【絵文録ことのは】HOME > [メディアリテラシー, 自然科学] > あるある大事典の「納豆ダイエット」の論文解釈には最初からムリがあった

あるある大事典の「納豆ダイエット」の論文解釈には最初からムリがあった

 さて、前回の記事(あるある大事典の「実験捏造」は「納豆ダイエットに効果がない」を意味しない [絵文録ことのは]2007/01/23)では、「実験そのものがなされていなかったのだから、それだけでは「納豆ダイエットには効果がなかった!」とは言えない」という、論理的には当たり前の話を書いた。

 その後、ようやくあるある大事典が典拠にした論文を見つけることができたのだが、それを読むと、そもそも「納豆→DHEA→ダイエット」という論理展開にムリがあることがわかった。

 もちろん、前回も述べたとおり、別の理由による納豆ダイエットの効果を否定するつもりはないし、極端に走って納豆に栄養がないと主張するのもおかしな話である。しかし、「あるある」が主張しようとした内容は、そもそもの論文からも読み取れないものである、ということははっきり言えると思う。

2007年1月23日22:06|記事内容分類:メディアリテラシー, 自然科学|by 松永英明
この記事のリンク用URL|コメント&トラックバック(8) ≪ 前の記事 ≫ 次の記事
タグ:論理
はてなブックマークに追加 はてなブックマークに追加 (旧:del.icio.usに追加 del.icio.us に追加 MM/Memoに追加 MM/Memo に追加
newsing it!newsing it! この記事をクリップ!LivedoorClip FC2ブックマークFC2ブックマークへ追加 twitterでこの記事をつぶやく

DHEAの効果についての論文を読む

 だ通東改:納豆その後によると、典拠となった論文として以下の3つが挙げられている。

  • 「副腎皮質から分泌されるDHEAというホルモン物質にはダイエット効果が認められる」 ワシントン大学 デニス・T・ヴィジャレアル教授
  • 「イソフラボンの摂取によって体内のDHEAが増加する」 カナダ・ゲルク大学 バーバラ・L・リリンガハム氏
  • 「イソフラボンの摂取には納豆が効果的である」 昭和女子大学 中津川研一教授

 まず、第一の論文によると、DHEAに腹部脂肪を減らす作用があることは事実のようである。以下、翻訳は松永。

高齢の男女に対する腹部脂肪とインシュリン反応に対するDHEAの効果:無作為にコントロールされた試験

前提:Dehydroepiandrosterone ( DHEA )投与は、実験動物の腹部内臓脂肪の蓄積を減らし、インシュリン抵抗から保護することが認められたが、DHEAが人の腹部肥満を減少させるかどうかはわからない。DHEAは処方せんの不要な補助サプリメントとして広く使われている。

目的:DHEA代替治療によって、年配者の腹部脂肪が減少し、インシュリン作用が改善するかどうか調べること。

計画と設定: 無作為、二重盲式、プラシーボ制御の試験。合衆国の大学の研究センターにて2001年6月から2004年2月まで行なわれた。

被験者:DHEAレベルが老化とともに減少している46名の高齢者(女性28名、男性28名、平均71歳(65~78歳の範囲))。

方法:被験者は無作為に、1日50mgのDHEAまたは対応する偽薬を6か月にわたって与えられた。

主な結果基準:主たる結果基準は、MRIによる内臓脂肪・皮下脂肪、ならびに経口ブドウ糖耐性テスト(OGTT)に対するブドウ糖とインシュリンの反応についての、6か月間の変化。

結果:参加した56人の男女のうち、52人に追跡評価がなされた。方法を守ったのはDHEA群の97%、偽薬群の95%であった。「治療の意図」による分析に基づくDHEA療法と偽薬の比較では、内臓脂肪領域(それぞれ-13cm2 vs +3cm2、P=.001)、皮下脂肪領域(-13cm2 vs +2cm2、P=.003)における顕著な減少を示した。OGTT中のインシュリンカーブは、6か月のDHEAセラピー後に偽薬と比べて顕著な減少を示した(2時間で-1119 muU/mL vs 2時間で+818 muU/mL、P=.007)。インシュリンレベルが低いにもかかわらず、ブドウ糖AUCは変化せず、DHEAに対するインシュリン感度反応は偽薬と比べて顕著に増加した(+1.4 vs -0.7、P=.005)。

結論:DHEA代替は、腹部肥満と関係するメタボリック・シンドロームの予防と治療に役立つ可能性がある。

 しかし、第2の論文は「イソフラボンでDHEAが増える」というふうには読めない。同じく訳してみる。

イソフラボン含有量の違うタンパク質が、健康な若者の血清再生ホルモンに小さな効果を及ぼす。

Dillingham BL, McVeigh BL, Lampe JW, Duncan AM.

