都道府県別「多い名字」可視化マップを作ってみた

都道府県ごとに「多い名字」には地域的な偏りがある。それを何とか可視化できないかと思って、データをもとにして地図上にマッピングしてみた。

都道府県別「多い名字」可視化マップ

詳細はPDFファイルにしたのでそちらで見ていただきたい。→都道府県別「多い名字」可視化マップ(PDF)

※関連記事:選択式夫婦別姓議論と「日本人の姓/名字」の歴史[絵文録ことのは]2011/02/15

2012年8月10日17:07| 記事内容分類:日本史, 民俗学・都市伝説| by 松永英明
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発端

佐藤さん山脈、田中さん山脈 ←日本の多い名字を1枚の地図にまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers(2012年8月5日)

というブログ記事を読んだ。満田新一郎(1961)「多い苗字、多い名前」『言語生活』」118.所載の図に彩色した「佐藤さん山脈、田中さん山脈」という図が掲載されている。

これは非常に興味深い、面白い……が、データが古い(わたしも生まれる前である)し、あまり厳密な地図とはいえない。そこで、ある程度の統計データに基づいて可視化してみようと思ったのだった。

作業

まず、都道府県別の名字の順位については、名字についての著作を多く著わしている姓氏研究家・森岡浩さんのサイトにある「都道府県別名字ランキングを参照した。ここでは1990年代の電話帳に基づく名字数の順位が掲載されている。「すでに10年以上が経過していますが、上位の名字に変動を及ぼすほどの激しい人の移動はなく、現在でもほとんど変化はないはずです」とのことなので、ひとまずこのランキングデータを採用することとする(本当は自分でこのデータも調べ直せばいいのだが、暫定的にデータを利用させてもらうことにした)。

このサイトでは上位20名字がリストアップされている。いろいろ検討した結果、各都道府県の上位4名字でデータ化することにした。あまり多すぎてもごちゃごちゃしてかえって傾向が見えなくなるし、少なすぎると今度は情報がぶつ切れになってしまう。

次いで、同サイトの「日本人の名字ベスト200」のデータを参照した。これは「読み方まで考慮した日本初のランキング」とのことだが、ここで日本全国で多数派を占める名字が判明する。

この二つのデータを付き合わせてみよう。「日本全国」のランキングで上から順に、都道府県別でどの県の何位に入っているかを調べていく。全国1位の佐藤さんの場合、北海道・岩手・宮城・秋田・山形・福島・新潟・大分で1位、茨城・東京・神奈川で2位……といった具合だ。これを各都道府県の4位までに入っているかどうかチェックする。

全国2位の鈴木さん、3位の高橋さん……と順に進めていく。18位の「木村」さんが4位以内に入っているのは青森県の4位のみであった。それまでは複数県でトップ4入りしていたので、木村さんの一つ上、17位井上さんまでを地図上で示し、それ以外はその他として扱うことにした。

1位を直径4、2位を直径3、3位を直径2、4位を直径1の比率の円で示し、各都道府県に配置した。名前ごとに色を変え(上位10位までは虹の色の順、それ以下は中間色で)、同色=同名の円を同じ色の線で結んでみることにした。18位以下はグレーにしてある。

その結果がこの地図である。何となく色覚調査の図にも見えないではない。Webで通常表示できる画像サイズでは細部が見えないので、PDFファイルでまとめた。→都道府県別「多い名字」可視化マップ(PDF)

※円をマッピングした場所は、その都道府県の中で「線の引きやすい場所」を選んだものであって、県内のマークのあるあたりの地域にその名字が多いということではないので念のため。

全データ表示

全データを一枚の地図で示すとこのようになる。一目で見ていただくと、全体に「東日本は赤~黄色」「西日本は緑~青」という感じの配色にきれいに分かれている。つまり、「東日本に多い名字」と「西日本に多い名字」には明らかな違いがあるということだ。また、愛知・岐阜(つまり織田信長の最初の勢力圏)も小さいながら独自の勢力圏を有していることがわかる。

