2011年の統計からみるスマホの将来:docomo圧勝?

スマートフォンはどれくらい伸びるのか、伸びないのか。日本独自の進化を遂げたがゆえに「ガラパゴス携帯=ガラケー」と呼ばれる従来型携帯がスマートフォンに制圧されるのは近いのかまだ先なのか。

そういうことをデータに基づいて検証したいと思って、先週、携帯3社に対して「従来型携帯とスマートフォンの契約者数について、性・年代別の統計資料はありませんか」という問い合わせを行なったところ、三社横並びで「そういう資料は提供していない」との回答だった。

さらに検索してみたところ、1か月前に博報堂の関連調査機関が出した報告がちょうどぴったりのものだった。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が6月15日に公開した「メディア定点調査2011」である。

この中で「スマートフォン所有状況」の東京・大阪・愛知・高知の4か所の比率(抜粋編に掲載)、同じく2010年との比較と性年齢別比較(ニュースリリースに掲載)のグラフが表示されている。

このグラフからは「スマホは20~30代ビジネスユーザー中心」という現状が読み取れるように思われる。それは、すべてのガラケーがスマホに入れ替わるのはまだもう少し先、ということを暗示しているように思われる。

2011年7月17日12:58| 記事内容分類:ウェブ文化圏, 機器| by 松永英明
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統計より引用

スマートフォン所有状況について地域別統計で見ると、東京がダントツの16.5%(それでも約6分の1)、愛知・大阪が10%前後で高知が6%。この統計だけで結論を出すのは乱暴だが、都会の方がスマートフォン率が高い傾向があるという印象を裏付けているようにも思われる。

スマホ統計2011a

2010年と2011年(それぞれ2月)の東京地区での比較では、9.8%→16.5%と伸びてはいるものの、倍増してはいない。約1.7倍にとどまっている。iPhoneの発売が2008年であるから、意外と「伸び悩み」の数字のように思われる。

スマホ統計2011b

最も重要なのが、性年代別の統計である。東京のものしか公開されていないが、男性と女性なら圧倒的に男性、年代的には20代と30代が中心となっている。これは「ビジネスユーザーが中心」と言い換えてもいいだろう(本当ならば性年代に加えて職種別の統計もほしいところである)。

スマホ統計2011c

東京の男性20代・30代で約3分の1がスマホを所有している。特にネットを使うのが日常化しているようなビジネスユーザーであればスマホは当たり前に見えるかもしれない。だが、40代・50代ではその半分に落ち込む。

逆に、いわゆるガラケーによる「ケータイ族」の中心を占める10代や、主婦層などの女性ユーザー中心の層では、スマホは伸び悩んでいることが伺われる。ピークとなっている20代女性で4分の1、30代女性で40~50代男性と同レベル、それ以外の年代では女性のスマホは珍しいと断定してもいいだろう。

スマホは、ガラケーの牙城を打ち砕くには至っていない。統計はそう語っている。「電車の中で見かけるケータイがほとんどスマホ」というような声もネットでは見られるが、そのスマホを扱っている人をよく見れば、会社などで働く社会人あるいは就活時期の学生が大半ではないだろうか。「電車の中」は、少なくとも時間帯によっては極めて偏りの大きな集団なのである。

ガラケーの牙城

わたしはずっと「あえて」ガラケーを使い続けている。それは、今のガラケーユーザー、いわゆる「ケータイ族」の思考を知りたいという(ある意味マーケティング的な)理由である。

ネットを使いこなしている人たちは、ともすればケータイユーザー層の思考回路を理解できないようになりがちである。「何でもできるのだからスマホにすればいいのに」と考えるのは、典型的なネット人間の発想であって、ケータイ族は決してそうは考えない。

ケータイ小説も、あのケータイの画面に表示できる範囲という制約があって、「改行が多い」「ページ換えが多い(場合によっては1行1ページで改行)」という表現スタイルが逆に独特のリズム感を生み出したのだ。

ネット族が最も見逃しがちなポイントは、「ガラケーユーザーは、別にスマホの機能を必要としていない」ということである。わたしも含めてネット族は「検索して情報を集めて判断する」ことがネット利用の目的で大きな位置を占めるだろう。ツイッターにしろSNSにしろソーシャルブックマークにしろ、最新の情報を効率よく集める(交流もその一部)という要素が大きいと思われる。だからこそ「情弱(情報弱者)」を馬鹿にするような意識も出てくる。

