Amazon Kindle(アマゾン・キンドル):「反射光の電子ブック」という革命的に新しいメディア

Amazon Kindle(アマゾン・キンドル)をプレゼントされた。

これは、人類の読書史において画期的な意味を持つメディアではないかと思う(正確に言えば、キンドルだけではなく、E Inkを使った電子ブック機器である)。つまり、粘土板や青銅器などに刻んだ文字→紙媒体(手書き→印刷)→ブラウン管/液晶と変化してきた文字媒体の歴史の中で、「反射光の電子ブック」という存在は非常に大きな意味を持つ。

iPhoneやPC版のキンドルにはあまり画期的な意味はない。それは従来のブラウン管/液晶画面上での読書体験である。E Inkを使ったキンドルこそ、画期的な意味を持つ新しいメディアなのだ。 kindle

2009年12月28日21:32| 記事内容分類:機器, 電子書籍| by 松永英明
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キンドル到着

実はキンドルを最初にもらって1時間後にダメになってしまったので、カスタマーセンターとの間で英語で交渉してもらった結果、代替品を送ってもらえることとなったのだった。そういうわけで、実は今あるのは2台目となる。

特製段ボール箱で到着したAmazon Kindleを開封。

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画面に何か表示されているが、電源は切れている。電源オフでも表示されるのがE Inkなのである。とりあえず、電源(USB兼用)をつないでから電源ボタンを押せと指示されている。

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初期化が始まり、自動的にワイヤレス接続が始まる。そして、Kindle User's Guide, 4th Ed.とThe New Oxford American Dictionaryがダウンロードされて、説明書が表示される。amazon.comにアカウントを作ってあるので、設定画面でそれと関連づけることになる。また、自分のキンドルに名前を付けろと言われるので、「Genius Loci Kindle #2」と名づけた。地霊丸弐号機である。

さて、ここからAmazon.comのKindleストアへと接続できる。栗原裕一郎さんから、Twitterで「このあいだ同世代の経済学者から「Kindleは外国の新聞を読むのに非常にいいツールだ」と聞き、そういうニーズを想定していなかったので目から鱗でした。地方の小さい新聞とかまで揃ってるのだとか。」と聞いたので、早速、外国の新聞をチェックしてみる。

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米(51)・英(5)を筆頭に、ブラジル・カナダ・中国・チェコ・フランス・ドイツ・インド・アイルランド・イタリア・日本・メキシコ・ロシア・スペインなどの英字新聞が読めるようだ。日本はMainichi Daily News、中国は上海日報、チェコはPrague Postが購読できる。

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今のところ英文の本しか購入できないが、試しにジェームズ・アレンの「As a Man Thinketh」のサンプルをダウンロードしてみた。なかなか読みやすい感じである。

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Kindle 2.3でも、日本語の本が読めないわけではない。pdfファイルにフォントを埋め込んであれば読める。青空キンドルは特に便利で、青空文庫に登録されている作品をキンドルで読める日本語フォント埋め込み済みpdfファイルに変換してくれる。試しに幸田露伴『平将門』と折口信夫『門松のはなし』をキンドル用pdf化してみた。USBでPCに接続して、pdfファイルをdocumentsフォルダにコピーし、接続を解除すれば、キンドルが自動的にキンドル用ファイルに変換して読めるようになる。現時点では一部の文字が表示されないが(繰り返し符号や珍しい漢字など特殊な文字)、これだけ読めれば感動的だ。

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日本語が表示されるようにするハックなどもネット上で公開されているが、現時点ではハック関係には「絶対に」手を出さないことを強く強く強くおすすめする。

pdfファイルなら(フォントの問題を除いて)表示できるので、たとえばGoogle Booksで公開されている著作権切れの本のpdfをダウンロードしてkindleにコピーすれば、読める。次の画面は、Robert Fortuneが幕末に江戸と北京を訪れた旅行記「Yedo and Peking」の一節を表示させたところ(造園業者が集まっていた染井村に行ったという話のあたり)。

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「反射光の電子本」という新しい存在

さて、この最後の画像(Yedo and Peking)は写真ではない。スキャナでスキャンしたものであるが、ケータイ画面などをスキャンするのとは全然違っていることがわかるのではないかと思う。

