日本市場へ売り込むK-POP&韓流、売り込まないC-POP&華流

「フジテレビの韓流推し」が話題になっているが、逆の視点から見てみたい。それは「売り込む側の論理」である。

わたしは以前から中華圏(台湾・香港・大陸)の音楽、いわゆるC-POPのファンである。日本でも知名度の高いビビアン・スーも好きだが、GLAYとも共演した実力派ロックバンド五月天(MAYDAY)、女性ロック歌手としては日本含むアジア全域のトップクラスと断じたい張惠妹(Amei、音楽劇トゥーランドット主演)、トップアイドルユニットとしては台湾のS.H.Eと香港のTwins、さらに王心凌(シンディ・ワン)やガールズバンド櫻桃幫(Cherry Boom)、そして日本で活躍するalan(レッドクリフの主題歌で有名)などを聴いている。

といっても日本では、上記に挙げた中ではビビアン・スーとalan以外は知らないという人が大半だろう。だが、中華圏でこれらの名前を知らない音楽ファンはいない。日本で中華圏の歌手の名前が出てくるとしたら、テレサ・テンと欧陽菲菲と王菲くらいで、崔健やケリー・チャンまで知っている人はかなり詳しい部類に入ってしまう。韓流に対して「華流」という言葉も一応あるのだが、ファン以外には通じないのが現状だ。

一方でK-POP・韓流は「多すぎる」と非難されるほどメディア展開が進んでいる。CとKの違いは何か。それは、日本市場を市場と見ているかどうかということである。

2011年8月 2日14:31| 記事内容分類:日本時事ネタ, 音楽| by 松永英明
この記事のリンク用URL| ≪ 前の記事 ≫ 次の記事
| コメント(4) | トラックバック(2) タグ:C-POP, K-POP, マーケティング, 市場, 音楽|
twitterでこの記事をつぶやく (旧:

売り込まないC-POP

最初に、女子十二楽坊の事例を見てみよう。

女子十二楽坊はもともと日本展開する予定がなかった。2002年当時ワーナーミュージック・ジャパンで制作宣伝管理本部長をつとめていた塔本一馬氏がその存在を知り、日本デビューさせたいと考えた。しかし、ストップがかかった。中華圏を統括する香港ワーナー(華納唱片)が「ワーナージャパンは日本のアーティストだけやっていればいい。中華圏のアーティストは香港で扱う」と言ってきたのである。

その後、ワーナーを退社した塔本氏はプラティア・エンタテインメント(PE)を設立し、一度は破談となった女子十二楽坊をPE最初のアーティストとして売り出そうと考えた。かつておニャン子クラブにも関わり、エンヤのベストアルバムを映画とタイアップしてミリオンヒットさせるなど辣腕宣伝マンであった塔本氏の力によって、女子十二楽坊は日本市場で大ヒットを飛ばした。そのマーケティング戦略においては、日本向けのナチュラルメイク(中国向けだとどうしても化粧がキツくなる)、日本向けの衣装など、日本市場を強く意識し、日本市場に最適化された売り込み方を行なっていた。

女子十二楽坊が日本展開したのは、新規創設されたレコード会社だったという特殊事情が背景にあるだろう。その塔本さんが残念ながら音楽事業において力尽いた後、日本市場からはほとんど撤退した状態になっている。

ただ、これはほとんど例外的な事例である。もう一つの例外は、主に日本で活動してきたエイベックス所属のalanくらいであろう。

エイベックスには「エイベックス・エイジア」というアジア圏担当のレーベルがある。ところがエイベックス・エイジア所属アーティストが日本でも売り込まれるかといったらそうではない。逆にエイベックス所属のアーティストはアジア公演などを積極的に行なっている。一方通行なのである。

シンディ・ワン(王心凌)やレイニー・ヤン(楊丞琳)など日本CDデビューしたアーティストはいるが、それを継続的に売り出している日本のレーベルはほとんどない。売り出しの努力がどうも今ひとつなのである。日本公演を何度も行なっている五月天はZepp東京を満員にしているし(会場にはGLAYのtakuroさんも来ていた)、張惠妹は赤坂BLIZ公演を成功させている。決して実力がないわけではない、どころか、世界で通用するレベルなのに、そのツアー成功を日本市場進出につなげる企業がでてこない。

