分離独立する南部スーダンの国名案は「南スーダン」で決着か

2011年1月に実施され、2月7日に最終結果が公表された南部スーダン独立に関する住民投票だが、結果としては南部スーダン独立が圧倒的多数を占めた。これにより、アフリカ53番目の国家が誕生することとなる。

そこで気になるのは新国名だ。そこで調べてみたところ、いくつかの案が出てはいるものの「南スーダン(South Sudan)」で決まりそうな雰囲気である。そこで、出ていた案の意味を調べてみた。

2011年2月13日00:04| 記事内容分類:世界時事ネタ, 地理・地誌| by 松永英明
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住民は「南スーダン」を新国名として求めている

以下、南スーダンの新国名案について、南部スーダンの独立非営利民間報道組織サイト「Gurtong」の記事を一部翻訳引用してみたい。

まもなく誕生しようとしているアフリカ53番目の国家の名称についての議論が活発になるにつれ、南スーダン人の間では新しい国名を南スーダン(South Sudan)にしようという意見が大多数を占めるようになってきている。

Gurtongによる調査では、一部の政治組織が新しい国家のために別の国名を決めようと提案していることに対して、ほとんどの南スーダン人が反対していることがわかった。

南部スーダン分離独立への圧倒的多数の賛成票が投じられたことをうけて、新しい国名が数多く提案された。たとえばクシュ共和国(the Republic of Kush)、ナイル共和国(the Republic of Nile)などである。

しかし、インタビューを受けた人たちは、もし新しい名称が採用されたならば南スーダンの歴史的な位置づけが忘れられてしまうだろうから不協和を生み出すことになるだろう、と答えている。

北朝鮮と韓国のように同様の政治的経緯を経てきた国々のことに触れつつ、スーダン南部の都市トリト(Torit)の住人ジョセフ・ガマラはこう述べる。「南スーダン以外の国名を私は受け入れるつもりはない。というのも、スーダンという言葉は"黒い人の土地"という言葉からうまれたものだからだ」。

東エクワトリア州議会(EESLA)の議員であるアンジェロ・ロモイ・ジョセフは、過去の騒動を乗り越えて新しい国が前進すべきときに新しい国名をつけることは、不必要な政治的緊張を招くことになるだろうと述べている。

「ナイルとかクシュとかいっても誰もわからない……しかし、南スーダンならその歴史的な経緯にもとづいて知名度もある」と述べるのは、同じくEESLAのクリスティン・ナクワル・パトリック・ロディンガである。

EESLA議長ホイップ・トビオロ・アルベリオ・オロモは、包括的平和協定には新国名採用についての条項がないと述べる。

「そのために、現在の国名を変えようと試みるのであれば、南部人が民主的に決定できるような国民投票をもう一度行なうのでもない限り、よろしくない影響を与えることになるでしょう。さもなくば、採用すべき大多数意見をはっきりさせるため、委員会は全国で世論調査を実行する必要があるでしょう」という。

しかし、ニューヨークタイムズの最近の記事によれば、GoSS(南部スーダン政府)情報相バルナバ・ベンジャミン・マリアル博士は先週、南スーダンは現在の名称を独立国名として維持するであろうと報道機関に述べたという。

委員会では一ダースほどの候補名について議論したが、最終的に「南スーダン共和国(the Republic of South Sudan)」がなじみもあるし便利でもあるということで採用されることになった、という。

俎上に上がった名称としては、アザニア(Azania)、ナイル共和国、クシュ共和国のほか、ジューワーマ(Juwama)すなわちジューバー(Juba)・ワーウ(Wau)・マラカール(Malakal)という南部の大都市名の頭文字をつないだものもある、と明らかにした。

選択理由について、情報相はこのように述べている。「今のところ、最も易しいものだからだ。すでに多くのものがその名称を冠しており、政体を変えるにも簡単だ」。

しかし、マリアル博士は、委員会の決定は最終決定ではなく、その最終的な決定は上級機関から告知されることになる、とも述べたうえで、「もし、南スーダンの人々が将来新しい国名を欲するのであれば、その機会は与えられるだろう」と語った。

挙げられた国名案の意味

南スーダン

「スーダン」(正確にはスーダーン)。アラビア語の「Bilad-al-sudan」すなわち「黒い人たちの国」というのが語源。sudは、aswad(女性形・sauda)「黒」の複数形。おおざっぱに分けるとスーダン北部はアラブ人、南部は黒人が多数を占めるため、南部スーダンの方が本家「黒人国」だろ、という意識があって「南スーダン」という国名への思い入れが強い、ということらしい。

