【書評】かじいたかし 『僕の妹は漢字が読める』:「自虐的メタラノベ」の金字塔?

書評サイト【Book Japan】に寄稿した書評を、こちらでも掲載しておく。

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)
「僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)」
 [文庫]
 著者:かじいたかし
 出版:ホビージャパン
 発売日:2011-06-30
 by ええもん屋.com

2011年7月 6日12:55| 記事内容分類:書評| by 松永英明
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最初に断っておくが、わたしはラノベの読者ではない。というより、今までラノベにカテゴライズされる本を(『ハルヒ』含め)読了したことがない。ラノベ以前の朝日ソノラマや新書版ノベルズやコバルト文庫の時代は知っているが、その後はまったく読んでいない。だから、あるラノベ作品が「ラノベ」の中でどういう位置づけにあるかというような話は、わたしにはできない。……ということを前提に、この書評を読んでいただければと思う。

本当は文学フリマでわたしが主催したスタンプラリーで、主催者自ら完走して特典としていただいた神秋昌史さんの『オワ・ランデ!』シリーズの方を先に読んでレビューすべきなのだろうが、あまりの話題性の高さにこちらを先に購入し、一気に読み終えてしまった。

かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』(HJ文庫)である。

本作は「23世紀には漢字が使われなくなっており、仮名と記号を使うのみの激しく劣化した表現である」という背景設定のもと、「妹は昔(平成時代)の仮名漢字交じり文が読めるインテリのツンデレでお兄ちゃん大好きっ子」という人間関係を描いたものであるという紹介がネットで広まっていた。また、一章分の内容も「立ち読み」できる。

わたしは言語学をやっていたこともあり、日本語を含む言語(プログラミング言語を除く)に興味がある。だから、この本は「日本語の未来」を描いた作品の一つとして、読まねばならないと思ったのだ。そして、読み終わったらこの本に絡めて、「自分の考える日本語の未来」みたいな文章をブログででも書こうかと思っていた。

(2年前のエイプリルフールネタで、【速報!】国語審議会、「常用文字表」にケータイ絵文字を追加[絵文録ことのは]2009/04/01というのをやったこともある)

しかし、である。この作品の本質はそんなところにはなかった。一言でいうなら「自虐的メタラノベ」とでもいう作品である。

メタラノベ――つまり、ラノベの外側からラノベのお約束や文法といったものを客観視した上でそれをからかいつつも、決して他者批判ではなく自虐的に描いている。

「どうがサイトみてたら ねぼすけ←だめっこ」というような23世紀の「普通」の表現はケータイメール表現をさらに劣化させたレベルといえる。平成の「難しい」文学のタイトルが『携帯小説全集十一 ☆→イケメン男子と恋スルアタシ←☆ 原文版』であったりするなど、直接的にはケータイ小説・ケータイメール表現を土台にしている。一方で、その文体を許せない人物がライトノベルに対して「子供向けの小説」「文筆業に対する意識の低さ」という言葉を結びつけている。

ケータイ小説とかライトノベルとかの文体が当たり前になっていくと、こんな酷いことになるぞ……というのが第一章の導入だが、それはあくまでも導入にすぎない。「萌え」に代表される、いわゆるアキバ系オタク文化が徹底的にdisられ、からかわれ、ネタにされているのである。萌え一色に染まった未来人を描くことで萌えを戯画化して見せている――のだが、その描写がそのまま萌え要素を持ったラノベとしてのお約束を見事に満たす結果となっている。

萌えを客観視してからかう「メタ構造」が一周して萌えストーリーになってしまう。うまいことやるなぁ、と思ってしまう。そして、それは萌えとか抱き枕とか「おぱんちゅ」とか言ってる自分はおかしいだろ、と冷めた目でみながらも、それから逃れられないんだよな、という著者の「自虐」的意識が見えてくる。これがもし、本当に「萌え」を嫌いな(平成の定義での)正統派文学の支持者が書いたのであれば、萌えに染まって堕落した未来人をもっとこてんぱんに、愛すべき余地のない者として描いていただろう。

もちろん、その何重にも重なるメタ構造をたどっていくと、「正統な(高尚な)文学」と「劣った子供向けの低レベルな文学」とを区別する根拠さえもあやふやだという指摘にたどり着くのかもしれない(まあそれはわたしの深読みだろうが)。

さて、「萌え」への愛憎を込めた自虐的メタラノベである本作だが、ストーリー展開は(途中である程度先が読めたりするものの)こちらも円環構造的になっており、また続編を書ける伏線も仕込んであって、最後のオチまできっちり読めた。

しかし、これはもしかしたらラノベ全体にある程度共通する点なのかもしれないが、キャラクター造型に難を感じた。いや、確かに東浩紀氏が『動物化するポストモダン』で指摘したように、ストーリー(世界観)でもなく、キャラクターでもなく、「萌え要素」が主体でいいというのであれば、確かに条件は満たしているのだろう。そして、「でんぐりがえっておぱんちゅ きらり☆『僕の妹は漢字が読める』が正統派文学!?(エキサイトレビュー)」の米光さんのように、どれかの萌え要素を持っているキャラに萌えていればいいのかもしれない。しかし、要素萌えでもキャラ萌えでもなく(すでに前段で書いたように)ストーリーに最も惹かれるタイプのわたしにとって、登場人物に関してちょっと耐え難いと思われる部分があった。

それは、名前のついた登場人物の誰一人として「正常な思考回路」を持っていない、困った(あるいは残念な)キャラばかりだということである。辛うじてヒロインのクロハが漢字も読めてまともそうに見える(ツッコミ担当)ではあるのだが、そのクロハだって十分おかしい。結局、性格異常者や思考破綻者という要素でキャラを書き分けているわけであり、キャラの立たせ方としては安易だと思うのである。

だが、それさえもラノベの文法に合わせた意図的な設計だというメタ構造なのであれば、わたしは早々に退散するしかない。

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)
「僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)」
 [文庫]
 著者:かじいたかし
 出版:ホビージャパン
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2011年7月 6日12:55| 記事内容分類:書評| by 松永英明
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