ウェブログとマスメディアの関係

※以下の記事は、もともと『ウェブログ超入門!』の原稿として書かれたものです。しかし、初心者向けにはメディア論は難しいところもあるので、一部カットとなりました(妥当な判断です)。以下、削除された「ウェブログとマスメディアの関係」原稿を掲載します。したがって、内容的にはやや専門的な内容となります。

2004年6月23日18:08| 記事内容分類:01.ウェブログ超入門!| by 松永英明
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■ウェブログはマスメディアに取って代わるか

●ウェブログとジャーナリズムの違いはどこにあるか

 英米圏のウェブログが爆発的な人気を得たきっかけが、9・11事件後のウォーブログであったため、「ウェブログは既存のマスメディアに取って代わるのではないか」といった論調も出ています。あるいは、「ウェブログによって今までのジャーナリズムが大きく変化する」とか「次世代ジャーナリズムである」という見方もあるようです。

 ウェブログ型の情報発信は、既成のマスメディアとどのように違うのでしょうか。これについて、二〇〇三年十月十六日、メディア評論家ジェイ・ローゼンはウェブログ上で「ジャーナリズムにおけるウェブログ形式は何が急進的なのか?」という記事を発表しました。また、それを受けてメディア・コンサルティング&デザイン工房「HypergeneMedia」のウェブログでも補足意見が述べられています。

 ここで挙げられた項目をもとに、ウェブログと今までのジャーナリズムの違いをまとめてみましょう。

○旧来のジャーナリズムはプロの領域であり、素人はお客様である。。

 ウェブログは素人の領域であり、プロはお客様である。

○旧来のジャーナリズムは、参入への障壁が高い。

 ウェブログでは、参入への障壁が低い。資本はほとんど必要ない。

 この二項目は、一般の人がジャーナリズムに参入しやすいシステムこそがウェブログであると述べています。つまり、だれもがジャーナリストになれる手段としてウェブログがある、という見方です。

○旧来のジャーナリズムは書き手と読み手が分かれている。

 ウェブログでは、読者は同時に書き手でもある。他の書き手のために書く。

○旧来のジャーナリズムでは、担当編集者が読者の代理を務めた。

 ウェブログでは、読者が編集者の代理を務めてくれる。

○旧来のジャーナリズムは、内容を作成するときに読者が関与しない。

 ウェブログでは、読者が関与して記事を作るので、読者との緊密な関係が作られる。

○旧来のジャーナリズムでは、読者は受動的にニュースを消費するだけ。

 ウェブログでは、読者と共同作業・会話して記事を作るため、有意義な経験をもたらす。

○旧来のジャーナリズムでは、双方向コミュニケーションを提供しない。

 ウェブログでは、対話性があり、読者参加が可能であるため、若者を引きつける。また、読者の意見を取り入れ、協力することで、正確で興味深い記事を生み出すことができる。

 この五項目は、「ウェブログでは情報の発信者と受け手の区別がなくなり、共同作業が行なわれる」というようにまとめることができます。一方的な情報発信ではなく、多数の人の共同作業によって情報が組み立てられるのがウェブログというわけです。つまり、「新聞は講義であり、ウェブログは会話である」というふうにまとめることができるでしょう。

●ウェブログとマスメディアは補完し合う

 しかし、「ウェブログ」対「旧来のジャーナリズム/マスメディア」といった対立には疑問を示すブロガーも少なくありません。「ウェブログがマスメディアに取って代わる」というのはあまりにも極端な話です。むしろ、ウェブログとマスメディアはお互いに補い合うようになるという見方が妥当ではないでしょうか。

 実際には、ウェブログとマスメディアの融合も始まっています。たとえば、現在、まだ少数ではありますが、ジャーナリスト自身がマスメディアのサイト内でウェブログを始めているところがあります。英国の進歩系新聞ガーディアンのサイトや、日本のIT系ニュースを伝えるCNETでは、記者によるウェブログが開設され、効果的に話題を掘り下げて伝えています。

 その一方で、少数のブロガーがアマチュア・ジャーナリストといえるような情報を独自に収集して伝えるようになっています。たとえばブロガーのイベントがあれば、翌日には参加者による詳細なレポートがいくつも読めるのは、その一例と言えるでしょう。

 また、マスメディアの報じない独自ニュースを掘り起こして伝える人たちもいます。カリフォルニア大学バークリー校のケルヴィン・ディーニハンは「カルスタッフ」というウェブログで、学校やバークリー市のローカルニュースを独自に流してきました。それは地元新聞などに取り上げられることもしばしばありましたが、大学入試問題に関するトラブルについてのウェブログ記事は、世界的にも有名な大新聞「ロサンゼルス・タイムス」に引用されたのです。

