「人力検索はてな」でブロガー殺害容疑者の質問に答えていた

株式投資家でもあり、タイで生活していたブロガー「安田誠」さんこと棚橋貴秀さんが殺害されるといういたましい事件があった。その事件に関わったとされる容疑者が、「人力検索はてな」で質問を繰り返していたという。実は、わたしはその容疑者の質問に回答していた。それは事件が起こる2週間前だった。

2008年8月27日01:35| 記事内容分類:ウェブ社会, 日本時事ネタ| by 松永英明
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安田誠さん

お悔やみ申し上げます。

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人力検索はてな

この件について最も詳しい報道は、この記事だろう。――livedoor ニュース - タイの人気ブロガー殺害、容疑者が『人力検索はてな』で証拠隠滅か

これによると、はてなid:tanakahideoが容疑者のものであるという。また、はてなでの情報では、id:comoberuもそうなのだという(ただし、こちらは質問の内容がバラバラであり、複数人が一つのidを使っていた可能性があるとの指摘も見られる)。

わたしは、この二つのidによる質問に一つずつ答えていた。はてなブックマークのコメント欄では、回答者には罪はないと言っている人が多くてほっとしたのだが、ひとまず振り返っておこう。

なお、この二つのidが確実に容疑者のものであるという明確な裏付けは、今のところ得られていないことを補記しておく。

id:comoberu

まず、id:comoberuによる質問。「NHK教育で火曜15時からの英語I 高校講座は、もうなくなったのでしょうか?18日(火)はないようですが、それ以降はどうでしょうか?.. - 人力検索はてな」という質問に、わたしは答えていた。

質問は8月13日。事件後である。しかし、この質問には、何ら犯罪性は感じられない。

id:comoboeruの質問は多岐にわたっている。確かに質問傾向はバラバラであり、複数の人物が共有していた可能性もある。ただ、その中でもタイに関する質問やFXに関する質問などが見られるのは、事件との関連を暗示しているのかもしれない。ヤフオクに関する質問や、ソフトの使い方、風俗関係の質問なども多いようだ。

最初の質問は2004年7月17日。まる4年にわたるユーザーで、それなりに古いidということになる。ただ、この最初の質問が「コインカウンター(硬貨を数える機械)を改造したいのですが、どこに依頼すればいいのでしょうか?例えば、1万円カウントしてもモニターには50%(5千円)表示などに改造したいです。 普通のカウントに戻せる 、 切り替えボタンもほしいです。 よろしく」という質問はグレーだろう。

2005年8月13日には「偽札の作り方を教えてほしいです。あくまでも自分の知識を広げる目的です。」という質問もあった。

質問総数は1734件。平均すると一日一件以上の質問をしている計算になる。

id:tanakahideo

id:tanakahideoによる質問については、question:1216707041に答えていた。質問登録は2008年7月22日(棚橋さん失踪の2週間前)。

法律に関しての質問です。①何らかの形で警察に逮捕されて不服がある場合(自分が無罪の場合)は、どんな権利がありますか?(黙秘権など)。また、逮捕された状態で、どうやって弁護士を立てればいいでしょうか?②警察の取り調べを録音する権利は、こちらにありますか?③長期や終身刑になった場合、死刑を希望することはできますか?具体的な法律に基づいて回答できる方いらっしゃいますか?

「自分が無罪の場合」と明記されているので、何か誤認逮捕されるような状況(たとえば痴漢冤罪など)について不安がっているのだろうかと思って回答をした。少なくとも、この回答の内容自体は、犯罪を幇助するようなものではないはずである。

1. 「かかりつけの弁護士」がいなかったり、連絡先がわからなくても、当番弁護士制度を活用することができます。「当番弁護士を呼んでください。それまで取り調べには応じません」と主張することができます。当番弁護士から、家族に連絡をとってもらったり、正式に弁護士への連絡をとってもらうことができます。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/legal_aid/on-duty_lawyer/

なお、軽微な罪(痴漢冤罪など)の場合は、身分証明ができれば現行犯逮捕を逃れられます。「30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪の現行犯に限り、被疑者が身分証明書を提示する・名刺を切って行く等して住所氏名を明らかにした場合は現行犯逮捕は無効となり、出頭を求めての任意での事情聴取に切り替えねばならない。逮捕した者は逮捕監禁罪に問われる。(刑事訴訟法217条)」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E8%A1%8C%E7%8A%AF

2. 基本的に自分で録音するのは無理です。法律でも認められていません。ただし、検察庁による取調べの一部録画・録音の試行が検討されています。ただし、これは司法警察官ではなく検察に身柄が移されてから後のことであり、また、現時点ではいまだ試行段階であることから、あまり期待することはできません。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/special_theme/investigation.html

