「パンダ人」趙半狄氏はなぜ「カンフーパンダ」上映に反対したのか

zhaobandi.jpg映画「カンフーパンダ」急遽上映中止―四川省」(レコードチャイナ)の記事によると、四川省の芸術家趙半狄(ジャオ・バンディー)氏が映画「カンフーパンダ」にクレームをつけ、四川省内では当面上映を見合わせることとなった。

趙半狄氏とは何者なのか、どうして「カンフーパンダ」を槍玉に挙げているのか、よくわからなかったので少し調べてみた。

※追記:「カンフーパンダ」の上映が再開 レコードチャイナ

2008年6月22日15:28| 記事内容分類:中国時事ネタ| by 松永英明
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パンダ人・趙半狄

そもそも趙半狄氏とは何者なのか。調べてみると、アーティストとしての趙半狄氏を紹介した2006年の日本語記事が見つかった。写真もあるので、リンク先を参照のこと。

趙半狄さん

1966年北京生まれ。88年に中央美術学院の古典油絵学科を卒業。パンダのぬいぐるみ「ME」と対話の形で「禁煙」や環境保護の問題などを語った作品で話題を呼び、「熊猫人(パンダ人)」との異名を得る。99年、ヴェネチアビエンナーレ出展の他、世界各地で作品を展示。シリーズに「公益広告出場」、「趙半狄の2008年オリンピック」(現在制作中)などがある。今年秋、798廠の北京公社で「趙半狄は歴史と社会の隙間を走り、新しく潜在的な社会エネルギーの主体になっている。これは何を意味するのか?」をテーマに趙半狄個展を開催した。

パンダをテーマにしたアートを作り続けている人のようである。そして、どうやらパンダ絡みでいろいろと「お騒がせ」な人でもあるようだ。

パンダ・ファッションショーで「売国奴」と非難される

2007年11月4日、趙氏はパフォーマンス・アート「パンダ・ファッションショー」を開いた。

パンダ・ファッションショーの写真は以下のページで見られる。

ところが、このイベントによって、趙氏は、高い評価も得る一方で、「反愛国的」とまで言われる大きな批判を受けた。

 原因となったのが今月4日に行われたパフォーマンス・アート「パンダ・ファッションショー」。白黒のパンダカラーを使い、汚職高官、愛人、売春婦、ホステス、物ごい、清掃員など中国社会を象徴する職業をファッションで表現し、風刺性とユニークさでは高い評価を受けた。だが一方で、市民の間からは「中国の誇りパンダを愚弄(ぐろう)する行為」「反愛国的」と批判がわき起こった。

 さらに“パンダ保護”をうたう成都市が、このほど「パンダ保護と産業化の立法に関する意見報告」を発表。来年にも制定される「成都市パンダ保護管理条例」には、パロディーなどパンダの商業利用を禁止する条項を盛り込み、パンダの名誉、イメージも保護する方向だ。

どうやら中国国内でも評価は二分しているようである。

カンフーパンダ上映延期についての報道

さて、今回(2008年6月)のカンフーパンダ上映反対の申し入れと、映画上映延期についての報道を一部引用しておく。

 20日から中国各地で上映が始まった米ハリウッドのアニメ映画「カンフーパンダ」が、地震で大きな被害が出た四川省では映画館の自粛で上映延期となった。中国新聞社電によると、パンダを創作対象にしている前衛芸術家、趙半狄さんのボイコット呼び掛けがきっかけ。

 趙さんは「中国の宝であるパンダとカンフーを勝手に使い、米国式の刻苦勉励の物語を作り上げ、災害で生き残った人たちから金を巻き上げようとしている」と自身のブログでこの映画を批判。外国映画の上映許可を出す国家ラジオ映画テレビ総局に抗議していた。

 一方で、同電は「愉快で楽しいこの映画は、震災で再建中の人にとって最適な娯楽映画。パンダは意志堅固で災難に立ち向かう英雄として描かれており、映画を見た人はパンダをもっと愛するだろう」とこの映画を評価し、上映延期に疑問を呈するメディア関係者の話を伝えている。

