ランチェスターの法則は使えないときもある

 兵力は集中させるべきである、という「ランチェスターの法則」は、ビジネスやロジスティックの世界でもよく紹介されている。これについて、少し前の記事なのだが、ゲームデザイナーのErnest Adams氏がゲーム製作関連情報サイト「Gamasutra.com」に寄稿した記事「数で標的をたたけ:ランチェスターの法則」が興味深いので、訳して紹介してみたい。

 ランチェスターの法則は現実の戦闘ではあまり役に立たないらしい。では、どういうときにこの理論が役に立つのか。アダムズ氏の分析は非常に明快である。

2004年10月19日16:23| 記事内容分類:戦略・戦術| by 松永英明
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数で標的をたたけ:ランチェスターの法則

Gamasutra - Features - "The Designer's Notebook: Kicking Butt by the Numbers: Lanchester's Laws"

by Ernest Adams 2004年8月6日

 2カ月前、数学者ジョン・アレン・パウロス(John Allen Paulos)がABCニュースのウェブサイトに寄稿した記事をたまたま見つけた。これは、ラムズフェルド国防長官がイラクにおいて、軍事侵攻に伝統的に必要とされている大部隊を使わず、少数の重武装兵力を使っていることについて疑問を投げかけるものだった。この記事は2003年3月に書かれたもので、当時イラク紛争はまさに進行中、そして結果はまだわかっていなかった。パウロスの分析ではランチェスターの二乗の法則というものが紹介されていた。これは軍事力の強さを計算する数式である。この問題については興味があった。戦略ゲームのバランスをとるという問題について興味があったからだ。そこでもう少しこれについて調べてみることにした。

勝利(または敗北)予測可能理論

 ビデオゲームの設計について、市場には多くの本が出ている。驚いたことに、ランチェスターの法則について扱っている本はまったくなかった。困ったことに、私自身の本もそうだった――もし第2版が出るようなら改訂したい。さて、ここでは「オペレーションズ・リサーチ」と呼ばれる大きな話題についての非常に簡単な紹介をする。軍事戦略理論家はここで読むのをやめてもいい。知らないようなことは何も書いてないから。

 ある規模の砲兵隊があるとしよう。そして、敵は異なった規模の同じ砲兵隊を有している。双方がお互いに発砲し合って、お互いの数を減らしていく。もし他のすべてが等しければ、どちらが強いだろうか? わかりきっている。砲の多い方だ。では、どれくらい強いのだろうか? わかりきっている。第1の軍と第2の軍の規模に比例するのだろう? 青軍は赤軍の3倍の野戦砲を持っているから、青は赤の3倍強い――

「それは違う!」とフレデリック・ウィリアム・ランチェスターは言う。ランチェスターは19世紀半ばから第2次世界大戦の時期まで生きた数学者だ。ランチェスターは、ヴィクトリア朝の英国を世界の支配者にした強力な人物の一人だ――英国初のガソリンで動く自動車を造り、パワーステアリングとディスクブレーキを発明し、航空力学の問題を学び、オペレーションズ・リサーチ(OR)の分野を開拓した。ORはもともと、巨大と物資を移動させるような兵站(ロジスティクス)についての問題を解決するために考案された。しかし、今、それは戦闘だけではなく、ビジネスや産業シミュレーションでもよく使われている。

 1916年、第一次世界大戦の最中に、ランチェスターは対立する部隊の間の力関係を実証するために、一連の微分方程式を考案した。その中には、ランチェスターの線形法則(古代の戦闘用)とランチェスターの二乗の法則(近代戦用)がある。古代の戦闘では、槍を持ったファランクス(重装歩兵の方陣)の間で、一人の兵士は一人の相手としか闘うことができなかった。もしそれぞれの兵士が1対1で殺し、殺されるならば、戦闘後に生き残っている兵士の数は、数の多い部隊から少ない部隊を引いた数となるはずである(同じ武器と仮定すれば)。上で「わかりきっている」と書いた結論は、この法則によるものだ。

 しかし、近代戦では、砲兵隊がお互いに離れたところから攻撃を仕掛ける場合、砲は複数の標的を攻撃することができ、また複数の方向から攻撃を受けることになる。ランチェスターは、このような軍の兵力は、部隊自体の数ではなく、部隊の数の二乗に比例しているとした。これはランチェスターの二乗の法則として知られている。

 それはなぜだろうか。青軍が赤軍の3倍だったとしよう。これは、赤軍が発砲する3倍の火力で集中的に攻められるということである。そして、赤軍の火力は、青軍の3倍拡散するということである。この2つの条件を組み合わせると、青軍は赤軍の3倍の兵力を持っているだけだが、青軍は赤軍の9倍強いということである。同様に、戦闘終了後に残る部隊数は、両陣営の部隊数の二乗の差の平方根となる。言い換えれば、もし青軍が5部隊、赤軍が3部隊を有しているなら、戦闘後に青軍に残る部隊は4ということだ。(5の二乗マイナス3の二乗=16、その平方根は4)

まっすぐに打ちすえられる

 ここから、ランチェスターが「集中の原則」と呼ぶ結論に導かれる。近代戦では、巨大な兵力ほどよい――実際、最初に思っているよりその結果はずっとよくなる。これは誰でもわかっていそうなものだが、重要な戦略上の結果を有している。ナポレオン戦争のとき、英国海軍戦略は、フランスとスペインの艦隊を合流させないことにあった。それによって英国に対して力を合わせることを阻止したのだ。トラファルガル海戦でネルソン提督が勝利したのは、数で上まわる敵の兵力を分断し、それが合流するまえに小グループを撃破したからだった。

 ランチェスターの二乗の法則の結果をもう一つ示そう。アメリカは軍事技術の質を誇る――これはランチェスターが「武器効率」と呼んだものだ。あるいは、もっとぶっちゃけて言えば「殺傷率」がいいということだ。敵よりよい技術を持っているとどういう結果になるだろうか?

