「島田紳助」さん、お疲れさまでした。人情に篤いヤンキー気質の光と影

島田紳助さんが暴力団関係者との交際を理由に、後輩に対してこのルール破りは大問題であると教えるために自ら最も重い罰を科すとして、芸能界からの全面的な引退を表明した。記者会見の模様も見たが、「紳助さんらしいなあ」という感想を持った。

わたし自身は紳助さんと会ったことはない。テレビの画面を通してのみである。リアルタイムで「ひょうきん族」ブームに遭遇して紳助竜介の漫才を大笑いして見たのが最初だったと思う。その後、紳助さんは漫才を捨て、特に司会やタレント弄りで活躍してきた。現在に至るまで全国区で活躍し続けてきたその実力は間違いないと思う。

個人的な印象の範囲だが、紳助さんはよくも悪くも「ヤンキー」気質だった。特に、恩を感じた相手は絶対に裏切りたくないという気持ちが強いように感じられた。その義理人情に篤い性格から特に後輩には絶大な支持を受け、また今回の引退につながるような人脈についても手のひらを返して絶縁することができず裏目に出たのだろうと思う。世間では毀誉褒貶も好き嫌いも激しいが、多くの芸能人からこんなに「慕われる」人も珍しいだろう。

今回、紳助さんはきっぱりとけじめをつけた。今後は私人の長谷川さんとして「紳助」の看板なしに事業などを行なうことになるのだろうが、応援していきたいと思う。

以下、すべてわたしの個人的感想である。

2011年8月24日13:17| 記事内容分類:日本時事ネタ| by 松永英明
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義理人情に篤い島田紳助という印象

わたし自身は決して紳助さん100%擁護ではない。

ダウンタウンを始めとする若手が大活躍し始めた当時、心斎橋筋二丁目劇場の芸人はみな好きだったが、その中でメンバメイコボルスミ11も好きだった。だから、メンバメイ・ビクが芸能界を去る原因となったのが紳助さんだったというのは非常に残念に思っている。

それから、わたしはデビュー時以来の渡辺典子の熱狂的ファンであり、今も自分の中では渡辺典子は不動のトップを譲ることがない。なので、紳助さんとの間の不倫疑惑報道はとりわけ残念である(うらやましいとかズルいとかいう気持ちではない……たぶん)。

また、関西圏で生まれ育ったがゆえに関東のお笑いではなかなか笑えない自分だが、東京03はその中でも珍しく(ラーメンズと並んで)抜群に面白いと思う。なので、番組中の東京03への叱責は非常に残念なことだった。

というふうにアンチに回っても仕方のない立場ではあるのだが、それでも紳助さんを嫌いになれないのは、以前見た番組が記憶に残っているからである。深夜の番組で関西圏ローカルだったかもしれないが、紳助さんがしばらく入院し、その退院直後の特別番組があった。その入院中、紳助さんは絶望しかかっていたようだが、見舞いに来てくれた人たちに涙ながらの感謝を述べていた。そして、がんばらなあかん、という決心をしたというようなことを述べていたと思う。それを見て、わたしは紳助さんが素で義理人情に篤い人だという印象を持った。(完全に余談だが、その番組でわたしはBOROの18番まである「大阪で生まれた女」フルバージョンを初めて通して聴き、またそれがBOROさんの実体験に基づいていたことを知ったのだった)

その「人情に篤い」、言い換えればヤンキー気質の紳助さんの性格は今に至るまでずっと受け継がれていたと思う。吉本の女性マネージャーへの暴行についても、暴力は100%肯定できないが、「先輩芸人を呼び捨てにする」ことに腹を立てたというのは義理人情で説明できる。東京03の所属事務所が他の出演者に挨拶する習慣がなかったのはいいも悪いもない話だし、収録中に雰囲気を壊してどうするのかとも思うが、「挨拶しに来なかった」のが叱責の理由になるのはやはり義理人情のルール破りと感じられたからだろう。

義理人情に篤いからこそ、「ヘキサゴンファミリー」の結束もあったのだろうし、逆にその結束の堅さがアンチを生み出す原因にもなったのだと思う。

今回の引退の原因となったのが、元ボクシング世界王者・渡辺二郎被告を介して暴力団関係者とメールのやりとりがあり、また数回会ったことがあったことだ、と報じられている(メールやりとりの事実は、警察からの資料に基づくとも報じられている)。渡辺二郎被告は羽賀研二被告の事件にも絡んでいる。渡辺二郎被告が次第に黒社会に染まっていく中でも、紳助さんは手のひらを返すように「友人」との交流を切れなかったのだろう。そして、その友人を通じて知り合った人からの恩義もまた無碍に捨てきれなかったのだろう。すべては紳助さんの「美徳」である義理人情の落とし穴だった――とわたしは思う。