3. sebleさんの回答通り、死刑に該当する罪を犯していなければ死刑にはなれません。ただし、死刑の可能性がある場合に、情状酌量されないような「努力」をすることは可能でしょう。被告人意見陳述で「希望」を述べることは自由ですし(実際に死刑を希望する旨を述べる者も存在します)、反省の意を示さない、被害者を法廷で侮辱する、裁判官の心証を悪くする、といった形でその希望を実現に近づけることもできると思います。でも、そんなことはしないでくださいね。

まさか犯罪を犯すことを計画していて、こんな質問をしているなどとは思いもしなかったし、今読み返しても、この質問で犯罪のにおいをかぎ取るのは無理だと思う。ましてや、この回答が何らかの幇助になるとは考えられない。

しかし、それでも最後に「でも、そんなことはしないでくださいね。」と書き添えたのは、心の奥底では不安を感じていたからだろうか。

この質問者は、回答において必ず「詳細ありがとうございます」といった丁寧な口調で礼を言っており、わたしはこの時点ではまったく悪い気はしなかった。人力検索はてなでは、すこぶる失礼な、あるいは何の返答もない質問者もいるので、この時点ではむしろ「優良質問者」と感じたのも事実だ。

さて、回答時にはid:tanakahideoによる他の質問をいちいちチェックはしていなかった。はてなの回答者でも、いちいち質問者の過去の他の質問内容をチェックしてから答える人は少数だろう。だから、わたしが他の質問を見てあやしさに気付かなかったからといって、過失があったとは思わない。しかし、今、事件と関係があるという前提で読み返せば、確かに怪しげに感じられるものもある。

こちらは総数40件なので、そのリストを古い順に全部挙げてみよう。

2006年4月

2006年4月にid:tanakahideoによる最初の質問がある。ヤフオク、風俗、画像掲示板、ヤフオク。確かにid:comoberuと似ている。しかし、このidはそれからあまり使われない。

2007年

クレジットカードの悪用の可能性、無料エロ動画。かなり黒いイメージはあるが、このレベルならアングラっぽいというレベルで、犯罪に直結というわけでもないだろう。

2008年7月

それからまた間が開いて、2008年7月に入ってから一気に質問が続く。

顔を隠せるもの、偽札関連、香港上海銀行の口座開設、タイから日本へのお金の持ち込みといった話題である。実はこの時点(7月6日)でid:xenobiaがコメント欄に「犯罪の匂いがプンプンしましたので、既に関係機関への通報を他の質問関係あわせて行ないました」と書き込んでいる。もっとも、id:xenobiaは独特の癖のある質問や投稿をする人物なので(人力検索はてな - xenobiaさんのプロフィール参照)、他のはてなユーザーがその警告を真摯なものと受け取れなかった可能性は高いと思われる。普段の言動は重要だ。

ネットバンキングについての質問が続く。それにしても、こうしてしらみつぶしに見ていくと、少し調べたらわかりそうなことをひたすら質問する人だという印象を受ける。まあ教えて君が金を払って教えてもらうのが「人力検索はてな」なのだから別にかまわないのだが、後ろ暗いことをしているにしては無防備というか、自信がないというのか、ちょっと不思議な気がする。

IPアドレス、無線LAN、携帯電話、コンビニATM、プリケー、国際電話サービス。これでわかる人は何かわかるのだろうか。何か偏りがあるような、これらを組み合わせると何をやろうとしているかわかるのかもしれないが、わたしにはよくわからない。

わたしが答えた法律の質問が突然出てくる。それから銀行の問い合わせ先を問うている。ここまで名前を挙げられるなら、それぞれの銀行のサイトで調べればいいのに、と思うのだが。

二つの質問を組み合わせると、携帯で相手の声が聞き取りづらく、思わず大声になってしまって、周囲に話の内容が聞かれてしまいかねない、という状況が思い浮かぶ。

2008年8月

タイの屋外でのネット接続方法。これからしばらく(事件発生を挟んで)質問はなされない。棚橋さん失踪の二日後に質問が復活する。

もし容疑者がイーモバイルを使った後になって、足がつかないかとあわてているのだとしたら(そしてそれをはてなで公開しつつ質問しているのだとしたら)、泥縄というか、あまりにもいい加減に感じられる。

質問をそのまま読めば、カードを盗まれてATMで引き出されてしまったとしても大丈夫な銀行はどこ?ということになるのだが、よくよく考えてみれば、普通は心配することのない内容である。なお、容疑者によるものとされる質問では、京都や大阪にまつわる質問も散見される。