 そこまで行かなくても、マスメディアの情報に対して批判や補足を加えたり、意見を述べるという意味で、ウェブログはマスメディアを補う役目を果たしていると言えます。

■ブロゴスフィアにおけるウェブログとメディアの関係

●マスメディアがウェブログを捕食する

 ウェブログの世界にも、食物連鎖の構造がある――ウェブログとマスメディア、ブロガーとジャーナリストの関係を、生態系システムにたとえたブロガーがいます。「マイクロコンテント・ニュース」を運営するジョン・ヒラーがその人です。そして、「ブロゴスフィア」=「ブログ」+「バイオスフィア(生物圏)」という言葉を使ってこの概念を表現しました(もともとブロゴスフィアは「ロゴス(議論)」+「スフィア(圏)」というダジャレだったのですが)。

 ブロゴスフィアには、他の生態系と同じように、肉食動物と餌動物、進化と創発、自然淘汰と適応といった現象が見られる、とヒラーは指摘します。

 まず、その食物連鎖の土台に来るのが「草の根ジャーナリズム」としてのウェブログです。ここには二つのスタイルがあります。

 まず「目撃者ウェブログ」、つまり自分自身の実体験を書くウェブログがあります。これは9・11事件のときに多くのニューヨーカーが自分の体験をウェブログとして公開した現象に見られるように、マスメディア以上に生々しい直接体験を報じるものです。

 もう一つは「専門分野ウェブログ」です。自分が詳しいジャンルについて(マニアックに)詳細な情報を提供するものです。これは、その専門分野については一般紙の記者も及ばない情報を与えてくれるでしょう。

 これらの大量の個人ウェブログの記事をすべて読むことは、さすがに誰にもできません。そのため、記事をつまみ食いする「あんちょこ」サイトが存在しています。日本ではブログマップなどが該当します。また人気のある話題については「反応リンク集」が作られることもあります。これは、膨大な個人ウェブログを「捕食」している存在ともいえます。

 これらの個人的なウェブログ以外に、人々が共同して情報を持ち寄る「グループブログ」が存在しています。もっとも、日本では今までこの役割を掲示板コミュニティが担ってきたかもしれません。英米ではクロージンやスラッシュドット、メタフィルターといったコミュニティ型の共同ウェブログが大きな役割を果たしています。

 英米では、これらの「草の根ウェブログ」で示された情報をマスメディアが報じたり、記者がウェブログを参照したりする現象が現われています。

 ここに「ウェブログ」→「マスメディア」という食物連鎖が見られます。

●ブロゴスフィアのサイクルは繰り返される

 しかし、ウェブログは捕食されるだけではありません。逆にマスメディアを捕食することもあります。現在はむしろこのタイプの方が多いかもしれません。

 一つは「適者生存」の法則を再現するかのような「フィルターとしてのウェブログ」です。ブロガーは興味を持った記事を自分のウェブログからリンクします。このブロガーによるランキングによって、どの記事が評価されたかが一目瞭然となります。

 もう一つは、メディア報道をチェックする機能です。マスメディアに誤報や偏りがあると感じたとき、ブロガーはそれを多くの人に知らせることが可能です。

 この一連の流れをまとめると、以下のようになります。

  1)ウェブログによる草の根報道

  2)あんちょこサイトによるウェブログ記事の選別

  3)マスメディアによる報道

  4)ウェブログによるフィルターと事実チェック

 このサイクルは何度も繰り返されていきます。これがヒラーによる「ブロゴスフィア」の全体像なのです。

■ウェブログとメディア・リテラシー

●ウェブログはメディア報道と切っても切れない関係

 ヒラーの語るブロゴスフィアの食物連鎖は、実際には日本ではまだそれほど機能していないようです。というのは、ウェブログが独自に報じた内容をマスメディアが後追いするような状況にはなっていないからです。それは、独自記事を流すだけのウェブログが少ないこともあるでしょうし、またマスメディアの側がウェブログを情報源にしたがらないという要素もあると思われます。

 となると、現在のウェブログはニュース的な内容に関してはマスメディアに従属する位置にあるといえます。

 このことをデータから検証するために、実際に「ウェブログで言及されたページ」を調べてみました。日本のウェブログからリンクされた記事をランキング表示している「ブログマップ」で集められた二〇〇四年二月、三月の月間ランキング上位二〇〇ページが情報源です。今回は、「ニュース記事」と「ウェブログ」と「その他」に分けてみました。ニュース記事は企業運営の報道サイトによるニュース、ウェブログには個人ニュースサイトも含みます。その結果は以下のとおり。

 二月 ニュース記事  九一ページ(四五・五%)五九一八ポイント(四五・一%)

    ウェブログ   三六ページ(一八%)  二二一四ポイント(一六・九%)

    その他     七三ページ(三六・五%)五〇〇一ポイント(三八・一%)

 三月 ニュース記事  九〇ページ(四五%)  六二一八ポイント(四一・九%)

    ウェブログ   四〇ページ(二〇%)  三二六六ポイント(二二・〇%)

