「今年の漢字」の「絆」の原義は「束縛」「しがらみ」

2011年12月12日、日本漢字能力検定協会は恒例の「今年の漢字」を発表した。今年の漢字は「絆」だという。同協会の公式サイトの解説によれば、それは人と人との絆、チームワークとしての絆など、非常に美しく好ましいものとして扱われている。

しかし、「絆」という漢字、「きずな」という和語の原義を調べてみると「動物をしばる綱」であり、「束縛するもの」というネガティブなイメージの言葉である。それがいつから美しく優れた美徳として扱われるようになったかはよくわからないが、原義で解釈するとこれも今年の世相に合っているように思われる。

2011年12月13日21:06| 記事内容分類:日本時事ネタ| by 松永英明
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日本漢字能力検定協会による解説

公式サイトでの解説を引用する(「今年の漢字」 財団法人 日本漢字能力検定協会より)。

日本国内では、東日本大震災や台風による大雨被害、海外では、ニュージーランド地震、タイ洪水などが発生。大規模な災害の経験から家族や仲間など身近でかけがえのない人との「絆」をあらためて知る。

人と人との小さなつながりは、地域や社会などのコミュニティだけでなく、国境を越えた地球規模の人間同士の「絆」へ。

SNSをはじめとするソーシャルメディアを通じて新たな人との「絆」が生まれ、旧知の人との「絆」が深まった。

また、国際社会ではいくつもの民主化運動が起こった。

一方、ワールドカップで優勝した、なでしこジャパンのチームワークの「絆」には日本中が感動し勇気づけられた。

また、詳細ページ(「今年の漢字」 財団法人 日本漢字能力検定協会)では、〈善意の「絆」〉〈支援の「絆」〉〈SNS/日常のコミュニケーション手段〉〈ソーシャルメディアが民衆の結集力を生み出す一助になった〉という例が挙げられており、いずれも「絆」という言葉を「人と人との(美徳としての)つながり」という意味で用いている。

それは今年のイメージの中のよい面ばかりを無理に、ことさら強調しているようにも感じられる。過去の例では決して美しい言葉だけが選ばれていない。むしろ悪い意味が多い。1995年「震」、1996年「食」(食中毒、狂牛病など)、1998年「毒」(カレー毒物混入事件)、1999年「末」(世も末)、2001年「戦」(同時多発テロ)、2004年「災」、2007年「偽」(食品偽装など)といった真っ暗な文字も選ばれている。今年もその流れの文字であっても不思議ではなかった。

「震」「災」は既出なので除くとしても、わたしなら「揺」(地も揺れ、人々の常識も揺らぎ、世論も大きく揺れた)あたりのイメージがある。ただ、今年はあまりにも暗いので、漢字くらいは明るくしなければやってられなかった、ということもあるのかもしれない。

「絆」の原義は「縛り付けるもの」「しがらみ」

ただし、「絆」という漢字および「きづな」という和語の原義を調べると、いずれも決してこんな美しい意味ではない。

『漢字源』にはこうある。

《意味》
(1){名}ほだし。きずな(キヅナ)。馬の足にからめてしばるひも。また、人を束縛する義理・人情などのたとえ。
(2){動}つなぐ。ほだす。しばって自由に行動できなくする。「何用浮名絆此身=何ゾ用ヰン浮名モテ此ノ身ヲ絆スコトヲ」〔→杜甫〕

《解字》
形声。「糸+音符半(ハン)」。ひもをぐるぐる巻いてからめること。

漢字の意味としては、ひもで縛ることが原義となり、それによって人を束縛したり、自由に行動できなくしたりすることを意味するようになった。

『広辞苑』にはこうある。

き‐ずな【絆・紲】キヅナ
(1)馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱。梁塵秘抄「御厩(みまや)の隅なる飼ひ猿は―離れてさぞ遊ぶ」 (2)断つにしのびない恩愛。離れがたい情実。ほだし。係累。繋縛。平家一○「妻子といふものが、…生死(しようじ)に流転(るてん)する―なるが故に」。「夫婦の―」

古語辞典でもほとんど同様なので省略するが、要するに動物をつなぎとめる綱が「きづな」なのである。わたしは決して辞書の記載を絶対視するつもりはないし、逆に辞書の権威を疑うべきだという安田敏朗氏の主張(『辞書の政治学 ことばの規範とはなにか』参照)に共感する立場だが、しかし、今回の「絆」「きずな」という言葉の原義としては、これらの記載を受け入れてよさそうに思われる。

いずれにせよ、これは決して美しいものではなく、「束縛」であり「縛り付けるもの」である。「しがらみ」という言葉のニュアンスが「きづな」の本来の意味に近いといえよう。

中日辞典では、「絆(ban)」は「綱[つな], 馬の絆[うまのきずな], 罠[わな], 足が障害物にぶつかる, からみつく, 罠などに引っかかる, ボタンかけ, ひも止め」(ロボワード標準中日辞書)「からみつく。まといつく。つまずく。」(吉林中日辞書)とされており、「まとわりつくもの」という鬱陶しいニュアンスがさらに強化されている。

広辞苑では平家物語が引用されているが、このくだりは「妻子というものへの思いがあるがゆえに、この六道の世界を流転してしまう」という仏教的な見地で書かれている部分である。一般に情愛の「きずな」とは美しいものとされているが、仏教ではその「きずな」こそがわたしたちをこの苦しみの世界に何度も何度も(ほぼ永遠とも思える期間にわたって)生まれ変わらせてしまうものであると見る。つまり、きずなとは断ち切るべきものなのである。

たしかに今年は「絆」の年だったかもしれない

このように「縛り付けるもの」という意味で改めて「今年の漢字」の「絆」を振り返ってみると、確かに今年は「絆」の年だったといえる。

放射線恐怖症の人たちからみれば、「住み慣れた土地に縛られているがゆえに、避難できない人たちがいる」ということになるだろう。一方で、反原発、あるいは原発容認という「立場」や「勢力」や「立ち位置」に縛られている人たちもいる。いまだに地震兵器などという陰謀論(妄想)に縛られている人たちもいる。

わたしたちがいかに多くのものに縛られ、身動きが取れなくなっているか……それを突きつけられた年であったとみるならば、確かに今年は「絆」の年だったと解することができるかもしれない。

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自由だの愛だの民主だの元々悪い意味で用いられていた言葉が
時代の変化によっていい意味になってきた例が多くある以上は
あまりうるさく言ってもさして意味はないのでは……

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