 趙さんは映画制作会社がパンダとカンフーを無断で利用したことに加えて、米ハリウッド女優のシャロン・ストーンさんが四川大地震とチベット情勢を結びつける発言をしたことを問題視し、国家広播電影電視総局に上映見送りを要請した。

「カンフーパンダ」を排除せよと要求したのは、四川省の芸術家趙半狄(ジャオ・バンディー)氏。彼によれば、「カンフーパンダ」は「中国の国宝とカンフーを盗み、中国で儲けようとしている」ことと、問題発言で物議を醸したシャロン・ストーンと同じハリウッド映画であることが問題だとのこと。この要求を受け、成都の5系列の映画館が「一部の観客より『カンフーパンダ』の内容が不適切であるとの意見があったため、当面この映画の上映を見合わせる」と発表した。これにより、成都市内の映画館ではチケット払い戻し手続きが始まった。しかし、多くの観客は理解できないとし、一部の観客からは、上映再開後にこのチケットの日付を変えて観られないかという声もある。

一方、配給元のパラマウント映画ではこの情報に対してノーコメントとし、中国のその他の地域では、20日より予定通り上映されている。

監督の一人、マーク・オズボーン氏は若い頃から中国文化に興味を持ち、30年間中国文化を研究してきた本格派。今年の北京五輪に合わせ、映画というもっとも身近で楽しい手段を通じ、中国を世界に紹介したいという。オズボーン監督はこう言う。「だから、『カンフーパンダ』は私の中国カンフーに対する敬意を表したものなのだ」。

カンフーパンダ

「カンフーパンダ」は、スティーブン・スピルバーグ率いるドリームワークスが手がけたカンフー・アニメーション。監督はマーク・オズボーンとジョン・スティーヴンソン、声優としてジャック・ブラック、ジャッキー・チェンら大物が出演している。日本では7月26日公開予定である。

趙半狄ブログでの本人発言

検索してみると、趙半狄氏本人が開設しているブログが見つかった。

このブログの最近のいくつかのエントリーで、この件について詳細に本人が語っていたので、おおざっぱに訳してみる。どうやら、スピルバーグも絡んだハリウッド映画であることが、先日のハリウッド女優シャロン・ストーンの中国地震への失言に絡んで、趙半狄氏の怒りに触れたようである。

中国地震に「応報」と言ったハリウッドは出て行け! 「カンフーパンダ」出て行け!

 わたしがなぜ、シャロン・ストーンの悪行についてハリウッドと関連づけているかといえば、ハリウッドは、その気質と価値観が大量のシャロン・ステートのような人物を生み出しかねないところだからである。中国人に恥じることのないこの女優は、その言行によって「現場」からの批評を受けるどころか、かえって「光環」を誇示している。ハリウッドはこのような場所であり、そこでは親しみを込めてシャロン・ストーンの傲慢・虚偽・邪悪に拍手している。シャロン・ストーンは、道徳が欠けているがゆえに、道徳に欠けるハリウッドにおいてのみ、人気を博しているのだ。

 このようなハリウッドは、他人の不幸を嘲笑して喜び、中国の災難を考えず、それどころか生き残った中国からなおも金をかすめ取ろうとしている! 今月20日、ハリウッド映画「カンフーパンダ」がまさに中国のスクリーンに進出しようとしており、これは簡単に言えば、災害で亡くなった同胞の体のネックレスや腕時計に群がるようなものである!

 中国のパンダアーティストとして、わたしは言いたい。「FUCK ハリウッド! FUCK『カンフーパンダ』!」。米国CNN司会者の言い方を借りれば、こう言うこともできる。「数十年変わることなく、ハリウッドはずっと文化ゴロツキ、文化強盗である!」

 わたしたち中国人は寛容すぎる。いつも同胞は「他の人の立場」で問題を見、その結果、シャロン・ステートたちまで許してしまうのである……度量が大きいかのように見えるが、実はあいまいにしているのであって、恥ずべきことだ! わたしは堅く信じるが、誠実な人には一つの立場しかない。

 国民に指摘する必要があるのだが、『カンフーパンダ』の出品者はほかでもない、まさに北京オリンピックの芸術顧問就任を断ったスピルバーグなのである。皆さんに言わなければならないが、彼のあおり立てる中で、北京オリンピックに反対する声はますます騒がしくなったのである。『カンフーパンダ』の中国での上演は、まさに中国人が苦労して稼いだ金、血と汗のにじむ金を、この人物のウェストポーチに一杯に詰め込むことなのだ。

 われわれ中国人はどうするのだろうか?

