういうサイトがない、というところを押さえて延びてきた。女子十二楽坊、はじめてのウェブログ、いずれも自分がほしいと思った情報がネットにあまりないということで、じゃあ自分で集めてみよう、自分が必要なら他にも必要な人がいるだろう、とサイト化したものである。

 何か話をしろと言われるといつも言っていることだが、私はgoogle検索で調べ物をしていて、いい資料が見つからないとき、「やった!」とガッツポーズが出る。必要があって調べているのに、それに関する資料がないということは、それに関するサイトを作ればいきなり「ネットでの第一人者」になれるということだからだ。ネットに資料がないが、書籍ならある、という場合も、ネットに最初に紹介すればいい。英語しかないなら、日本語で紹介する最初のサイトになれる。そして、ある程度の情報を蓄積し続ければ、その地位は揺るぎないものとなる。

 ここに、広い意味での戦略はあるが、「敵から奪う」とか「敵を打ち負かす」という発想はない。自分としては、シェアを増やすよりは、業界全体のパイを広げるという方が好きだ。シェアが同じでも、業界全体の売り上げが伸びれば、自社の売り上げも伸びているはずである。別に同業者同士食い合う必要もない。

 また自分の本の宣伝かと言われるかもしれないが、拙訳書『お金持ちになる科学』には、「競争の次元を超えて、創造の次元に入れば、必要なものはすべて自然に与えられる」という理念が説かれている。まあこれは一種の信仰ととらえてもらってもいいと思うが、資源・財産は一定の枠内で取り合うものではなく、必要ならば無尽蔵に与えられるものだ、という根本的な発想の転換がある。「あいつが金持ちになったら、自分の取り分が減る」と思った段階で、その人は創造の次元に到達できない。やり方の好き嫌いではなく、お金儲けをしているということだけでひがんだり嫉妬したりしている人は、決して豊かになれない。

 もちろん、敵対的攻撃をかけられたときには、軍事戦略に基づく経営戦略も必要だろう。しかし、根本的な原則として、競争を超えた発想による経営が最強であることは間違いないだろうと思う。

 ……ということでAmazon検索をしていたら、こんな本に人気があるようだ。

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する
ランダムハウス講談社
W・チャン・キム(著), レネ・モボルニュ(著), 有賀 裕子(翻訳)
発売日:2005-06-21
売上ランキング:55
おすすめ度:おすすめ度:4.21
おすすめ度:5”ブルーオーシャン”にたどりついた軌跡を追体験すると効力倍増
おすすめ度:4QBカットはブルーオーシャンだったのか・・・
おすすめ度:4「あおい海」は素敵だった
おすすめ度:4どこで戦うか
おすすめ度:4ポジショニング論の言い換えですね

 「新市場を創造する戦略の体系化」をテーマにしているという本書は、非常に興味深い。また、このようなテーマの本が売れているというのも、「競争型戦略」の限界に多くの人が気づいているからではないかと思う。この本は未読だが、近々読んでみたいものである。

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