汎用機器iPadは正直「イマイチ」――読書専門機器キンドルとの対比、電子書籍のレイアウト

iPadが発売されて、電子書籍の未来に注目が集まっている。

しかし、私自身は断然キンドル派である。何でもできる汎用機(だが電話はできない)iPadより、読書専門機器であることを貫こうというキンドルに好感を持っている。「大は小を兼ねるで、機能の多い方がよい」という意見があることも知っているが、特定の目的のために最適化された機器の使い勝手のよさも捨てがたい。

ポメラ・キンドル・ガラケー派のユーザーである私が、今電子書籍について考えていることを少し書いてみたい。ここには「電子書籍はレイアウトが重要」という主張も含まれる。

※この記事は多少出遅れた感はあるものの、BLOGOSのテーマ「iPad発売と、出版の今後」について書いたものである。

2010年6月 1日00:34| 記事内容分類:機器, 編集・出版, 電子書籍| by 松永英明
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iPadとキンドルはまったく別の機器である

Amazon Kindle(アマゾン・キンドル):「反射光の電子ブック」という革命的に新しいメディア[絵文録ことのは]2009/12/28にてすでに述べたとおり、「iPadは透過光」である。すなわちテレビやPCのモニタスクリーンと同じく、自ら光を発してそれが目に入ってくる。マクルーハンによれば、その光が像を結ぶのは網膜上なので、本当のスクリーンは目の中にあり、感情的にのめり込むメディアであるとされている。

一方、「キンドルは反射光」である。紙の本や映画のスクリーンと同じく、それ自体が光を発しているのではなく、反射してきた光を見ている。こちらは批判的・客観的な見方ができるため、たとえば「画面上では校正はできずに見逃してしまうが、紙なら校正が可能」という現象もうまく説明できる。映画もテレビと比べるとはるかに感情移入しにくいメディアで、そのために電気を消して巨大スクリーンを備えた映画館という設備が必要になってくるわけである。

脇道にそれるが、映画館でケータイを見るという迷惑行為も、反射光で必死で感情移入を誘っている環境の中に、強烈な印象を与える透過光を持ち込むということになる。

さて、この「反射光・透過光」という対立のみならず、「iPadは総合インタラクティブ機器」「キンドルは読書専用端末」という大きな違いがある。多機能で、ゲームなども含めていろいろな操作が可能だ。何でもできる。もちろん、電子書籍を読む「こともできる」。一方、「カラー版キンドルはすぐには出ない」「キンドルストアとデバイスは別ビジネス」ベゾス氏発言 [絵文録ことのは]2010/05/26でも訳したとおり、キンドルは読むことに集中する。

これがまた、読みやすいのである。反射光であるeInkそのものの見やすさもそうだが、「余計な機能がついていない」こと、必要充分なものだけに絞り込まれた機器の読みやすさは格段である。先日開かれた第十回文学フリマでも、自分の電子書籍(キンドル対応日本語フォント埋め込みPDFファイル)を立ち読みしてもらうために私物キンドルを展示したが(あるいはキンドル試用体験用)、手に取った人が一様に「軽い」「読みやすい」と感想を語ってくれたのが印象的だった。そう、iPadは重いのである。寝転がって読めないのである。

たとえばキンドルで『指輪物語』全六巻+追補編(文庫版なら全10冊)を購入して読み続けるということはできるだろうと思う。本が好きでさえあれば、延々と読み続けることができる。しかし、iPadだとどうだろうか。透過光メディアでは、動きがないと集中力に欠けるような気がする。じっくりと読み続けるのに、iPadは向いていない。

iPadとキンドルは、似て非なるデバイスである。これを見逃すことはできない。

キンドルとポメラとガラケー

そういえば、私はポメラの愛用者でもある。ただひたすら文字入力するだけに特化された電子機器である。私はもともとデスクトップPCには高機能なものを求めるが、ノートPCにはほとんど期待しておらず、「ネットとかは最小限またはナシでもいいから、軽くて電池が長持ちして、文字入力・保存のできる、頑丈なノートがあれば買うんだが」と思っていた。しかし、重さ(500g以下)やバッテリーの保ち時間(7時間以上)を満たすものはほとんどなく、断念しかけていたところへ、このポメラが登場したのである。

