幸福実現党の研究(1)幸福の科学と新型インフルエンザ

宗教団体「幸福の科学」が「幸福実現党」という政党を結成したというニュースが流れたのは2009年5月末のことだった。そこで、この政党は一体何を目指しているのか、どういう政策を掲げているのかということを知りたいと考えた。

幸福実現党はどのような理念を有しているのか。批判するにせよ賛同するにせよ、まずは知ることだ。自分の価値判断はそれからでも遅くはない。というわけで、まずは彼ら自身の書いていることを読み、そしてどのような思想であるかを把握しようと考えた。第三者の分析より、まずは彼ら自身の言葉を彼ら自身の解釈で理解する必要がある。結論から言えば、幸福実現党は極めてエスノセントリズム的であった。

この幸福実現党の政策を踏まえた上で、現在の世論の趨勢に加え、さらにその選挙戦略(ドクター中松の擁立、出馬するしないが二転三転している状況など)を考えると、幸福実現党はおそらく一議席も獲得できずに終わるだろう。その後、どうなるのか。「真」「正」を掲げる宗教団体が母体であり、その教祖自ら出馬したにもかかわらず落選した場合、教団信者の思考としては「社会が間違っているから落選した」という結論に至るのは必然である。それは、幸福の科学がこの社会に牙を向く第一歩となりかねない。

これより数回に分けて、幸福実現党の研究を連載する。前半で思想・政策、次いで行動・戦略を扱う(一般的な報道等では、行動・戦略に偏りがちだろうと思う)。できれば、言葉尻ではなく、全体の流れをつかんで読んでいただきたい。

なお、この文章の書き手の「過去の経歴」的なものをあげつらう個人攻撃も各方面から行なわれるだろうと想像されるが(その中には真実ではないことを含む名誉棄損等もあるだろう)、ぜひそのような行為には荷担されないよう、読者の皆さまには強く要望したい。また、私は自民党・公明党・民主党・社民党・共産党その他含め、一切の支持政党を有さないことを明記しておく。

第一回は、幸福の科学の思想をざっくりと分析する。

2009年8月18日10:41| 記事内容分類:幸福実現党の研究| by 松永英明
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幸福の科学は新型インフルエンザをどう考えるか

最初に購入した資料の一つが、幸福の科学出版による月刊誌「リバティ」7月号であった。

The Liberty (ザ・リバティ) 2009年 07月号 [雑誌]
幸福の科学出版
発売日:2009-05-30
おすすめ度:5.0
おすすめ度5 「不況に対する心構え」、「幸福実現党宣言」などについて

表紙に大きく「「幸福実現党」結成! この新党が日本の政治を変える!」と書かれている。――が、この特集について分析する前に、目を惹いた記事があった。

「メキシコ発 新型インフルエンザの霊的背景と対策」

「編集部 田中司」という署名のある記事である。「グローバル社会で、今回のような新型インフルエンザの被害を防ぐには 人類の悪想念や霊的作用がウイルスに及ぼす影響を知ったうえで 明るく強い心を持つことが大切だ」と書かれている。これは気になる記事だ。本文にはこのような一節がある。

幸福の科学・大川隆法総裁によれば、新型インフルがメキシコで発生し流行が拡大した背景には、公衆衛生学的な要因に加えて複数の心的・霊的影響があるのだ。その要点と、被害を最小限に抑えるための対策について、大川総裁の提言に基づいて述べてみたい。

ということなので、この特集記事の内容は大川隆法氏の思想を紹介するためのものと解せる。そこで、見出しと太字を引用してみよう。(丸数字はカッコ数字に置き換えている)

【背景(1)】アメリカの景気悪化がメキシコ経済の将来に不安を与えている
「アメリカの景気後退による経済不安がメキシコ経済の将来に不安を与え、悪想念が広がっている」
【背景(2)】麻薬戦争、アメリカへの憎悪、自国政府への不信感
「不平等感からくるマイナス想念やアメリカへの憎悪が、多くのメキシコ人の心でくすぶっている」
人々の悪想念がウイルスの悪性化を促進する
大川隆法総裁は著書でこう述べている。「病原体としてのウイルスや細菌はありますが、それ自体は、それほど有害ではありません。それに霊的作用が加わって、あれだけ伝染していくのです。(中略)ウイルス自体は、春だって夏だって、一年中、生きているのに、冬になったら、なぜ広がるのでしょうか。それは霊的作用を受けて、急に勢力が増大するからです」(『心とからだのほんとうの関係。』弊社刊。秋に大量に死んだ虫たちの不成仏霊がインフルエンザウイルスに集団的に憑依することが、毎年の冬にインフルエンザが流行する要因であることを述べた部分より抜粋)。
【背景(3)】祟り神系の恨みの念波
「イスラム教国側の祟り神系の恨みの念波が、新型インフルの悪性化、増殖にも一定の霊作用を与えており、2005年にアメリカ南東部を襲ったハリケーン被害同様、アラーの祟りだと思わせようとしている。」
【背景(4)】世界大恐慌に変わる「不幸のタネ」を捜している人々の想念
「世界大恐慌を期待していた恐怖心と不幸感の強い人々が、大恐慌が空振りになろうとしているので、次の不幸の騒ぎのタネを捜している。こうした想念の集合体がウイルスの悪性化を促進する。」