Kindleが採用しているのはE Inkという電子ペーパーシステムである。凸版印刷のE Ink 電子ペーパーページの説明がわかりやすいと思われるが、最大の特徴は透過光ではなく反射光であるということだ。

紙の本もそうだが、物体に反射した光が目に入る。これが反射光。一方、テレビやパソコンのモニターはブラウン管や液晶やプラズマディスプレイが光を発している。これが透過光メディアだ。E Inkを使ったキンドルは、電子本デバイスでありながら、透過光ではなく反射光なのである。

反射光と透過光の違いは、実は非常に重大な意味を持っている。その意義について、丸田一『「場所」論―ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム (叢書コムニス08)』が非常にわかりやすくまとめているので、少し長くなるが引用したい(178~179ページ)。ここでは、映画も反射光メディアに含まれている。

 まず、確認したいのが、「透過光」がもたらす「距離埋没効果」である。パソコンのモニター、携帯電話をはじめ、ウェブ空間のインターフェースは、ほとんどが透過光によるスクリーンである。スクリーンにはブラウン管や液晶、有機ELなど様々な映像表示方式が採用されているものの、どれも発光源を持ち、スクリーン表層を透過する光線で画面を表示することに変わりない。透過光による表示は、反射光の表示に比べて現前性が高く、利用者の身体とスクリーンとの間に横たわる十数センチ~数十七ンチという距離を埋めてくれる。

 透過光が強い現前性をもたらすことは、マクルーハンも『メディアの法則』[★125]で指摘している。マクルーハンは、映画の観客を二分して、一方には普通の映画と同じように反射光によって、もう一方には透過光によって同じ映画を鑑賞させるというハーバート・クルーグマンの実験を取り上げている。反射光のグループの感想は、映画を物語や技術に注目して理性的に分析し、批判する傾向が優位を占めたのに対して、透過光のグループでは、好き嫌いという情緒的で、主観的な反応が優位を占めた。

 反射光の映画において観客は、スクリーンと身体との物理的な距離を保ったまま、対象としてスクリーン上を見ている。この距離が映像を対象化し、観客に分析的で批判的な見方を与える。一方、透過光のテレビでは、スクリーンを越えて到達する光に視聴者が深く差し込まれてしまうので、映像は実際のスクリーン面から離れて、観客の目や身体を擬似的なスクリーンにして現前する[★126]。このように透過光の場合、観客は対象とうまく距離をとれず、場合によっては対象と位置的に重なってしまうことが、観客に情緒的、主観的な見方を与えるといえるだろう。

 ところで、パソコンのスクリーンを眺めていても発見できない誤字脱字が、プリントアウトすると容易に見つかるという経験は、誰もが一度はあるのではないだろうか。これも「反射光と透過光」である程度説明ができる。スクリーンの透過光で文字を読んでいても見逃しがちな誤字脱字は、プリントアウトした紙の反射光で読むと、対象を分析的、批判的に捉えることができるので、より発見されやすいといえる[★127]。

 このように現前性の強い透過光が、ウェブ空間のインターフェースに用いられているのは偶然ではないだろう。現前性の高い透過光は、スクリーンと利用者の身体との。間にある物理的な距離を埋没させ、スクリーンを没対象化させてしまう。これがスクリーンというインターフェースを準没入型に変えるのである。

透過光メディア(テレビ、パソコン、ケータイ、iPhone……)は、情緒的・主観的でのめり込みやすい。一方、反射光メディア(紙、映画、そしてキンドル……)は、分析的・批判的で客観的に冷めて見ることになる。パソコンの画面をキャプチャした雑誌や、プレゼンテーションなどでプロジェクターで投射されたPC画面が、モニターで見る画面と違った雰囲気で見えるのは気のせいかと思っていたが、この透過光vs反射光の理論からすると、違って見えて当たり前だということになる。私自身も「PCの画面では校正を見落としやすいので、一度プリントアウトしてから校正する」という経験をしてきた。