(この質問が容疑者によるものだと仮定しての話だが)事件を起こした後で不安になって質問しているようにも感じられる。しかし、こういうことをはてなで訊くということ自体が普通の感性ではないような気がする。回答に対しては淡々と「ありがとうございます」とお礼を述べているのもよくわからない。

数日あいて、この質問である。この期に及んで「指紋を取られたくないけどどうしよう」という質問はおかしいだろう。犯罪的なことはいつも考えているようだが、用意周到というわけではなさそうだ。質問するなら、コトを起こす前にやるべきであって、後からあわてて人に訊いているのはどういうことなのだ。頭が悪いんじゃないかという気もする。ただ、うがった見方をすれば、本当に何か濡れ衣を着せられそうな状況に追い込まれているということも考えられないではないのだが、それならそれでもう少しきちんとしたところに相談すべきだろうと思うし、「人力検索はてな」という場所で「ありがとうございます」という対応をしているのが、あまりにも落ち着きすぎだと感じられる。

そして、唐突に東京都内の出会い喫茶である。

最後の質問がこれだ。回答は開かれずに残っているものがある。パソコンの証拠隠滅をはかろうとしたのだろうか。

犯罪は未然に防げたか

こういう質問がされたからといって、「人力検索はてな」に罪があるわけではない。個々の質問をとってみれば、規約違反にならないようなスタイルで質問がなされている。はてなの運営を責めることはできないだろう。

他のユーザーや回答者にも、気付という方が無理だと思う。自己弁護するわけではないが、あからさまに犯罪的なものでもない限り、答えるときには基本的に親切心から回答をしているものである。もちろん、ポイントがほしいとか、これに答えることができるんだというプライドなんかも混じっているだろうが、相手によかれと思って回答しないと「優良回答者」にはなれない。その善意を土台にしたシステムで、相手を疑ってかかれというのも殺伐とした悲しい話だ。

これは事前に予測できたのか。否。逆に、これだけの質問から人殺しの可能性を予測できるとしたら、そういう発想ができる人の方がこわいとさえ思う。

こういうものは監視すべきなのか。もちろん、あやしいと感じたら通報する必要はあるだろうが、こういうものばかり見つけようとする「ネット自警団」を民間で作るのはこわいと思う。また、わたしはそういう「疑いの目」で他人を見続けるようなことに参加して社会正義を気取るつもりもない。こういうことは警察に頑張ってもらえばいいのだと思う(逆に、警察はもうちょっとネットについて詳しくなるべきだと思う)。

いずれにせよ、犯人がたまたま人力検索を利用したのが事実であったとしても、それは人力検索がこわいということにはならないし、もっとチクりあいを奨励すべきだという議論に持っていくべきではないと思う。

上記のように後付だから犯罪と結びつけることができるのである。逆に、犯行発覚前にこのような記述だけで犯人扱いするのが当然だという風潮が広まってしまったら、状況証拠による憶測や身勝手な推理・こじつけから冤罪を生み出す可能性が高いと思われる。

犯行を実況する人たち

思えば、秋葉原無差別殺人事件の加藤容疑者も、携帯掲示板に自分の行動を書きつづっていた(閾ペディアことのは退避場所 - 秋葉原通り魔事件参照)。人力検索――ネット上での質問サイトに、よくよく読めば犯罪に結びつきかねないあやしい証言を残し続けた今回の容疑者。わたしは似たものを感じる。

これらの行動は、自己顕示欲とは少し違うと思う。むしろ、インターネットや携帯で誰にでも見られる場所で投稿や発言をしているという感覚が希薄なような気がする。加藤容疑者の場合は、自分がほとんど相手にされていないと感じていた。確かに数人が相手をしてくれてはいたが、反応してくれない読者はいないも同然だったのではないか。

今回の容疑者も、自分の質問が広く見られているという感覚が希薄だったのではないかと感じられる。目に見えるのは、答えてくれる人たちだけ。それぞれの質問でのやりとりにとどまる限定的コミュニケーション。

どちらも、たまたま「後から誰でも見られる」開放的な空間で投稿を行なっていたが、しかし、インターネットのあまりに膨大な情報の海の中では、逆にそれぞれの投稿などほとんどかえりみられることもない。事件後になってそれは急速にクローズアップされる。それがインターネットの性質なのだと思う。事前には埋もれている。事後にだれもが知るところとなる――。

今回の件については、わたしもまだあまり考えがまとまっていない。また、上記の二つのidが本当に容疑者によるものという確証も現時点ではない。なので、中途半端なエントリーであるが、今思っていることを書いてみた。

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