今後の影響

今後の影響はもちろん大きいが、メディア業界は混乱を乗り越えるだろう。ビートたけしのバイク転倒事故の際にも当然テレビ業界は乗り切ったのだし、紳助さんの後継者もいるはずだ。もちろん、「ヘキサゴン」や「行列のできる法律相談所」などは紳助さん一人のキャラでもっていたようなものだから継続は難しいかもしれない。

しかし、たとえば「開運!なんでも鑑定団」は続けてほしい良番組だ。今田耕司か東野幸治か千原ジュニアなら(石坂浩二のいじり方も含めて)すんなりと引き継げるんじゃないかと思う(紳助の意外な骨董趣味も加味して考えれば、芸術家になってしまった片岡鶴太郎をあえて起用というのもアリかもしれない……とかいろいろ妄想してしまう)。

さて、報道されている内容で考えれば、羽賀研二・渡辺二郎両被告の事件に接点があったことが今回の電撃引退の理由ということになるのだろうが、別の方面に多大な影響があると思う。もしかしたら、紳助さんの「引退」で真っ青になっている芸能事務所があるかもしれない、と思うのだ。

後輩へのシメシを付けたという紳助さんの言葉を裏返せば、吉本の後輩の中に黒社会とのつながりがある芸人はいない、ということになりそうだ。何しろ紳助さんという大物が「数回しか会ったことのない」程度のつながりでも引退という非常に重い罰を自らに科したのだ。そのレベルでの交友がある後輩芸人がほかにいたら、紳助さんより軽い罰では済まない。逆に、もしそういう交流を紳助さんが知っていたら、義理人情の人としては、その芸人を守るためにかえって自らの罰を軽くしただろう(たとえば数年の謹慎とか)。だから、吉本は(過去はどうかしらないが)今はシロ、という確信が紳助さんにはあるのだと思う。

一方、芸能界には黒い噂はつきものである。中には暴力団のフロント企業だとまでいわれる事務所もある。薬物汚染も黒社会の存在と切り離せない。「何度か会った」「メールで感謝した」で紳助さんレベルの大物が完全引退だとすれば、そういうブラックな事務所自体が存続し得ないということになる。紳助さんの「切腹」が意外なところに波紋を呼ぶ可能性は充分に考えられるのではないか。場合によってはこれが芸能界の「完全浄化」につながることもありえると思われる。

だとしたら、紳助さんは自らの「暴力団関係者とのつながりに対する甘い認識」を戒め、後輩芸人に自ら範を示したというだけでなく、芸能界全体に波及する大改革のきっかけをつくることにもなるだろう。これが過大評価で終わるのではなく、現実になってほしいと思う。もちろん、それは政界などにも波及する可能性があると思う。

一方で、紳助さんはもう充分に稼いでいるだろうから、今後の生活には困らないだろう。そして、後輩の芸能人を育てるというようなことは難しいとしても、沖縄のサンゴを守るなど、自分のやりたい事業を進めていくことは可能である。「島田紳助」の看板を下ろして長谷川さんとして活動する今後の紳助さんを、わたしは個人的に応援していきたいと思う。

余論

わたしが一番懸念するのは、「サイゾー」誌の暴走である。サイゾーでは必要以上の、ときには人格攻撃に相当する過剰な中傷的表現で紳助叩きを(特にネット・携帯向け記事で)継続して行なってきた。紳助さんを「前科者」と呼び、「前科者が選挙特番の司会をするのは許せない」という独特のズレた論理で中傷的記事を展開してきた。そのサイゾーが鬼の首を取ったように勝ち誇るのは許し難い。

あと、「島田紳助の報道で隠れてしまったニュース」というような表現(あるいはさらに「隠すための」何かというような陰謀論)はどうかと思っている。それは単に自分が紳助に気を取られていて見逃したというだけではないか。

確かにテレビなどの大手メディアには「アジェンダ設定機能」があるとされる。これは賛否は別にして、テレビなどは「今の話題(=アジェンダ)はこれですよ」と示す力が大きいということである。ネット検索語のランキングの大半がテレビ番組の放送内容や番組名で占められている現状を見れば、確かにアジェンダ設定機能は強力である。だが、だからといって「紳助報道で隠されたニュース」というような発言をするのであれば、「メディアの強力なアジェンダ設定機能に翻弄されるか弱い私」を演出したいのだとしか思えない。

「公共の電波を使っている」テレビ放送の内容がそれにふさわしいかどうかという議論はテレビ放送開始以来延々と繰り返されてきた議論であるが、メディアリテラシーにおいては「受け手がどのように取捨選択・判断するか」を問われる。わたしたちには情報源を取捨選択する自由と責任があるのだ。

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