Department of Human Biology and Nutritional Sciences, University of Guelph, Guelph, Ontario N1G 2W1, Canada.

 大豆と前立腺がんには逆相関性があり、前立腺がんに対してホルモンが寄与しているということから、人の血清ホルモンに大豆タンパクが影響するか否かを調べる現在の研究を行なうこととなった。

 35人の男性が牛乳タンパク(MPI)、低イソフラボン大豆タンパク(SPI))(一日あたり1.64+/-0.19mgイソフラボン)、高イソフラボンSPI(一日あたり61.7 +/- 7.35mgイソフラボン)を57日間、無作為対照形式で摂取した。

 24時間の尿サンプルでは、高イソフラボンSPI群では低イソフラボンSPIとMPIに比べて尿イソフラボンが顕著に増加していることが示された。

 1日目、29日目、57日目にそれぞれ採取された血清では、ジヒドロテストステロン(DHT)とDHT/テストステロンが、57日目のMPIと比べて、低イソフラボンSPI(それぞれ9.4% (P=0.036)と9.0%(P=0.004))と高イソフラボンSPI(それぞれ15%(P=0.047)と14%(P=0.013))と顕著に減少していた。

 29日目に、低イソフラボンSPIは、MPI(P=0.023)と高イソフラボンSPI(P=0.020)に比べてテストステロンが減少した。硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は、29日目にMPIに比べて低イソフラボンSPIで増加し(P=0.001)、57日目にはMPI(P=0.0003)と高イソフラボンSPI(P=0.005)に比べて増加した。エストラジオールとエストロンは、57日目に低イソフラボンSPIがMPIに比べて増加した(P=0.010とP=0.005)。

 結論として、大豆タンパク質は、イソフラボン含有量にかかわらず、他のホルモンに小さな影響を与えてDHTとDHT/テストステロンを減少させた。これは大豆タンパクがホルモンにいくらかの影響を与える証拠となる。

 将来の前立腺ガンの危険への効果の大きさの関係は、さらに研究が必要である。

 イソフラボンじゃなくて大豆タンパクの方が、牛乳タンパクに比べてDHEA増加にいい効果をもたらした、という話である。となると、話が違ってくる。3つめの論文は今のところ見ていないが、読む必要がなくなってしまう。

  • DHEAにはダイエット効果がある……○
  • 大豆イソフラボンでDHEAが増える……×(大豆タンパクの効果なら少しある)

となり、

  • 納豆で大豆イソフラボンが摂れる

ということをいくら証明しても無駄だからである。むしろ、大豆タンパクが摂れればいいのだから、豆腐でも豆乳でもおからでもいいということになる。

 だから、「納豆」でなければいけない理由は消え失せてしまうということになる。

あるある式納豆ダイエットは「間違い」

 ここまで調べて初めて、「納豆を毎日2パック食べればDHEA効果でやせる」ということは間違いである、と主張できると思う。

 まず、第一の論文では、DHEAを半年摂取して、内臓脂肪・皮下脂肪ともに13cm2の減少があったという(それから考えると、半月ばかりで「全然やせない」とか文句を言っている人たちもおかしいのだが)。しかし、これはDHEAを直接摂取した場合である。

 問題は、どれだけの大豆タンパクからそれだけのDHEAが作られるのか、ということだ。もちろん、大豆タンパクがいい影響を与えるのは確かだが、その影響は小さいとも述べられている。

 だから、「納豆をはじめとする大豆タンパク食品はカラダにいいですよ。その効果の一つとして、腹部脂肪を減らすDHEAが作られますよ」という範囲なら、まさに「納豆の効果あり」と言ってもいいだろう。それは実験で証明されている。また、前回紹介したように、ダイエットの一環として納豆も取り入れた、という人たちには(つまり、総合的にバランスのとれたダイエットをしていた人には)効果があったと思われる。

 しかし、「納豆を一日2パック食べればDHEA効果でみるみるやせる!」みたいな言い方をするのは、もはや「正確ではない」を超えて「誤り」と言ってもいいだろう。なぜなら、「イソフラボン→DHEA」という結びつきがあまりにも弱すぎることが、過去の実験から明らかだからである。

