関西人250人に聞きました。「やが」という関西弁はほとんど使われてないんやけど。

 いわゆる関西弁の特徴の一つとして、断定の「だ」が「や」になるというものがある。「そうだ」→「そうや」、「なぜだ」→「なんでや」といった具合である。これで関西風の表記になりそうや。

 しかし、どうにも違和感があったのが、たとえば雑誌に載っているダウンタウン松本の連載記事の中で、もちろんいつもの松本の言葉に近いのだが、←今ここで使ったような「だが」を「やが」と書いていることがあったりする。それ以外にも、雑誌やスポーツ紙などで使われるメディア関西弁では「だが」が「やが」と書かれていることが非常に多い。

 そして、関西弁風のブログなどでも「やが」という言葉が使われていることがある。

 ところが、自分は「やが」という言葉を使ったことがないのである。「近いんやけど」とは言っても「近いんやが」とは絶対に言わない。そのため、「やが」というのは関西弁もどきの書き言葉ではないかと考えた。

 そこで、人力検索はてなで簡単なアンケートをとってみたんやが……(←こういう「やが」がニセっぽい)

2007年2月18日12:50| 記事内容分類:言葉| by 松永英明
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経験上の仮説

 大阪北部出身の女の子からのメールで「やが」が使われていたことが一度だけある。あと、その表記を見たことがあって名前を覚えているのは、ダウンタウン松本と宮崎学。それから、スポーツ新聞のコラムみたいなところでよく見る気がする。あとはブログ等でたまに見かけることがある。しかし、話し言葉としては聞いた記憶がない。

 「やが」が含まれているとはいえ、「それ、変やがな」は別の言葉であって逆接ではないので、ここには入れない。とすると、「やが」はまったく使うことがない。

 そこで、経験上、こんなふうに推測していた。

  1. 北摂~阪神間あたりの摂津弁では使うのかもしれない。
  2. 話し言葉ではなく、関西弁書き言葉として使う人がいるのかもしれない。
  3. 関東出身のライターが話し手に合わせて関西弁っぽく書こうとして作り出したニセ関西弁かもしれない。

 そこでアンケートをとってみたわけである。

「……だが」(「歩いたのだが近かった」のような逆接の意味)の関西語表現として「……やが」(「歩いたんやが近うてなぁ」)と書く人がいますが、自分(奈良弁)は違和感があります。「歩いたんやけど」なら言いますが、「やが」は言わない。

そこで下記の選択肢に当てはまる関西弁ネイティブの方にお伺いします。「やが」って言いますか?違和感ありますか?

 その結果はあまりにも圧倒的なものだった。

関西人は「やが」と言わない

 結果はこのとおり。

yaga1.jpg

 母集団が250人しかなく、また厳密な統計とも呼べないが、この結果は圧倒的であり、またいたずらも少ないと思われる。

 少し使うこともあるというレベルの人まで含めて、「やが」を使うと答えた人は15.6%。「やが」をメインで使う人だけに限定して合計すると5.2%にしかならない。

 一方、「やけど」しか使わないという人は71.6%。たいがい「やけど」や「他の言い方」を含めて、「やが」をほとんどあるいはまったく使わないと答えた人が合計で90.4%にのぼった。

 つまり、「やが」という言い方は極めて劣勢である。「納豆を食う関西人」の割合よりもはるかに少ない(俺は食わん)。

地域性は関係あるかもしれない

 さて、同時に「何弁をしゃべる人か」も聞いた。

yaga2.jpg

yaga.jpg

 複数回答。神戸弁と京言葉が多いような気がするが、まあまあ分散している。ちなみに、香川・愛媛・徳島・淡路といった四国方面や、若狭・福井などの北陸方面、あと伊勢・志摩あたりも入れたかったが、はてなのシステムの制限で京阪神中心の分布となった。

 解説しておくと、「関西弁」という言葉はない。ないと言うと語弊があるが、関西弁というのは関西圏で話されている言葉の総称であって、具体的にこれぞ関西弁という言葉はない。他地域の人は京都も大阪も区別がつかないようだが、大阪だけでも摂津・河内・和泉でまったく違うし、和泉の中でも岸和田弁は日本一汚い言葉だと大阪人が言うくらい違う。和歌山弁も奈良弁もまったく違うし、京言葉と南山城はまた違ってくる。神戸弁は大阪弁とかなり違い、奈良と神戸の人が話すと言葉遣いの違いが際だってくることが多い。さらに明石の方の播州弁はまた違っているし、丹波の方でも篠山や福知山などかなり毛色が違ってくる。いわゆる「関西」といっても大きく違うのである。

 さて、言葉別の「やが」使用率をグラフにしてみたのがこの図である。

yaga3.jpg

 事前の直感的予測どおりの結果が出て驚いた。

 少ないが「やが」しか使わん、「やけど」は使わん、という人たちが多かったのが摂津・船場・丹波の3地域。つまり、大阪北部から兵庫県南東部・東部にかけて「やが」を使う地域が固まっている。つまり「摂津方面には、やがを使う人がおるんとちゃうやろか」と思った私の直感は見事的中していたわけだ。ただし、丹波は母集団が少なく、誤差の可能性もある。

 河内と奈良の2地域は非常に似た分布を示す。「やが」だけで使う人は少ないが、「やが」を使うことが多い人が8%程度。しかし、第一グループよりはかなり「やけど」が優勢になってくる。

 第3グループは南山城と神戸・播州。「やが」専属はほとんどなく、「やが」を少しでも使う人たちを合わせて2割前後のグループである。南山城と神戸・播州はそれぞれ摂津の東西に位置し、「やが」圏の周辺という感じになる。