一方でガラケーというのは「余計な情報の比較とかどうでもいいから、画面に必要な情報がピンポイントで表示されてほしい」というユーザーが多い。

ネットのメールとケータイメールの違いを比較すればよくわかる。ネットではメルマガもあまり読まないし、仕事で必要なメール以外のDMは開封されない傾向が強い。一方で、ケータイメールはすべてが「私信」となり、「開封率」はほぼ100%である。しかも、送信先ユーザーのニーズに特化した商品案内(たとえば過去の購入品から抽出したお勧め品)を送信すれば、販売につながる率も高い。これは、ネットのメールとケータイメールが「そもそも異なるメディア特性を有する」と考えた方が適切である。

つまり、スマホはPCの延長であるのに対して、ガラケーはPCとは異なるコミュニケーション機器である。同じウェブサイトを閲覧できたとしても、その受け手が行なっている情報の受け取り方はまったく違うのである。しかも、ガラケーは決して低機能なのではなく、日本のガラケーユーザーが欲する機能に関しては異常なほど(まさにスマホを超えて)発達しているといえる。それを偏ったグローバリゼーションの立場から異形ととらえて否定するのは、実態を見失う可能性があるだろう。

そのほか、スマホの場合はどういうわけかタッチパネルでなければならないような雰囲気があるが、それもすでにガラケーになじんでしまっていて、よくわからない新しいものへの抵抗感を持つ人たちには受け入れにくい要因となりうる。

スマホが伸びるためにはガラスマハイブリッドケータイが必要

改めて現時点でのガラケーの優位点を示すなら、以下のとおりである。

  • ケータイ利用料金に上乗せして課金する方法が発達しており、別途クレジットカードなどを登録しなくてもサービスや商品を購入できる。
  • 課金の問題と絡んで、ケータイ専用会員制サイトが非常に多い。
  • mobageやgreeやmixiのソーシャルゲームでも、スマホ対応ゲームは出始めたところで、ガラケー専用ゲームはまだまだ多い。
  • おサイフケータイが使える(スマホでの対応端末はau/docomoで出始めたところ)
  • ワンセグが見られる(スマホでの対応端末はau/docomoで出始めたところ)
  • 赤外線通信ができる(スマホでの対応端末はau/docomoで出始めたところ)
  • flashが使える(iPhoneはいつまでflashを排除し続けるのか?/せっかく「携帯三社対応サイト」作成から逃れられると思ったら、実際にはiPhone対応サイトを別途作る必要性が出てくる)

たとえばわたしはmihimaru GTのファンクラブ「mihimaLIST」に入っているが、これは「ケータイサイトに登録して、毎月の課金を支払う」ことによって入会ということになる。これは「モバイルファンクラブ」と明記されており、従来の紙の会報誌ベースのファンクラブは存在しないので、ガラケーを持っていないとファンクラブにそもそも入会できない。mihimaru GTのファン層はケータイ族中心ということは容易に推測でき、極めて最適化されているわけである。

要するに、今のところ「ガラケーでないと使いにくい/使えないサイト」があまりにも多く、いわゆるケータイ族にとってはガラケーからスマホに移行する積極的理由は「ない」と言っても過言ではない。もちろん、店員に勧められてスマホを検討するとか、嵐のファンだからケータイ買い換えのときに考慮するとかいうことはあるかもしれないが、「ガラケーでなければ困る」場合は多いのに対して、今のところ「スマホでなければ困る」という理由は(ケータイ族には)存在しないといえよう。

「あれば便利」と「ないと不便」は似ているようで違う(ということを私は中学のころに安野光雅『算私語録』で読んだ)。ガラケーは(PCとスマホで不便を感じない一部の層を除いて)「ないと不便」レベルの「家電」であるのに対して、現状のスマホは「あれば便利」あるいは「必要な機能が足りない」レベルの「ギーク用のマニアックな専用機」でしかない。そこの認識をしっかり踏まえた上で戦略を立てることが必要だろう。

わたしもいずれはスマホがガラケーに取って代わる時代が来ると思う。何しろ、SMAPに嵐にLADY GAGAに渡辺謙に桑田佳祐である。ケータイ3社が必死でスマホ宣伝に力を入れている(補記参照)。

にもかかわらずスマホが爆発的に広がらないのは、現時点でスマホに変えるメリットが少ないどころかデメリットが存在するからなのだ。そして、ケータイサイト作成・運営会社の方も、これまで「3社対応」などでさんざん苦労してきたとはいえ、ガラケー対応サイトを今捨てるならば単純に「顧客を失う」だけで終わってしまうことをよく知っている。