日本の音楽会社がC-POPを「買ってこない」のは理由がある。中華圏の音楽業界自体が日本市場への進出に熱心ではないからだ。中華圏のEMIを受け継いだGold Typhoon(金牌大風)は多くの実力派アーティストを抱えているが、台湾・香港で知らぬ人のない有名アーティストでも日本に紹介することに力を入れていない。逆に日本EMI所属アーティストのCDは金牌大風で扱われていたりする。

音楽だけではない。台湾の人気ドラマの多くは日本の少女漫画が原作だったりする。「花より男子」の台湾ドラマ版が「流星花園」で、この主演イケメン四人がF4として活躍している(と言っても、日本では「そういえばそういうグループがあったなあ」くらいの認知だろう)。また、日本では「花ざかりの君たちへ」といえば2007年の堀北真希と2011年の前田敦子だろうが、それに先んじて2006年にS.H.EのElla主演(ほかに飛輪海=ファーレンハイトのメンバーなども出演)で台湾ドラマ版「花様少年少女」が放映されている。

日本漫画原作の台湾ドラマはストーリーが原作に極めて忠実なのが特徴で(名前だけは中華風になったりする)、言葉がわからなくても原作を読んでいればわかるくらいだ。だが、日本に逆輸入された台湾ドラマは「流星花園」くらいではないだろうか。

日本で一般的に受け入れられる中華圏映画は、頭文字Dにしろレッドクリフにしろ「日中合作」的なものかカンフーものくらいではないだろうか。ビビアン・スー主演の「靴に恋した人魚(人魚朶朶)」はわたしの好きな映画だが、非常に評価の高いこの作品でも日本での知名度はほとんどないという状況である。

要するに、J-POPにとって中華圏は大きな市場なのだが、C-POP・華流側は日本市場を相手にしていないのである。日本のエンタメ系報道でも、たとえばナタリーは中華圏のエンタメを完全無視している。音楽そのものに国境はないが、音楽市場にはどうやら「中華圏/韓国/日本」の垣根が存在しているのが実態らしい。

そしてK-POP

このC-POPの状況を踏まえてK-POPを見るならば、C-POPファンとしては「問題になるくらい売り込んでくれるなんて、うらやましい」としか言いようがない。K-POP側はカネをかけて日本市場に売り込んでいる。売り込んできてそれにファンが付くのであれば当然、テレビ局だって「K-POP・韓流推し」になるだろう。これは単純に市場原理で説明がつくことである。そこに政治的な背景を見たり民族差別的な言論を絡めたりするのは陰謀論と排他主義でしかない。

それはともかく、K-POPは日本市場を進出先市場と見ており、C-POPは日本市場に期待していない。期待されている分ありがたいことではないか、とわたしは単純に思う。あとは、マーケティングやプロモーションを含めた「実力」次第である。それであっさり「駆逐」されてしまうほどJ-POPは弱くないと思う。

AKB48の露骨な宣伝方法に顔をしかめる人が、まったく同じ意味でK-POPに批判的な目を向けるのなら筋は通っていると思う。しかし、「日本なのに韓流を推すな」というような低レベルの排他的ナショナリズムは何の役にも立たない。

ただし、わたしが見る限り、K-POPは決して日本市場をメインターゲットとしているわけではない。たしかにKARAはメンバー全員が日本語を覚え、日本受けしやすい楽曲で勝負してきている。しかし、少女時代と(現在の)東方神起は、欧州市場進出が報じられているとおり、日本に特化した売り方はしてない。その程度のアプローチで日本の音楽・映画・ドラマが危機に瀕するというのであれば、日本側の体力のなさを反省したほうがよっぽど建設的である。

洋楽・洋画はもっと日本を支配している

そして、K-POP・韓流以上に日本市場を支配しているのは洋楽・洋画である。K-POP・韓流が多すぎることを批判するのであれば、ハリウッドもディズニーもビルボードももうちょっと抑えた方がいいという意見を述べるべきである。そうでないなら、欧米至上主義による「日本を除くアジア」蔑視発言でしかない。逆に、ハリー・ポッターがいいなら冬ソナもOKなはずだし、LADY GAGAが親日だからOKというのならKARAの五人だってもちろん親日のはずだ。