ナイル共和国

言わずと知れた「ナイル川」のナイル。このほか、Nilotia、Nilotland、Nilotiといった名称も提案されているが、いずれもナイルに由来する。

南スーダン領内には白ナイル川・青ナイル川・アトバラ川が流れており、この3つの川はいずれも北部スーダンで合流してエジプトへと流れていく。ナイルという名称はヘーロドトスも記しているほど古い地名だ。語源的にはセム語系の語根nahal「川」に由来する。中国で河と言えば黄河、江といえば長江であるように、アフリカの川といえばナイルだったわけだ。

しかし、ナイル川が通る国は南スーダンだけではない。

クシュ共和国

古代エジプト文明と同時期、南エジプト~北部スーダンを中心にクシュ文明が栄えていた。エジプト文明の影響を多大に受け、エジプト新王国トトメス1世の時代には植民地化されたこともある。その後クシュ文明圏にはいくつかの国家が生まれ、ローマ帝国と戦い、紀元5世紀ごろには姿を消していったようである。クシュという名称は、聖書においてハムの息子クシュがこの地域に住んでいたという記述に基づく。

しかし、クシュ王国の地域は南スーダンとはズレがある。つまり、北部スーダンこそがクシュの名にふさわしい。

アザニア

アザニアという言葉はローマ時代の大プリニウスの書籍にすでに見られ、「アフリカの角」ことソマリアやエチオピア付近より南の東南アフリカ沿岸を指す地名だった。その後、20世紀に入ってから南アフリカを指してアザニアと呼ぶ用法が現われた。それは南アフリカのマプングブエの遺跡を建設した人々がエチオピアなどの東アフリカ出身の「アザニア人」だという推測による。これにより、1970年代には南アフリカでの黒人運動組織がアザニアという用語を用いるようになった。

したがって、いずれもスーダンよりはかなり南東~南に離れた地域を指す用語といえる。南スーダンの国名候補として挙げられたものの、その根拠は弱い。

ジューワーマ

ジューワーマ(Juwama)は上記のとおり、ジューバー(Juba)・ワーウ(Wau)・マラカール(Malakal)という南スーダンの三大都市名の頭文字をとったものである。ちなみに、ジューバーには南スーダン政府・議会があり、事実上の首都となるものとみられる。

国名の妥当性

以上のように国名候補の意味合いを見てきたとき、アザニアはほとんど根拠がなく、ジューワーマも人工的すぎる印象がある。クシュも遠からずとはいえむしろ北部スーダンにふさわしい国名だ。北部スーダンがクシュ、南部スーダンがスーダンとなる方がまだぴったりきそうだが、そうもいくまい。ナイル共和国も、国際河川ナイルの名称を独占することには抵抗があるようだ。

都市名の頭文字でジューワーマというのは、さすがに定着するのが難しいだろう。となると、やはり「南スーダン」が好まれるようである。

スーダンの北部はアラブ系・イスラム教徒が多く、今回独立する南部は黒人系・キリスト教徒が多い。そういう意味もあって、現地の人たちにとっても「黒人の国」というスーダンの原義にこだわりがあるようだし、いろいろと移行もしやすいということなので、南スーダンという名称が詰まるところ最適ということになるようだ。

スーダン南部、独立後の国名も重要 | 外交エディター24時 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト」では、スーダンという国名がテロ国家という印象を与えてしまっているから、ブランディング的には「南スーダン」はよろしくない、という意見が述べられている。また、2009年6月26日のケニア・デイリー・ネーション紙には、ウクライナの地理学者アレックス・ドブロヴォルスキー氏がやはり「南スーダンという名称はよろしくない」という意見を述べている。

しかし、「スーダン」すなわち「黒人の国」という「意味」への現地の人たちのこだわりは見逃すべきではなかろう。もちろん、「スーダン」の由来がアラビア語というのも特に問題はあるまい。なにしろ日本(ニホン、ニッポン)という国名だって中国語をもとに飛鳥時代に決定された音読み国名であって、和語ではない(いくら国粋的な人でも、中国を中心として東にあるという意味の日本という国号など自虐的な国名なのだから「やまと」に変えろ、などという人は寡聞にして知らない)。

石油利権等々の問題もあり、新生「南スーダン」の誕生後も課題は山積みだろうが、スーダンの北部南部ともに、そして周囲のアフリカ諸国に安定をもたらすことを期待したい。

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