 DHEAの効果は、あくまでもバランスの取れたエネルギー収支と食事バランスの上に成り立つものと考えるべきではなかろうか。

実験があれば「効果がない」もちゃんと言える

 さて、前回の記事では、単に「あるある」の実験がデータ捏造したものであったというだけでは、「納豆ダイエット」の真偽は何も語れない、という当たり前のことを述べただけである。これに対して、疑似科学への反発の強い人たちは「いや、裏付ける証拠がなければ、間違いだと言い切った方がいい」と主張したが、証拠がないなら単に「真偽がわからない」と考えるべきだろう。「肯定する証拠がないのだから、嘘」は、「否定する証拠がないのだから、本当」の裏返しにすぎないからである。

 しかし、今回の記事は話が違う。なぜなら、今までに存在する実験結果をもとに話しているからだ。もちろん、その実験や推論が妥当なものかどうかという検証も本当は必要なのだが、今回はひとまず、「あるある」が根拠とした論文の概要を読んでみた。その結果、「あるある」のような結論は導き出せない、と考えられる。

 前回の記事に対して、「効果がない、ということを実験で示せ、というのは悪魔の証明」という意見があったが、それは間違いである。少なくとも、この「イソフラボンとDHEAとの関係」については、有意な結果が出ないという実験結果があり、これは「関係がない」ことを証明した「大豆イソフラボンでやせる効果があるとは認められない」ことを証明したといえる(また、大豆タンパクについては、「小さな影響」があることが証明された、といえよう)。(※この部分、ブックマークコメントにより言葉遣いを厳密に修正。さすがに「有意な結果がない=無関係」と言うと厳密な言葉遣いではなかった。「影響があるとまでは言えない」くらいの感じか。もちろん、極めて厳密に言えば「偶然で起こる程度の関係性しか認められない」ということになる)

 ここから考えれば、「納豆をバカ食いすることによって生成されるDHEAによるダイエット効果」については、まさに「あるある」が持ち出した論文によって、効果の小ささを証明できるということになる。

 何度も繰り返しになるが、「実験そのものがなかった」ということは、納豆の効果について何も述べていないに等しい。だが、何らかの実験があったならば、そこから効果の有無を発言できるのである。

最後に

 私は納豆が嫌いだし、ダイエットの必要もまったくないので、この件についてはまったくもって「どっちでもいい」わけである。ただ、ヒステリックな「納豆礼賛」と、ヒステリックな「テレビ番組に騙された」が渦巻く中、もうちょっと冷静に考えられないものか、と思ったのがこの問題について調べてみるきっかけとなった。

 大体において、食事のバランスを無視して、何か一品だけとっていればやせるというようなダイエットは、ことごとく問題があると思っていいんじゃないだろうか。ダイエットに限らず、健康食品はみなそうである。健康食品に含まれる「いい成分」は、確かにいろいろな実験によって効果が裏付けられていることだろう。しかし、それも、たとえばメガマックを毎日食べまくっていたら、せっかくの効果も台無しである。暴飲暴食に不規則な生活をしていて、健康食品で全部覆せるなどということはありえない。当たり前のことだが、健康食品もサプリも、あくまでも補助なのである。

 DHEAについても、バランスのとれた食事をしていれば自然に生成されるものだろう。医食同源である。しかし、納豆を異常に多く摂るのでは、逆にバランスがとれなくなる。

 「納豆でやせる」と聞いて飛びつくのは、何かのおまじないと変わらないような気がする。試験勉強でも、きちんと勉強していた人なら合格のお守りで心が落ち着いて無事合格するだろうが、勉強もせずにお守りで何とかしようというのは本末転倒だ。そんなアンバランスを、こういう「テレビ番組で紹介された食品に飛びつく」という行動に重ね合わせてしまう。赤ワインのポリフェノールも、大豆イソフラボンも、黒酢も、確かに効果のあるものだ。しかし、それだけあれば何もかもよくなるように思うのはおかしな話。一時的には効果があっても、本当にカラダにとってどういう影響があるのか、考えてみたほうがいいと思う。しかし、お手軽なものにすがりたいという思いから、メシマコブやアガリクスを求めて奔走するのだろうか。

【広告】★文中キーワードによる自動生成アフィリエイトリンク
以下の広告はこの記事内のキーワードをもとに自動的に選ばれた書籍・音楽等へのリンクです。場合によっては本文内容と矛盾するもの、関係なさそうなものが表示されることもあります。
2007年1月23日22:06|記事内容分類:メディアリテラシー, 自然科学|by 松永英明
この記事のリンク用URL|コメント&トラックバック(8) ≪ 前の記事 ≫ 次の記事
タグ:論理
はてなブックマークに追加 はてなブックマークに追加 (旧:del.icio.usに追加 del.icio.us に追加 MM/Memoに追加 MM/Memo に追加
newsing it!newsing it! この記事をクリップ!LivedoorClip FC2ブックマークFC2ブックマークへ追加 twitterでこの記事をつぶやく