紙の本とデジタル本。それは、物理的な実態を備えているか否か、あるいは検索が可能かどうかといったことだけではなく、目に飛び込む光の種類の違いを考えなければならないということなのだ。反射光の映画は、スクリーン上にすでに画像ができているが、透過光のテレビは、脳内で始めて画像が結ばれる。

ここで登場したのがAmazon KindleをはじめとするE Inkを使った電子本デバイスだ。デジタルデータを表示させているのに、画面は透過光ではなく反射光なのだ。PCやケータイやiPhoneのスクリーンで透過光を経由して読むのとは異なり、ごく普通の本と同じ反射光メディアとして読むことができるのだ。

12月28日、Amazon、Kindle向け電子書籍販売がリアル書籍を超えたと発表 - ITmedia エンタープライズというニュースが流れた。なぜそこまで一挙に拡大できたのか。キンドル版は紙版よりも安く早く買える、という利便性だけではあるまい。PC画面で表示されるデータと違って、紙と同じ反射光だからという要素を決して見逃してはならないと思うのである。

紙のメディアと同じ反射光であるにもかかわらず、検索できるし、ほしい本をすぐにダウンロードできるし、何冊もダウンロードしてもかさばらない。しおりやメモも可能だ。操作性などに改善の余地はいくらもあるだろうが、まさに理想的な読書メディアといえるのではないだろうか。

この点を考えると、「iPhone版キンドル」や「PC版キンドル」はキンドルの本質を活かすものとはいえない。あくまでも「E Ink版キンドル」(という言い方はないが)の補助的システム(あるいは「キンドルもどき」)と考えなければならないだろう。

これからの「本」について考えるとき、紙vsデジタルという単純な二項対立の時代は(あっという間に)終わってしまった。

反射光 透過光
活字印刷 紙の本 -
デジタルデータ E Ink(Kindle、nook、Reader Daily Editionなど) モニタースクリーン

実際には、iPod touch/iPhoneという「視覚だけでなく触覚で直感的操作のできるデバイス」も加わってさらに複雑な対立構造になっている(「Kindle touch」みたいなものができたら、人類の読書体験は劇的な転回をすることになるだろう)。しかし、今回はひとまず「透過光vs反射光」という視点についてのみまとめておくこととする。また、amazon.comのマーケティングなどについても別の機会としたい。

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2009年12月28日21:32| 記事内容分類:機器, 電子書籍| by 松永英明
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コメント(3)

ブクマでご指摘ありがとうございます。
クルーグマンの実験についてですが、情報認知の正確さ・質・量・速度に差がでるという結論なら分かるのですが、主観的・情緒的/客観的・批判的ということではないだろうと思ったわけです。
マクルーハンの我田引水なんじゃないかと。本が手元にないので、今度引用箇所を検討してみます。
記事は大変おもしろかったです。キンドルほしくなりました。

ご案内ありがとうございます。

透過光反射光のテーゼはマクルーハンのメディアの法則で非常に有名なテーゼになったようですが、実験の詳細が知りたいと思いました。ネットだと他の実験だけしか探せません。エリックの実験だと言うページならヒットするのですが。実験の論文などがわかればうれしいので引き続き探してみます。

反射光については、携帯電話が半透過型ディスプレイを使用しているので、分類的にはマクルーハンの言う「分析モード」に入るはずなのですが、実感としてもデータとしてもそういうものはない気がしています。
またマクルーハンの取り上げた実験はおそらく映像だったと思いますが、今は透過型、半透過型、反射型の液晶ディスプレイがそれぞれありますので、同サイズのLCDと文章を使用して実験したら心理学的により詳細な事実がでてくるかもと思っています。

動作原理については凸版のページでおおよそ。既存の反射型LCDとの差なども知りたいと思いましたが非常に可能性がある技術と感じました。反射光も面白いのですが、特段の資源が必要なく低価格化、低電力化、軽薄短小化、フレキシブル化が可能なところに将来性を感じました。

PCについてはすでに切り替えモードのディスプレイが実用化されている由(EInkではなさそうですが)。5年後くらいには反射型ディスプレイが低価格で市場に出回ってほしいと願っています。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090602/171122/?ST=fpd

いいなぁ。
新聞を一年定期購読すると、これがついてくるとかいったら、かなり考えるなぁ。

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