キーボード入力で文字が書ければいいのである。書くことに特化されたポメラは、私にとって手放せないツールとなった。もともと、ふだんの文章書きも絶対にMS Wordなど使うことなく、シンプルなテキストエディタ(EmEditorを愛用)で文章をベタ打ちしているからこそ、ポメラの「単純なテキストエディタ+ATOK」という組み合わせに大満足できたという部分はあるかもしれない。

そして、今私の使っているケータイはDoCoMoのP-04A、そう、iPhoneでもスマートフォンでもなく、ガラパゴスケータイ(ガラケー)である。ガラケーを使い続ける理由は、一つには「iPhoneのような高機能・検索機能などはまったく求めていないケータイ族が、今の日本では圧倒的多数であり(PCなんか普段使っているのはごく少数)、その多数派の目から見た世界を知らねば、本当の市場を見失う」と確信しているからである。iPhoneは確かに便利だし、パソコンでもできることが外でもできたりするのだが、私が見聞きした実感でいうと、ふだんPCを使わない(持っていても、ネットショッピング等でどうしても必要なときしか使わない)という人たちは、ケータイにそんな高機能をまったく求めていない。

また、私自身、iPhoneに移行できない理由として、おさいふケータイが使えないことが挙げられる。駅のホームでもチャージできるモバイルスイカがなければ、私は立ち往生してしまいかねない。

ガラパゴス化は批判されがちだが、ガラケーが「日本人のケータイユーザーにとって必要充分な機能を備えるよう進化している」ことは事実。多機能iPhoneがあればガラケーはいらないと考える人も多いが、私はiPhoneでできないことの多さを逆に実感しているのである。

キンドル、ポメラ、ガラケー。それはツブシが効かない代わりに、おそらく必要とする人にとってぴったりと手になじむ機器としてこれからも伸びていくだろうと思う。少なくともキンドルとポメラについては、私のような熱狂的なファンがついているのである。

電子書籍でレイアウトの重要性は高まる

さて、第十回文学フリマで、私はエドウィン・アーノルド著『アジアの光』の全訳完全データを、(日本語ハックしていない)キンドルでも閲覧できるキンドル対応フォント全埋め込みPDFファイルとして頒布した。これは某出版社から発行予定であったが、その編集者が退職するなどして結局お蔵入りとなった幻の原稿なのであるが(もし興味のある出版社の方がいらっしゃったらご連絡ください。完全原稿をすぐにお渡しできます)、けっこう分厚い原稿なので同人誌的に発行するのは経費がかかりすぎる。そこで、今回、電子書籍という形で発行してみたのだった。

ところで、電子書籍は費用がかからないという言説が多い。確かに、印刷・製本代はかからない。しかし、そこに加わる人件費をゼロにするわけにはいかないと思う。

数年前にブログ本ブームがあったが、ブログとして気楽に読むならよいものの、単行本として読むには内容も文章力も今ひとつというものが多く、そこでブログ本に走った出版社は本の質を下げることになった。90年代なら「有名人を連れてきて、文章はプロのゴーストに整形させる」というスタイルが多かったが、ゼロ年代以降は「ネタが面白そうなら、素人の文章でもブログからとってきてそのまま載せればいい」と考える出版社が一部にあり、そういうところは結局読者離れを起こしてしまった。

電子書籍は、決して紙の書籍と対立する存在ではない。執筆者がいて、編集者が執筆者と喧々囂々の議論を重ね、そして装丁・レイアウトを行ない、営業担当が売り込む……。出版社の機能がなくなるわけではない。「だれでも書いたものをそのまま本にできる」というのは事実かもしれないし、それによって埋もれていた才能が発掘されるとか、私のやったように出版計画が頓挫した出版物が日の目を見るとうい可能性は高いのだが、一方でゴミのような駄作が大量に並ぶ危険性もあるわけである。

(出版社は滅びないと思うのだが、旧態依然の二大取次支配体制を続けようともくろむのであれば、日販・トーハンは時代から取り残されて滅びるかもしれない。むしろ、ニットーハン体制は一刻も早く終焉を迎えるべきだと思っているが、それは別の話である)