コメントとトラックバック

[No.1] 投稿者:あらま[2007年1月24日 07:43]

リノール酸や加工された植物油の論文もおもしろいよ。
そもそも、WWWというのは、研究者の論文を研究者が共有しやすくするところが原点。グーグルの検索は、ここはしっかり押さえてある。ところが、ニッポンは政治経済にしか興味がないようで…。で、アメリカはおもしろ国で、変な論文もたくさんあったりするみたいだよね。なので、「論文の作り方」をリクエストしたい! というか、ことのははフランクな論文提供しているよね。

[No.2] 投稿者:ha0[2007年1月24日 11:08]

疑似科学って
1、錬金術的理由(金や視聴率)
2、宗教的理由(道徳とかも)
3、大衆論敵理由(迷信、赤信号みんなで渡れば怖くない)
ぐらいがはやる理由かな?
環境問題も2の理由で必要以上に盛り上がってる気がします。
(ネクタイはずすくらいどうってことないですけど)

[No.3] 投稿者:newKamer[2007年1月24日 12:52]

> これに対して、疑似科学への反発の強い人たちは「いや、裏付ける証拠がなければ、間違いだと言い切った方がいい」と主張したが、証拠がないなら単に「真偽がわからない」と考えるべきだろう。「肯定する証拠がないのだから、嘘」は、「否定する証拠がないのだから、本当」の裏返しにすぎないからである。

 『「効果がある」とするのはデタラメ』とはいえますね。

[No.4] 投稿者:松永[2007年1月24日 17:16]

>『「効果がある」とするのはデタラメ』
とは言えますね。その表現は正しいと思います。

[No.5] トラックバック:「Podcast『週刊朝日編集長登場、今週の読みどころ:「納豆ダイエット」捏造をスクープ!事実はいかに解明されたか』を聴く」(PE2プレイ記録ほか)[2007年1月25日 20:52]

納豆ダイエット あるあるでの捏造について。納豆を開けて20分待つと増えるという物質がダイエットに効くという放送にたいして、取材内容を語る。 http:...……[全文を読む]

[No.6] 投稿者:newKamer[2007年1月29日 12:17]

> DHEAにはダイエット効果がある……○

に対してのコメントを見つけましたので、こちらにリンクさせていただきます。
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070127#p1

[No.7] トラックバック:「「発掘!あるある大辞典2」納豆ダイエットねつ造問題(途中経過まとめ)」(Net-a-Go-Go 【 ネタGo-Go 】)[2007年2月 1日 08:49]

納豆大好きネタ55を困惑させた「あるある大辞典、納豆ダイエット効果捏造事件」のこれまでをリンクでまとめてみました。 すべてはここから始まりました...……[全文を読む]

[No.8] 投稿者:たま[2007年2月10日 15:19]

 おもしろく読ませて頂きました。
 関西テレビ(と制作会社)は増産で余った納豆を買い占め、社員全員で毎日2パック食べて身体への影響を1ヶ月モニターして統計データを示せば多少なりとも世間受けはよくなるのではと思ったりもします(笑)。それはそれで興味深い実験結果が出ると思うのですが・・・。
 あと、関テレがいう「実験がなかった」というコメント自体がうさんくさいんですよねー。血液採取は医師がいないと出来ないと思うし、とるだけとってなんにもしなかった(すなわち捨てた)というのも・・・。きっと数値測定したら太ってた的な結果だったので闇に葬り去ったのだろうと妄想してます(笑)。
 長々と自分の意見を書いてすみません。

このエントリー登録状況一覧

はてなブックマークMM/MemoLivedoorClip

トラックバック(参照元逆リンク)用URL

この記事へトラックバックする場合は、このトラックバック用URLを、あなたのウェブログ等の投稿ページの「トラックバック先のURL」欄に入れて更新してください。
トラックバックが重複しても削除依頼コメントは不要です。見つけ次第適当に消します。
こちらの記事へのリンクのないトラックバックは受け付けていません。無関係な記事からのトラックバック、宣伝のみのspamトラックバックは削除することがあります。
記事内容と関係のないコメントは削除します。

コメント(ご意見・ご感想)を投稿する

名前、アドレスを登録しますか?
 

【絵文録ことのは】HOME > [メディアリテラシー, 自然科学] > あるある大事典の「納豆ダイエット」の論文解釈には最初からムリがあった

≫ 次:Amazonアソシエイトの紹介料率システム変更にともなう戦略の変化
≪ 前: あるある大事典の「実験捏造」は「納豆ダイエットに効果がない」を意味しない