ならば、解決策は一つしかない。これまでのガラケーの機能をすべて搭載した、ガラ&スマ「ハイブリッドスマホ」を出すしかないのだ。これについてはauとdocomoがおサイフケータイやワンセグや赤外線通信に対応し始めているが、たとえばauが「EZwebサービス・EZアプリはご利用いただけません」と言っている間はダメである。

ただし、docomoは2011年秋モデルから「iモードコンテンツをスマートフォンでも利用可能にする」「iモードの課金・認証などの仕組みをスマートフォンにも導入」することを発表している。これにより、docomoユーザーが買い換えに当たって一気にスマートフォンに移行する契機となる可能性があると思う。「将来的には全部スマートフォンにしますよ」というアナウンスも伴えば最強だろう。

一方で、純粋なスマホにこだわり続けるiPhoneはいつまでもギーク専用機の地位に留まり続けるだろう。さらに、apple側の「flash排除」や「apple storeの不透明さ」という問題、SoftBankの「電波が入りにくい」という問題点を何とかしないと、android陣営に大きく引き離される可能性が高いと思う。

補記:携帯三社のスマホCM比較

docomoのCMが渡辺謙・桑田佳祐をメインにし、新進若手女優を用いているのは、まさに「20代~50代の男性ビジネスユーザー」と「新生活に入る学生」をターゲットとしているものと思われ、現時点では優れたマーケティング戦略だと思う。

一方でandroid auが嵐とLADY GAGAというのは、認知度を高めるのにはよいが、「いろんな検索ができますよ」というアピールを行なっている。これは、嵐でアピールできる一般ガラケー層(特に女性)にはまったく届かない可能性が高い。ガラケーからの移行も問題ないですよ、というアピールを盛り込まなければ伸び悩みは確実だろう。

iPhoneもiPadも、こういう先進ツールが好きな層(特にApple信者)にしかアピールしない内容である。すでにiPhoneカッコイイ、iPadカッコイイ、と思っている人には強烈に伝わるが、いわばギーク層向けでしかない。一般的には「iPadとかiPhoneとかに手を出すようなあの辺の人たち」という印象を強めるだけである。

新機種の動向ならびにCMから伺われるマーケティング戦略から判断して、個人的には、今年の秋冬もしくは来年の初めごろからdocomoを中心にガラケー層/ケータイ族のスマホへの移行が始まると思う。そしてandroid auもEZWeb対応を強いられることになるだろう。そして、iPhoneが取り残される。

ユーザーの大多数を占めるケータイ族(ガラケー層)のニーズを的確に読むことが、スマホ展開のカギとなることは間違いない。

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補記(7/18)

「ちょっと認識が古い。スマホの販売比率は五割を超えた。将来展望は所有比率では無く、販売比率で検討すべき。ケータイ族は既に雪崩を打ってスマホに流れてきてる。不便が解消されてないにも関わらず。」というブクマコメントがあったので、補記しておく。

スマホの販売比率が五割を超えたといっても、毎月の新規/買い換え数は全体から比べて一部である。そこで、販売比率も含めてどれくらい伸びると予測されているかという点について、「2011年度の携帯出荷台数、スマホ比率は49%に――MM総研 - ニュース:ITpro(2011/7/11)」の記事に基づいて検証しよう。

契約数ベースでもスマートフォンの存在感が徐々に高まっていく。2010年度末(2011年3月末)の携帯電話契約数に占めるスマートフォン比率は8.8%であったが、2011年度末は23.1%となり全契約のうち約4台に1台はスマートフォンになる。さらに2012年度末は33.9%となり、3台に1台がスマートフォンを契約する見通しだ。

  • 2011年3月末:8.8%
  • 2012年3月末:23.1%(推計)
  • 2013年3月末:33.9%(推計)

この数字を見れば大きく伸びることは間違いないが、「ケータイ族は既に雪崩を打ってスマホに流れてきてる」というには到底及ばない数値である。逆に、本文で述べたように「今年の秋冬以降または来年初めからDocomoを中心としてスマホへの移行が始まる」という推計とも矛盾しない。また、

2010年度末時点で、スマートフォン契約者の使用している端末を搭載OS別に見ると、iPhoneで採用しているiOSが49.6%、Androidは40.4%。Androidは後発ながら、2010年度下半期に搭載スマートフォンが多数発売され、一気にシェアを伸ばしている。

とも書かれており、Androidが伸びている状況もまた明らかである。

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2011年7月17日12:58| 記事内容分類:ウェブ文化圏, 機器| by 松永英明
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