    その他     七〇ページ(三五%)  五三五七ポイント(三六・一%)

 ポイントは様々なウェブログからリンクされた数の合計です。

 この数値を見ると、マスメディアによるニュース記事が四割強、ウェブログ同士が二割、それ以外の話題のサイトへのリンクが四割足らずという傾向が見られます。つまり、ウェブログ記事へのリンクより、マスメディアのニュースの方が情報源として二倍以上活用されているわけです。ウェブログにはマスメディアの報道が欠かせない状態にある、といえるでしょう。

●ウェブログ運営にはメディア・リテラシーが必要

 このようにメディア報道が重視されている場合、それをどのように解釈するかという問題が出てきます。つまり「メディア・リテラシー」の問題です。

 メディア・リテラシーという言葉について、吉見俊哉氏は『情報文化の学校』(NTT出版)の「メディア・リテラシーの実践」でこのように述べています。

「メディア・リテラシーとは、私たちの身のまわりのメディアにおいて語られたり、表現されたりしている言説やイメージが、いったいどのような文脈のもとで、いかなる意図や方法によって編集されたものであるのかを批判的に読み、そこから対話的なコミュニケーションを作り出していく能力のことで、発信能力でも情報処理能力でもない」

 しかし、ウェブログでもよく見られるのは、ニュース報道された記事をリンクし、それについてほとんど、あるいはまったくコメントを付けずに紹介するものです。中には見出ししか読んでいないのではないかと思われる場合も少なくありません。

 たとえば「ウェブログの三分の二は三日坊主」という見出しの記事が多くのウェブログで参照されたことがありました。このとき、少なからぬウェブログが「三日坊主で終わらないように続けるにはどうすればいいか」という観点でコメントしていました。しかし、実際は「レンタルウェブログでは、登録されたうちの三分の二が放置されている」、つまり「お試し登録をしたものの、結局使わなかった人が三分の二」という統計結果の報道だったのです。つまり、特にブロガーが飽きっぽいというわけではありません。これは、実際に記事を読んだり、あるいは元の統計に当たれば間違わずに済んだはずなのです。

●メディア・リテラシーの第一歩は情報源の確認

「わたしたちはプロのジャーナリストと違って、取材する能力がない。だから、マスコミの情報を信じるしかない」と言う人がいます。しかし、インターネットという手段がある現在、それは言い訳になりません。

 たとえば、ネット上では新聞やテレビのニュースサイトがいくつもあります。ここで、同じ話題についての各社の報道を対比検証することによって、一つのメディアでは隠されていたことが明らかになったり、ニュアンスの違いがはっきりしてきたりします。

 また、場合によっては当事者自身の発表を手に入れることができるかもしれません。会社のプレスリリース、科学者の論文、芸能人のウェブ日記(最近はウェブログに移行しつつあります)などの一次情報を手に入れ、それを検証することもできるのです。

 手間を惜しまず、ニュースソースに当たること。これが重要なポイントなのです。

■メディアの検証はここまでできる

●日本では冷淡だった中国初の有人宇宙飛行船

 色々なウェブログを見ていると、一つの記事についても様々な情報があることがわかります。これはメディア・リテラシーを高める練習に使えるかもしれません。また、あなた自身がウェブログを運営していく上で、報道された記事をどのように扱うかということは非常に大切なことになってきます。たとえ独自の情報源を持たないとしても、マスメディアの報道をうまく「料理」することによって、意味のある記事を公開することが可能になります。

 二〇〇三年十月、中国初の有人宇宙飛行船「神舟五号」が打ち上げられ、パイロットの楊利偉氏が無事地上に帰還しました。この件について、日本のマスメディアでは「中国に追い越された」というような論調が目立ち、この件についての詳細な情報はあまり手に入らない状況でした。

 しかし、中国情報に関心のあるウェブログが、「アジア初の有人宇宙飛行」について、詳細な情報を追いかけ始めたのです。情報源は主にインターネット。特集を組んでいた中国語ニュースサイト「新浪網」を中心にして情報を集め、「BLOG::TIAO」やわたしのウェブログなどで、大手メディアよりも早く、充実した内容を伝えることができたのです。

 もちろん、中国のメディアからの情報でしかありませんから、現地で直接取材というわけにはいきませんし、また国家統制されている可能性もありましたが、それでも「そのように報道されている」という事実は一つのデータとして有用なものとなります。

 当初は伏せられていた宇宙飛行士の氏名も、ウェブログの方が日本メディアより先に伝えました。パイロットの詳しい経歴や、宇宙食が月餅という話題なども同様です。さらに、関連情報を掲載するウェブログがコメントやトラックバックでつながることで、必要な情報がまとまった形で手に入るようになりました。このとき、ウェブログはマスメディア報道を「補完」したのです。

  • ●「第十惑星」セドナとアメリカの威信(本文p165~166)
  • ●新聞社の誤報も正確に指摘(本文p167)
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