都道府県別「多い名字」可視化マップ

県別上位4位に全国上位17位までの名前が一つも現われないのが、宮崎と沖縄。かつて琉球王国であり島津の指示によって独自の名字表記を強制されたともいわれる沖縄はまあ当然としても、宮崎が極めて特異な位置を占めていることがわかる。一方、北海道は全国からの開拓民が来ているはずだが、名字的には完全に東北・関東圏と共通している。

東日本に多い名字

見やすくするために、東日本に多い名字だけをピックアップした。興味深いのは大分県で、西日本の中では特に関東系の名字が強く、関西系の名字の勢力が弱い県となっている。

都道府県別「多い名字」可視化マップ東日本

1位「佐藤」は東北に圧倒的に多く、関東まで勢力を伸ばしている。なお、飛地として香川・大分にも勢力が広がっているのが興味深い。ちなみに佐藤は左衛門尉藤原氏(藤原秀郷流)を由来とするものが主流のようだ。

2位「鈴木」は東海から関東を本拠地とし、東北地方南部まで、特に太平洋側を北上しているように見える。穂積姓の家が鈴木氏を名乗ったということで、熊野信仰との関連が深いとされている。

3位「高橋」も関東を本拠地としているが、鈴木と違って日本海側から北上するような分布である。また、愛媛に飛地がある。

5位「渡辺」は富士山を挟む山梨・静岡など、関東周縁をぐるりとまわって新潟まで至る。唯一の飛地が大分で、渡辺典子は確かに大分市出身である。

9位「小林」は甲信越+北関東という場所で、何となくかつての真田氏の勢力圏が少し東に延びたような形をしている。小林麻央は新潟県小千谷市出身。

13位「佐々木」は東北北部で勢力を誇り、日本海を隔てて島根にも飛地がある。佐々木希は秋田市出身。

15位「斎藤」は山形・福島・栃木の3県でベスト4入りしたが、この地理的配置からするともしかしたら福島県の中でも西部の会津地方に斎藤さんが多いのではないかというのが現在の仮説。

関東で強い名字は、一部四国・九州に飛地があるが、中京から関西圏では上位入りしていないことがはっきりわかる。

西日本に多い名字

次は西日本に多い名字をピックアップしてみた。

都道府県別「多い名字」可視化マップ西日本

4位「田中」は北陸・近畿・山陰・北九州を中心に、四国を除く西日本全域で勢力を張っている。東の横綱が佐藤なら、西の横綱は田中である。長野・東京にも飛地があり、かなり東に食い込んでいる印象がある。ちなみに田中麗奈は福岡県久留米市、田中れいな(モー娘。)は福岡市出身、ココリコ田中直樹は大阪府豊中市出身。

7位「山本」も西日本中心だが、北陸・近畿・中国と四国西部に及び、トップ4の範囲では九州には上陸しない。逆に東に少し張り出して富山・石川で大きく、また静岡にも及ぶ。山本浩二監督は広島市出身。

8位「中村」は北陸・近畿と九州が中心で、中国・四国では弱い。名字的には北陸と近畿は完全に似た範疇ということもわかってくる。中村あゆみは福岡市生まれ。

「田中」勢力圏として見れば東北・近畿と中国、九州は同じ勢力圏だが、「山本」は中国、「中村」は九州に分かれて分布しており、相補的になっているのが面白い。そして、四国は独自の様子を見せている。