私が作ったPDF電子書籍に話を戻せば、執筆時点では出版社の編集の方の意見をかなり取り入れた。たとえばですます体にすること、原文は詩だが散文として訳すこと、など、私が一人で書いていたらそうはならなかっただろうと思われる要素があり、そして完成品を見れば、編集者の方の意見は正しかったと思っている。その次のレイアウトについては、私が自分でInDesignをいじって、本文は何字何行で何級の何歯送り、というようなことも全部自分で設定した。それから、文学フリマでは自分で売り込んだ。つまり、編集以外の執筆・レイアウト・DTP・営業・小売まで自分でやったわけである。

ただ、それは「一人で全部できる」というようにとらえると間違いのもとである。むしろ、一人でも作れるが、それはライターとデザイナーと営業と販売員のすべてを一人でやらねばならないということだと認識せねばなるまい。

さて、このDTPをやって気付いたのだが、キンドルで読みやすいレイアウトというのは、文字サイズや一行字数・一面行数など非常に難しい。最終的に確定した文字数やフォントについては改めて記事にしたいと思うが、電子書籍ではレイアウトは非常に重要だと感じた。電子書籍は決して「デジタルデータ表示器」ではないし、そうであってはならない。インターネットのウェブデザインでは、時々勘違いした人がいて「読み手側の読みたいフォントサイズ、一行字数で読めることが大事であって、固定的なレイアウトは必要ない」などと言い放つ意見がネットでも散見されるのだが(いわゆるリキッドレイアウト原理主義者)、電子書籍ではそのようなレイアウト無視の意見には耳を傾けない方がよい。なぜなら、本というものは、文字データで伝達される内容だけではなく、文字サイズやフォントや段組(何字何行何段)といったレイアウトもまた一つの「情報」となりえるからである。

青空文庫の同じ著作権切れデータであっても、それをどのようにレイアウトするかによって、読みやすい本と読みにくい本、あるいは印象の違う本ができる。電子書籍は単に文字データを流し込んでおしまい、というものであってはならないし、もしそういう認識での電子書籍が濫造されるなら、そのときこそ「書籍の終わり」がやってくるだろう。

読みやすいレイアウトで固定化されている方が読みやすい。本を読む人ならわかるはずだ。キンドルは英語なら数段階のフォントサイズが用意されているが、その程度の可変性で充分である。iPadのように伸縮自在のインタラクティブ性は、むしろ読書の邪魔だ。

ePub変換業者の方へのメッセージ

さて、今回の文学フリマで電子書籍を販売したために、いくつかのePub変換業者の方から声をかけていただいた。ただ、現時点でちゃんと返事できていない。それは少々理由がある。

ePubというのはiPadにも対応している汎用電子書籍フォーマットである。しかし、ePub用にデータ変換するだけだったら、私自身が自分で作業をした方が早いのではないかと思う。

しかし、もし、ePub変換作業の中で、最適かつ理想的なレイアウトに落とし込むデザイナーさんが用意されているとか(決してそれはデータコンバート技術者というだけであってはならない。デザインの素養があって装丁やレイアウトができるDTP経験者でなければならない)、あるいは他の本との差別化を作り出すための編集的意見がある、あるいは宣伝営業を行なう力がある、ということであれば、私はそういう業者さんを利用する可能性はある。

つまり、自費出版代行だけなら私は興味はない。しかし、もし、優秀な編集者・優秀なデザイナー・優秀な営業・優秀な宣伝の機能を備えた出版元であるなら、私はそれを利用するだろうということだ。言い換えれば、電子書籍の出版社も、紙・インク・製本代や流通コスト、在庫リスク以外の点では、紙の出版社と同じ機能を有していてほしいということである。

私は今、ePubやキンドルストアで自分で本を作って出版することを計画している。日本語対応が遅れているキンドルのためには、欧米圏の読者が喜びそうな日本の情報を英文で紹介する本を計画している。だが、もしレイアウトや販売網といった点で私が個人でやるよりずっとよい人材を提供してくれるということであれば、もちろん組んでやることに異存はない。

結論としては、電子化するからといって「本」を作ることをナメていてはいけないぞ、ということである。

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2010年6月 1日00:34| 記事内容分類:機器, 編集・出版, 電子書籍| by 松永英明
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