 わが国の人にも愚かなことがあって、たとえばジャッキー・チェン兄貴がこの映画のためのアフレコをした。わたしは聞きたい。どうしてハリウッドにこんなに媚びるのか? このような「国際化」に意味があるのか? 肌や肉が充実しているように見えて、実際には骨が欠けている! 中国映画界には抱負を抱いた精鋭たちがいるが、一日中ハリウッドにあこがれ、オスカーを気にしていて、気骨があると言えるだろうか? この世界には、チケット販売数よりも大事なことはいくらでもある。

 偽りのハリウッドは『カンフーパンダ』で「積極的に向上」を打ち出し、お決まりのアメリカ式「ファイト」物語を作り上げて、虎視眈々と人々の財布を狙っているのである。少々やりすぎたことに、ハリウッドは今回のマネーゲームで、中国の「国宝」と「カンフー」を盗んで、中国に打って出、災害を生き残った中国人から一杯ずつスープを奪おうとしているのである。

 中国の地震災害という他人の不幸を嘲笑して喜ぶハリウッドは帰れ! 我々はハリウッドを歓迎しない!

 中国人の寛容さ・楽観さ・善良さは、ハリウッドがもたらしたものではない。今回の百年に一度の地震災害に直面して、中国人はすべてを表現して世界を感動させた。

 我々はハリウッドを必要としない。強盗とゴロツキがおどけた顔をして我々を笑わせようとするのも必要ない! このような人たちが我々の子供たちを笑わせようとすることを許さない! たとえ我々の愛する「国宝」の名義であったとしても!

 わたしパンダ人・趙半狄は、ハリウッドの『カンフーパンダ』の中国における放映に堅く反対する! このため、わたしは必要な行動を取っているところである。

わたしはなぜ『カンフーパンダ』を排斥するのか?

 感情的に言えば、わたしはハリウッドが災害後生き延びた中国に来て金をかすめ取ることを受け入れられない。お金目的のハリウッドと同様の目的を持って、中国人をくすぐろうとするようなことは受け入れられない。

 わたしはこんなハリウッドの醜い隈を受け入れられない……あんなものをパンダと呼びたくない。こんな時期に、中国人から笑いを引き出そうとしている。

 本当に言いたいが、今、ハリウッドにくすぐり笑いを受けるより、静かに傷を癒す方がいい……我々の傷をさらに痛ませるからだ。

 パンダは四川のものである。パンダは中国のものである。このようなときに、アメリカの滑稽な醜いパンダがやってきて、創痍を受けたパンダの故郷で駆け回る。不敬なのは誰だ? からかわれているのは誰だ?

 「パンダ人」と呼ばれるアーティストとして、わたしはパンダを愛しており、さらに中国を熱愛している。他の人がこの二つを少しでも嘲笑・愚弄するのは我慢できない。わたしは中国人の愛憎を包含したパンダ芸術を作り出すことを望んでいる。わたしはパンダとの斬新な結合を通して世界に想像力を備えた新しい経験を生み出したいのである……。わたしは望むだけの仕事も行なっている。国宝の相手をすることを非常に愛している。

 わたしは心から皆さんに告げたい。わたしたちの傷の痛みは大変深い。それなのに銭に目のくらんだハリウッドはあまりにも軽薄である。いまこのときに、ハリウッドはわたしたちを笑わせる資格はない。

 いまこのとき、ハリウッドを受け入れられないのはわたしだけではない。被災地区の群衆が抵抗の隊列に加わった。今日、一つのショッキングなニュースが流れた。成都で映画館を叩く青年が現れたという。原因はまさに『カンフーパンダ』上映に対する不満であった。