 もし赤軍と青軍の部隊数が同じだが、赤軍の武器効率が青軍の2倍なら、赤は明らかに戦闘に勝利する。赤軍が1人死ぬ間に、青軍は2人死ぬわけだ。しかし、青が3倍の兵数を有しているなら、、赤軍が技術的な優位を示しているにもかかわらず、二乗の法則によって赤軍は持ちこたえる。青軍の数学的優位は、赤軍の技術によって9倍優位から4.5倍優位に弱められるが、それでも青軍はまだ赤軍を打ち破る。敵の数の優位を埋め合わせるためには、技術的な殺傷力は、敵の数の二乗も進歩させねばならない。パウロス博士が言うように、数がN倍増えたときの効果を得るには、質はNの二乗増えなければならない。それは無理な注文だ。

栄光は誰のものか?

さて、ランチェスターの法則は完璧とはとうてい言いがたい。一つには、それは一方が他方を掃討する消耗戦にのみ当てはまる。もし戦闘に「勝つ」ことが別の方法によるのであれば――そして現代西洋の軍事は合理的な目的として、最後の一人まで敵を掃討するということは考えていない――ランチェスターの法則では誰が勝つかということを言えない。ナポレオンはロシア進軍の戦いすべてに「勝った」が、98パーセントの兵力を失い、目的を達成せずに撤退しなければならなかった。同様に、「栄光の6月1日」と(英国が)いう海戦では、英仏のどちらが勝ったのかという議論がある。1794年6月1日、26隻の軍艦から成る英国小艦隊がフランスの同規模の小艦隊を攻撃し、7隻の船を沈めるか奪取し、残りを混乱に陥らせた。英国は1000人以上が死傷した。フランスは7000人近くだった。それは英国の勝利のように見える。しかし、そのフランス小艦隊は、食糧不足で革命中のフランスに向かうアメリカの穀物輸送船117隻を護送していた。輸送船はすべて逃れ、港にたどりついた。フランス側にたって言えば、小艦隊の貴い犠牲が戦略上の勝利を生んだといえる。

 また、ランチェスターの法則は、地形、士気、武器の範囲、移動と展開、奇襲、天候など、何世紀にもわたって戦闘を決定してきた多くの条件を考慮に入れていない。実際、様々な人たちが、実際の戦闘状況ではランチェスターの法則はほとんど役に立たないと論じている。(さらに詳しい批判としては、トレヴァー・N・デュプイ(Trevor N. Dupuy)大佐の著書を参照。デュプイは数字上の分析ではなく、現実の歴史的戦闘に基づく経験的な戦闘モデルを好む) 言い換えれば、数学的なモデルやコンピューター・シミュレーションはいかにも結構なのだが、それは現実の戦闘状況を模したものではないから、実際の軍事プランナーにとってどれほどの価値があるかを知るのは難しい、ということだ。

公正な戦い

 しかし、我々ゲームデザイナーにとって、ランチェスターの法則はやはり極めて有用だ。ゲームデザイナーは、自分たちが実際の戦場の状況を模しているわけではないことをわかっている――エルフとトロール、ロボットとエイリアンのウォーゲームを設計しているわけではなくても。すべては数学的なモデルである。作り出されるものはすべて、コンピューター・シミュレーションである。もし我々の結果が歴史的な事実を反映しないとしても、それは問題ではない。歴史的な事実は目的と関係がないのだから。

 現実の軍事的シナリオではランチェスターの法則は疑わしいかもしれないが、対立勢力のバランスについて戦略ゲームデザイナーが使うなら、それはよい数学的モデルとして役に立つ(マイクロソフトの「Rise of Nations ~民族の興亡~」を思い浮べてほしい)。

 異なったユニットタイプの費用と生産率を設定するような問題では、ランチェスターの法則は特に有用である。人類がロボットタンクをある期間に製造するのと同じ時間で、エイリアンはスライム吸血ヒルを2倍作れる。そして、両陣営は同じユニットに対して同じ費用を払うとしよう。そして、スライム吸血ヒルの武器効率は、ロボットタンクとまったく同じだとする。ランチェスターの二乗の法則によれば、両陣営が5分間生産した後、エイリアン軍は人類軍に比べて2倍の兵力を有するが、4倍強いのに費用は2倍で済むのである。明らかにエイリアン軍は非常に有利だ。2倍の生産率を埋め合わせるためには、スライム吸血ヒルは理論上少なくとも2倍の費用がかかるべきだ。ゲームの他の要素と合わせて、実際にそれがどのように作用するかということは、プレイテストでのみわかることである。

 戦闘分析のメリットについては、多くの議論がある。そして、長い年月の間に様々な理論が誕生してきた。兵站(ロジスティクス)、ビジネス、産業上の応用であれば、実際の戦闘よりもオペレーションズ・リサーチ法に適している。関係者の感情やリーダーのカリスマによって影響されることが少なく、理性的な活動となるからだ。しかし、ウォーゲームでは、兵士の感情やリーダーのカリスマというものはあまり再現しない――それはあまりにも大きなランダム要素をもたらすことになってしまう。我々の目的にとって、ランチェスターの法則から始まるオペレーションズ・リサーチ法は価値のある手段のようだ。

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コメント(5)

宇宙空間では三乗の法則になりますか?

細かいところがわからないので、ランチェスターのもとの論文を読みたいと思ってるんですが……3乗になるような条件って何だろう?

農家の本棚運営者の玲治です。
トラックバック張らせていただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

書いてある内容を見たが
あなたは理論や数式をいじるほど
頭がよくない。単なる受け売りだけだと
さびしいですよ。

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