11位「吉田」は徳島から大阪・奈良を経て北陸につながる。やや特異な形だが、これも北陸近畿型の名字といえよう。

14位「山口」は佐賀県・長崎県(つまり肥前国)でどちらもトップだが、それ以外の都道府県ではトップ4にまったく入らないという独特な名字である。

16位「松本」は熊本・和歌山・兵庫・鳥取でランク入り。ダウンタウン松本人志は兵庫県尼崎市出身。

17位「井上」は京都・兵庫・福岡の三県でランクインしている。いずれも日本海側に多いのではないかという仮説を立ててみたが、実際のところはどうだろうか。

中京に多い名字

愛知県・岐阜県・三重県に多い名字が一グループをなしている。

都道府県別「多い名字」可視化マップ中京

6位「伊藤」は伊勢藤原氏が由来であることと見事に一致して三重でトップ、隣接する愛知・岐阜、少し飛んで秋田に勢力を広げている。伊藤氏は近畿より中京への発展を示したということになろう。いとうまい子(伊藤麻衣子)は名古屋市出身。

10位「加藤」は岐阜・愛知という信長初期勢力圏の名字。ここでは一位二位を争うが、他の県ではランクインしないという点で「山口」と似ている。加賀藤原氏のはずだが、旧加賀国である石川県ではまったくランクインしていない。加藤あいは愛知県清須市出身。

12位「山田」は石川・岐阜・愛知という南北ラインに沿って分布している。ここに多いのは尾張源氏系の山田氏の勢力かと思われる。

愛知のトップは「鈴木」であるが、東でも西でもない独特の勢力圏がここに存在しているように思われる。

全国ランキング18位以下の名字

以上のランキングに入らなかった名字のみを残してみると、一見して「東日本に少なく、中部と中国・四国・九州に多い」という傾向が見られる。つまり、東の方が大きな名字の勢力が大きく、西に行くにつれて多様な名字が見られるということだろう。

都道府県別「多い名字」可視化マップその他

宮崎と沖縄の特異性についてはすでに述べたが、四国もかなりの独自性を見せている。また、色のついている名字がいずれも関東系の大分県も興味深い。

この図では関東と四国・九州を結ぶ必要がある場合、いずれも千葉県から線を延ばしてみた。四国の徳島県=阿波国と千葉県南端の安房国がいずれも「あわ」で同名なのは、阿波の住民が安房に移住したという歴史的経緯を反映している。したがって、四国と房総半島を結ぶ海の道はかなり古くからあったと考えられる。

可視化マップを振り返って

「佐藤山脈」といった図ではややわかりにくかった詳細な分布が直感的に把握できたように思われる。そして、「関東・東北」エリアと「中京」エリア、「北陸・近畿」を中心とした西日本エリア、四国・宮崎・沖縄の独自エリアが浮かび上がってきた。

きちんとデータを取り直したり、4位までではなくもう少し下位まで範囲を広げれば少し様相は変わってくると思われるが、大きな傾向はこの図で把握できるのではないだろうか。

この調査をしてみようと思うきっかけを作ってくれた「読書猿」くるぶしさん、そして元となるデータをウェブ上で公開してくださっている森岡浩さんには改めて感謝したい。

「名字は明治維新のときにつけた人が多い」という俗説が現在否定されていることについての補記(8/11)

「国民の大半が明治以降に苗字を持った」ということを前提としたブクマコメントやツイートが少数ながら見られるので補記。

「苗字帯刀が許される明治維新までの農民や町人は名字/苗字を持っていなかった。だから、明治維新のときに日本人の多くが苗字を新しく考えてつけた」という「常識」は、実は最近の研究で覆されている。

実際には農民や町人も姓や名字を持っていた。ただ、江戸時代に農民・町人は苗字を名乗ることを自粛するようになったのだという。そのために自分の家の名字を「忘れた」という例も確かにあったらしい。

そういうわけで、現在の名字も実は「明治維新のときに適当に考えてつけた」わけではなく、多くの場合はそれ以前からの根拠があったということである。

この件の詳細は関連記事「選択式夫婦別姓議論と「日本人の姓/名字」の歴史[絵文録ことのは]2011/02/15」ならびにその記事で紹介されている参考文献を参照していただきたい。

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2012年8月10日17:07| 記事内容分類:日本史, 民俗学・都市伝説| by 松永英明
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