 ハリウッドのこの映画が四川で反対に遭ったのは、確実にシャロン・ストーンと関係がある。彼女が中国地震は「応報」だと発言したことは、大多数の中国人には許せないことである。ハリウッドとシャロン・ストーンをイコールで結ぶのは、わたしは牽強付会だとは思わない。わたしはハリウッドの「文化」「雰囲気」がまさにシャロン・ストーンを生み出したのだと信じている。国民の中には、この女性が言い逃れできるように中国語・英語を改変して解釈する者もいるが、どのようにしようと「応報」あるいは「因果関係(カルマ)」という文字はぬぐい去れない。シャロン・ストーンもこのような中国人には焦っている。

 昨日の朝、わたしは国家広電局に請願しに行き、『カンフーパンダ』についての手紙を直接、電影局局長・童剛さんに手渡してきた。彼はわたしたちの心情に理解を示し、わたしは安心した。

(※以下、『カンフーパンダ』と、北京オリンピックへの協力を拒んだスピルバーグとの関係についての文章が続くが、省略)

『カンフーパンダ』四川で上映停止!

 今日、6月19日午後3時44分、国家広電総局電影局市場処処長・周宝林さんから電話があり、このように話した。「明日、20日、『カンフーパンダ』の全国での上映初日であるが、四川にある映画館では上映をしばらく停止する」

まとめと感想

今回の趙半狄氏の『カンフーパンダ』反対行動は、彼自身の主張によると、四川大地震のときのハリウッド女優シャロン・ストーンの失言「チベット問題への中国当局の対応はよくなかった。そして(四川大地震が)起きた。これはカルマかしら」が遠因となっている。趙氏は、シャロン・ストーンを生み出したのはハリウッドだとし、そのハリウッドが、いまだ震災の傷の癒えていない今の時期に、あろうことか国宝の「パンダ」と、中国の「カンフー」を題材にしたお笑い映画を中国で上映することに対して反発している。ハリウッドは、震災を生き延びた中国人からさらに金を巻き上げようとしているのだ、と。しかも、このハリウッド映画を制作したのは、北京オリンピックへの協力を拒んだスピルバーグと深い関係のあるドリームワークス。「パンダアーティスト」として活動している趙氏にとって、この映画はまったく許せないものだった。

以上が、趙氏自身のブログ記事による主張のまとめである。

これについて、わたしは以下のように考える。

まず、シャロン・ストーンの発言は完全に失言である。チベット問題でチベット人が苦しんでいるのは事実であるが、四川大地震はその報いではない。なぜなら、四川大地震で被災したのは、ごく普通の中国の民衆であるからだ。チベット問題で苦しんでいる人たちも、四川大地震で被災したのも、一般の人たちである。チベット人が解放されるべきだ、というのであれば、四川の被災者にも同じ思いを注ぐべきである。そもそも、四川の被災地はチベット人が多いところでもあった。

日本でも一部の勘違いした人たちが「チベット弾圧するから地震が起こるのだ。ざまあみろ」みたいなことを言っていたが、これは完全に間違っていると思う。

その上で、趙氏の反発は行き過ぎだと思う。「わたしはあんなものを見に行かない」「あんな映画は最低だ」とこき下ろすだけならともかく、上映中止させるというのは、アーティストとしてなすべき行為ではない。芸術としての批評であればともかく、政治的な手段を使って作品の上映の機会を奪うのは誤っていると思う。しかも、今回のアニメーション映画は、内容的に致命的な問題を抱えていたわけではない。単に「ハリウッド」「スピルバーグ」が絡んでいただけである。

2007年のパンダ・ファッションショーで毀誉褒貶半ばする評価を受けた趙氏自身が、他の作品のパンダを「醜悪なパンダ」と呼ぶのはいかがなものかと思うが、それはまあ表現の自由の範囲としても、強圧的に「上映停止」させたことを誇るのは、わたしには受け入れられない。

「カンフーパンダ」が日本で公開されたら――行くかもしれないし、行かないかもしれない。前評判次第。それよりチャウ・シンチーの「ミラクル7号」が気になる。

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