 第4グループは京言葉と和歌山弁の「やけど」圧勝地域。京と和歌山では「やが」を少しでも使うという人たちがほとんどみられないのが特徴だ。

 最後の第5グループは泉州・江州。周縁地域というか「その他」が多く、やが・やけどとは別の言語的グループに入るように思われる。

年齢と性別

 性別による大きな違いは有意差というほど見られないように思われるが、「やが」しか使わない人は男性に多いような気もする。「やが」より「やけど」の方が柔らかく感じられるのもその一因だろうか。

 年齢別でいうと、これも母集団が少ないので断定はできないが、若年層の方がやや「やが」を使う率が高いように思われる。50代・60代では全員が「……やけど」しか使わんと答えた。「……やが」しか使わんと答えたのは30代以下。ただ、スポーツ新聞や週刊誌などでは50代以上の人たちのコメントにも「やが」が使われていることが多く、「若者言葉」とは言い切れない。ここは有意差と認めるには苦しいだろう。

結論

 母集団が少なく、調査としても不十分ではあるが、関西圏では圧倒的に「やけど」が「やが」より多いということがわかった。

 地域的には摂津を中心に「やが」利用者が見られ、そこから離れるに従って「やが」率は下がっていく。言語学的によくある推論をするならば、もともと「やけど」表現が関西圏に存在しており、後に摂津・丹波を中心として「やが」表現が登場した、ということになる。

 また、マスコミでの関西弁表記において、「……だが」を単純置換しているために関西弁ネイティブでなくても使いやすい「……やが」は、柔らかい「……やけど」に比べて硬い言い方であり、また字数を減らせるために利用されている可能性がある。

 というわけで、国語学や言語学をやっている人にこの辺の調査をきちんとやってもらえると面白い結果が出るような気がするんやけど。

補記(23:20)

ブックマークコメントやコメント欄などの反応では、「関西語書き言葉表現ではないか」という意見が多く見られ、それはかなり説得力があると思う。特に「Fragments of My ImagiCnation - 「~やけど」vs.「~やが」」の考察は深いと思う。

標準語の場合は話し言葉とは別に書き言葉の「正書法」が確立しているので、書き言葉に近い「だが」をテレビのナレーターがしゃべっても違和感はないくらいになじんでいるとも思える。しかし、関西語書き言葉というのは特に確立されておらず、多くの場合は会話文が関西弁、地の文が標準語というものだろう。そうでないのはごく例外的で、すべて関西弁で書かれたものは少ないだろう。たとえば松本人志のコラムにしても、スポーツ新聞のコラムにしても、「硬めの語り口調」で書かれている。だからこそ現代の文章表現で許容されるのではないかとも思える。ところが、そこに「完全な書き言葉」である「やが」が紛れ込むと、非常に違和感を覚えることになるのではないだろうか。

ただ、「やが」は決して存在しないわけでもない、と思い出した。「そういうふうに言うこともあるんやがなぁ」と発話する人はいるように思う。自分では言わないが。で、そのしゃべり方はやはり摂津のイメージがある。ただ、「あるんやが、どうこう」というふうに接続の形で使われることは、話し言葉ではほとんど絶無のような気もする。

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コメント(6)

標準語でも、会話で「……だが」はほとんど聞かないと思いますよ。

私は神戸ですが、やはり「やが」は使いません。しかし上の方も言っておられますが、標準語でも話し言葉で「だが」はあまり使わないのではないでしょうか。丁寧語の「ですが」を使う必要の無い友人や家族と話すときにちょと突き放した、冷たい感じの「だが」を使うでしょうか。やはり関西弁の「やけど」に相当する「だけど」をつかうのではないでしょうか。

Σ:)<バリバリの関西人ですが「~やが」つかいますかねぇ、オヤジは使います。「やろが」かも。「河内言葉」なんじゃろか。滋賀の東近江はどうなんだろ。大阪弁と滋賀弁と奈良弁、違いますなぁ。ナイトスクープのアホバカ分布によれば、境目は滋賀。で、新潟の一部は京都弁っぽいらしいです。なぜなら、島流しの刑にあった人たちがコミュニティを作っていたらしいです。わはは。

「やが」は岡山人がよく使う。
語用としては否定ではなく「××だろう(だったろう)」という相手に同意を求める断定的なニュアンス

「やが」は岡山人がよく使う。(私は関西人だが、岡山の会社にいた)
否定的ではなく、「××だろう(だったろう)」という相手に同意を求める断定的なニュアンスだが、違うかもしれないという逃げも含まれていたようだ。

はじめてこのページを見たんですけど、なかなかおもしろいですね。
そやけどいっこものすご気になるとこがあったので書込みします。「何弁をしゃべる人か」のアンケートのとこですけど、【京言葉】という項目があります。
【京言葉】というのはいわゆる「~どすえ」に代表される言葉で、舞妓はんとか旅館とか職業的に特定の人、もしくはかなり高齢の方しか使いません。
なので、ここでは【京都弁】とするのが正しいと思われます。【京都弁】という項目がなかったため【京言葉】を選択するしかなかったという状況だと思われます。
ちなみに一般人で「~どすえ」を日常使う人って現在なら70才以上の方のそれも一部ではないでしょうか。

【京言葉】が古い言葉であり、現在ほとんどの京都人が使わない言い回しがとても多いので、現在の話し言葉は【京都弁】と区別していただく必要があると思います。

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このページは、松永英明が2007年2月18日 12:50に書いたブログ記事です。
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