グルーポンおせち事件を反面教師として「クーポン提供者」の姿勢を学ぶ

バードカフェがクーポン共同購入サイト「GROUPON」で売り出した「謹製おせち」が遅配した上、内容がスカスカだったという「グルーポンおせち事件」について、ネット上ではすでにいろいろな意見が交わされている。中には「返金して社長が辞任したんだからこれ以上叩くな」といった意見も見られる。それどころか「すでに解決したに等しい問題」というような乱暴な議論も見られる。

しかし、この事件について改めて考え、学ぶ必要はあるだろう。ここでは、クーポンを提供する側の倫理あるいは戦略といった観点で、バードカフェは何を勘違いしていたのか、グルーポンを利用する「クーポン提供者」はどういう姿勢で臨むべきかを述べてみたい。

2011年1月 5日23:39| 記事内容分類:日本時事ネタ| by 松永英明
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事件の経過年表

  • 2010年11月25日正午~27日正午:グルーポンにてバードカフェ(外食文化研究所)提供「謹製おせち」発売開始。定価21000円のところ、半額の10500円にて。500人が購入(完売)。
  • 2010年11月26日3:30AM:ツイッターにて「@gaishokubunka おせちで、一店舗分の売り上げになった(^ ^)次も仕掛けますd(^_^o) 」(http://twitter.com/gaishokubunka/status/8120372973010944 )

この時点での商品画像

Groupon

  • 2010年12月31日:配達予定日。半数に遅配が発生。配達されたおせち料理も中身がスカスカ、品数が足りない、量が足りない等の状態だった。31日24:00までの問い合わせ総数は92件。

届いたおせち写真。

おせち

バードカフェを反面教師として学ぶ「クーポン提供者」の心構え

クーポンサイトの利用料は「宣伝広告費」

クーポンサイトはグルーポン以外にも多く存在している。では、クーポンサイトとは何か。要するに「安く商品やサービスを提供するクーポンによって新規顧客を開拓する/リピーターを掘り起こす」ためのサイトである。つまり、「安さ」というポイントによって客を釣るのである。多くの場合、それはグルーポンへの手数料等を計算すると原価割れ、あるいはほとんど利益の出ない状態となるだろう。

それでもクーポンを出す意味はある。なぜなら、たとえ「安い」ということだけが訴求ポイントだとしても、これまで利用しなかったお客様に自店舗の商品やサービスを知っていただくことができる。あるいは、以前に利用していたが離れていたお客様に、また目を向けていただくことができる。だから、瞬間的には原価割れしようと、あるいはクーポン利用だけでリピートをしないと誓っている人がそこに含まれていようと、顧客開拓という観点からすれば決して無駄ではない。

いわば、クーポンで割り引く分は、「宣伝広告費」と割り切って理解できる。

ところが、バードカフェの場合は「半額」にも関わらず、このクーポンによる売り上げで「利益」を挙げていたようなのだ。本来おせちというのは、利ざやの少ない商品らしい。原価もかかるし、年に一度の特製品を確実に間に合わせなければならない。だが、「@gaishokubunka おせちで、一店舗分の売り上げになった(^ ^)次も仕掛けますd(^_^o) 」というツイート内容から見れば、利益は上がっているものと考えて間違いあるまい。売り上げと利益は違うが、原価+人件費+送料梱包料にグルーポンへの支払いも含めて、半額にしてさらに利益が上がるというのだから、相当の利益率が見込まれたものといえよう。

第一の疑問点は「宣伝広告としてのクーポンサイト利用」ではなく、「クーポンサイトで半額にしても利益が上がるという価格設定」は最初から問題があったのではないかということだ。半額にしてグルーポンへの高い手数料を支払っても利益が出るのなら「定価」はどれだけボッタクリなのかということになる。あるいは、クーポン利用以外に定価で販売したものがないなら、不当価格表示にもなりかねない。

クーポンで提供するものが半額の値打ちではいけない

さて、すでにボタンの掛け違いがあるが、先へ進もう。クーポンというのはお客様に「安さ」という一点のみで訴求している。

本来、価格競争というのは(特に中小の企業にとって)最後の最後まで避けなければならないことだ。値段だけが訴求力という商品やサービスは問題が大きい。むしろ、「価格以上の価値をお客様に与えること」を心がけねばならない。この場合の価値とは、満足感であったり、価格相応の機能であったり、といったことである。

では、こうしたタブーを破ってまで「安さ」でお客様を集める目的は何だろうか。それはすなわち「リピーターになっていただく」ことである。次は定価でもこの商品やサービスを利用したいと思わせることが目的だ。あるいは、オプションを追加したいと思わせることだ。

そうすると、実はハードルはかなり高いことがわかる。たとえば2万円のおせちが1万円だから購入する、という場合、それは1万円の価値のおせちを提供していてはいけない。2万円ちょうどでもまだ足りない。「これは普通、2万数千円はするだろう」というものを破格の半額で提供するからこそ、次は定価の2万円で買ってももったいなくないとお客様に思ってもらうことができるのである。

半額1万円相当のものなら「これが通常2万円?絶対定価だったら買えないよ」となるし、2万円ならこんなもんかという程度であればお得感はない。「定価でもこれなら払うよ」と思わせるには、よほどの努力が必要だということだ。

そういう意味で考えれば、クーポンで集めたお客様を「次につなぐ」ことで儲けるのが健全な商売であって、クーポンでの売り上げそのものを「儲かった」と言っている時点で完全に勘違いしていると言わねばならない。

あのおせちが価格に合ったものかどうかという質問は誤解を生みかねないが、「あのおせちでリピーターが作れたか」という問いを用意すれば、バードカフェは大きなあやまちを犯していたことが明白となる。

返金と辞任は責任を取ったことになるのか

全額返金というのは、一見すると誠意ある対応に見える。スカスカおせちが遅れて届いたからといって、精神的に悲しい思いをすることを除けば、何か具体的に金銭的な損害が他に発生するわけでもないから、賠償金までは及ばないだろう。

だが、実際には「全額返したのだからあなたはもうお客様ではありません」という意味にもなりうる。つまり「カネを返したのだからそれ以上責任を追及するな」という態度とも受け取られかねない。

「辞任」も本当に責任を取ったことになるのか。

社長が辞任したのだからそれ以上追い打ちを掛けるな、とホリエモンはツイートしたが、この発言も勘違いだ。そもそも、辞任というのは「事後処理を放棄して逃げた」とも受け取られかねない対応である。不適任だったから辞めるというのは社内や株主向けの態度でしかなく、顧客に対しては単に逃げとしか見えない。少なくとも「この件の対応が完了した時点で辞任します」あるいは「社長を辞任しますが、今回の件の対策本部長として最後まで責任ある対応を取ります」というのが望ましいだろう。

まとめ

以上をまとめると、ビジネス的には特に目新しいこともないごくごく当たり前の原則が明らかになる。

「安さ」でお客様を集めるのはリピートしていただくことが前提であって、最初の値引き分は「宣伝広告費」ととらえるべきである。こうして新規に開拓された顧客には、「定価以上の価値を与えられた」と感じてもらうこと、すなわち充分に満足してもらうことによって、リピーターへと推移してもらわなければならない。それが健全な商売というものである。

しかし、このごくごく当たり前の原則が理解されていなかったようだ。つまり、消費者としてではなく「売る側」の視点から見ても、バードカフェは「決してやってはならないこと」をやったという結論に落ち着く。

そして、私たちに必要なことは、バードカフェを叩くことでもなければ「叩きすぎだ」と批判することでもなく、バードカフェのような商売のとらえ方に陥らないよう自戒し続けることなのである。

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