誤解されたくないので書いておくが、わたしは決して洋楽・洋画を排斥しろとは思っていない。ナショジオの「ザ・カリスマドッグトレーナー」を大好きなわたしがそんなバカげた攘夷論を振りかざすわけがない。スコット・マーフィーのJ-POPパンクが好きなわたしが、エンタメの国境を強化したいと思うわけがない。

洋楽(ほとんど英米)とJ-POPだけではつまらない。K-POPも来ていいし、もちろんC-POPにも来てもらいたいし、それだけでなく東南アジアやインドやイスラム圏やスラブ圏や西欧・東欧・中欧・北欧やアフリカやオセアニアや中南米のPOPミュージックも上陸してほしい。インドカレー屋に行くと、テレビで四六時中インドポップスのPVを流しているが、わたしはそれを一曲も知らない。それはあまりにも断絶があるといえないだろうか。

洋楽とJ-POPしか聴けない国、洋画と邦画しかない国など、つまらない。エンタメ攘夷には賛同できない。

補記

「単に人口5千万人の国と13億人の国の違いでは?」というツイートを見たので補記。C-POPの主軸は台湾と香港であり、メインランド・チャイナのPOPSは(最近こそ広東・上海を中心に伸びつつあるものの)まったく主力となりえていない。つまり、「国」の意向というわけではない。現在のC-POPではJ-POPやK-POPのカバーも多いので、本来、大陸よりも日韓の方が音楽的センスのある濃いファンを獲得できるとも期待できる。

このほか、「「"中華圏"と称して、さりげなく【台湾は中共の一部だ、と言う誤解を生むような記事】を書きたかっただけじゃないのか?」と言うのが正直な感想。」という見当外れなコメントもあった。何で私が「一つの中国」論を主張しなければならないのか。深読みのつもりの陰謀論脳である。わたしが来日公演に毎回行っている五月天は台湾國語ではない台湾語の楽曲も多い。わたしがもし「一つの中国」派の中共(大陸)もしくは国民党(台湾)に心酔していてそういう目的でブログを書いているなら、五月天の名前は絶対に挙げない。が、別に五月天が台湾独立派というわけでもない。張惠妹も「台湾独立派」と目されたり、逆に「中国に媚びている」と批判されたりしたが、本人はどっちでもない(台湾原住民の血をひいているし)。S.H.Eは「中国話」という歌が中国文化礼賛的だと批判されたこともあるが、実際のところどっちでもない。なんでエンタメの世界に無理やり事実ならざる政治的な枠組みを持ち込みたがるのか、わたしには理解できない。

【広告】★文中キーワードによる自動生成アフィリエイトリンク
以下の広告はこの記事内のキーワードをもとに自動的に選ばれた書籍・音楽等へのリンクです。場合によっては本文内容と矛盾するもの、関係なさそうなものが表示されることもあります。
2011年8月 2日14:31| 記事内容分類:日本時事ネタ, 音楽| by 松永英明
この記事のリンク用URL| ≪ 前の記事 ≫ 次の記事
| コメント(4) | トラックバック(2) タグ:C-POP, K-POP, マーケティング, 市場, 音楽|
twitterでこの記事をつぶやく (旧:

トラックバック(2)

最近ネット上で騒がしい所謂「フジテレビの韓流推し」について それとなくコメントしておくと、 ● 「安上がりでそこそこ数字が出る」商売の都合で韓国製... 続きを読む

色々コメントしたいこともあるけど、資料をひっくり返す気力がないので、時間をかければもうちょっとはちゃんとした文章になるところをそれ未満のメモのコメントに... 続きを読む

コメント(4)

松永英明様
 このたび、ウェブサイト「ろんじんネット」(http://ronzine.net) を公開致しました。
弊サイトは、政治、経済、社会に関する読み応えのあるブログを紹介し
その更新情報や注目されている記事をお伝えするサイトです。
貴ブログを勝手ながらご紹介させていただいておりますのでご挨拶に参りました。
昨今、ブログはその潜在力をまだ充分に発揮していないと考えておりますが、
ろんじんネットは読者と著者双方へのメリットをご提供させていただくことで
ブログの発展を微力ながら後押しできるのではないかと考えております。
突然の、記事内容に無関係のコメント失礼致しました。
松永英明様の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

ご意見拝見されていただきました。ただ、日韓の過去の歴史、日本における在日、竹島問題といった確執を全くご存知ないか、もしくは無視しておられると思います。寒流を問題とする人々は、そういう政治的なファクターから言論を為しています。政治的な問題のないヨーロッパ、アメリカ、台湾、その他の地域などについては反xxといった風潮はありません。まず、日韓の相克ともいえる過去の歴史を勉強なさることを薦めます。

興味深く拝読させていただきました。騒がれている問題はテレビ論、メディア論も絡んでくる問題だと思いますね。なのでかなり根深いかと。

韓国以外の国はどうなのかという視点は興味深いですが、では日本国内ではどうなんでしょうか。そういう考察も面白いと思います。

J-POPと言うけど、実質的には東京POPであり、レコード会社も東京。地方出身のアーティストもいますが殆ど東京住まいですし、やはり東京優位、東京支配という状況と言えるようなものかと。映画でもドラマでもやはり殆ど東京ですし。ロケ地が地方とか舞台が地方としてぐらいですかね。これでも東京優位には違いないでしょうけど。

テレビ番組だと殆ど東京の番組、東京の情報を発信してます。地方の売込みがないわけじゃないでしょうけど厳しいですね。ニュース番組とかワイドショーで東京のグルメ情報とか○○が流行ってると言われても…そんなところおいそれと行けないし、それより首都にある放送局らしく政治について放送してもいいのにとも思ってしまいます。芸人さんとか地方の方が出ていますけど、もう両本社制みたいですし、どうも東京で笑を取る時って地元を卑下して、笑いをとる感じが…。

東京が首都なのだから、経済の中心地東京だから、東京に放送局も映画会社も音楽事務所も集まってるから当然と言えば当然ですが。でもそれって首都都市だからという政治的背景の恩恵なんじゃ…。陰謀論じみてくるので、単に大学の集中が絡んでるからとは推察しますが。

まあ自由主義経済なんだから地方は地方で頑張れよと思いますが。でもそれで首都都市に勝つってのも…難しいでしょうね。最近だとアニメスタジオを地方が誘致しようと頑張ってますけど。

フジテレビに限らずテレビ局は東京流推しって感じします。

松永様
闘病記を読んで大変為になって以来、見させていただいてます(友人が同じ病気(筋肉の方はありませんでしたが)で経緯が非常に似ていて驚きました。)。

K-POPの論評、新しい視点というか非常にまっすぐな視点で説得力があります。
来日するアーチストの歌そのものや日本で推進している企業の商売上の展開については全くその通りだと思います。ただ、一つ付け加えさせていただければ、K-POPのアーチスト達が日本で愛想を振りまいている反面、母国に帰れば、反日の流れに賛同(本心は知りませんが)し、その活動に積極的に参加している人もいるということです。また、韓国自体もこと日本のことになるとすべてが悪い、許せない,と言う論調になっており法律でさえも曲げられている実態があります。知らなければ幸せですが、一度それを知ると、表裏の顔を使い分けているのではと思い、純粋に楽しめません。なんとなく気持ち悪いのです。政治的なこととエンタテイメントとは相容れないし、同じ土俵に乗せてはいけないと思うのですが、裏で悪口を言う人に対しては素直にはなれないということではないでしょうか。

このブログ記事について

このページは、松永英明が2011年8月 2日 14:31に書いたブログ記事です。
同じジャンルの記事は、日本時事ネタ音楽をご参照ください。

ひとつ前のブログ記事は「制服向上委員会の「フジロック狂言」始末」です。

次のブログ記事は「高岡蒼甫氏も批判する不買運動――「相関図関連妄想陰謀論」の問題点」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。
過去に書かれたものは月別・カテゴリ別の過去記事ページで見られます。