インフルエンザがなぜ冬に流行するかといえば、私自身は、「インフルエンザウイルスは、湿度が高く気温が高い場合に感染しにくくなるから」と理解してきたのだが、大川氏は「秋に大量に死んだ虫たちの不成仏霊」が原因だという。

その解釈の当否はここでは云々しない。まずは彼らを知ることだ。そういう視点で見れば、これは非常に興味深い。

この発言を柳田国男や折口信夫が読んだら、大いに興味を持つことだろう。宗像伝奇教授や稗田礼二郎がこの一文を見れば、ニヤリとすることだろう。民俗学的に、あるいは日本の宗教史的にいえば、これは「御霊信仰」あるいは日本古来の伝統的なアミニズム的な「祟り」信仰そのものである。

まず、「仏」という言葉が含まれていても、「不成仏霊」という言葉は日本型アミニズムの言葉である。「成仏」すなわち死ねば仏になれるというのは仏教ではないし(少なくともお釈迦様はそんなことは言っていない)、逆に、成仏しないでさまよう霊が祟りをなすという概念も本来の仏教ではない。極めて日本的な、先祖霊・自然霊信仰というアミニズム的な発想による概念なのである。

恨みの想念によって祟りをなす。それは、怨みを抱いて死んだ者が疫病を流行らせる、という日本古来のアミニズム型信仰である。たとえば菅原道真は太宰府に流罪となって怨みを抱き、死後、祟りをなした。それを鎮めるために作られたのが天満宮であり、道真を天神として祀ることでその病疫などを防ごうとしたのである。崇徳上皇しかりである。

有名な京都の祇園(八坂神社)も、この御霊信仰と関係がある。この祭神である牛頭天王は流行病をもたらす神であった。「蘇民将来」伝説など、民俗学的に非常に興味深い内容があるので、学術的に興味のある方は、山本ひろ子『異神』などを参照されたい。

異神〈上〉中世日本の秘教的世界 (ちくま学芸文庫)
筑摩書房
発売日:2003-06
ランキング:272040
おすすめ度:3.0
おすすめ度3 力作・労作
異神〈下〉中世日本の秘教的世界 (ちくま学芸文庫)
筑摩書房
発売日:2003-07
ランキング:285840
おすすめ度:5.0
おすすめ度5 中世日本の文献探求の奥深さ。

そもそも、幸福の科学は様々な人物や守護霊などの「霊言」を書籍化することで始まった。霊の言葉を伝える者は一般に「審神者(さにわ)」と呼ばれたりもするが、要するに「イタコ」のようなものである。大川隆法氏は仏法真理という言葉を使っていたりするが、釈迦の生まれ変わりであるという大川氏は、いろいろな「霊」の言葉を権威付けに使ってきた。最近でも『オバマ守護霊インタビュー』という書籍が出ている(これは後で取り上げる)。

霊の言葉を重視し、祟り神や恨みの想念が疫病の原因になるという。極めて日本アミニズム的な宗教であるといえる。違うとすれば、「ウイルスや細菌といった病原体に、人間の想念や動植物の霊、祟り神の念波などが加わり、両者があいまって感染症の流行や悪性化が起こるというのが、科学と霊的観点の両方から見た中道的真実なのである」(同上特集より)というように、「科学と霊的観点」の二つを並列し、その融合(習合)をはかるところだろう。

さて、これを踏まえて、新型インフルエンザへの対策を読んでみよう。

【対策(1)】壊滅的な恐怖は起こらないと信じる
まずは、スペインかぜやかつてのペストのような何億もの人が死ぬような恐怖は起こらないと信じることだ。
【対策(2)】光明思念を強くする
不幸を信じ、恐怖にとらわれると免疫力が低下してくるのだ。人はウイルスに負けるような弱い存在ではない。神の子、仏の子としての光明思念が大切である。
【対策(3)】祟り神よりも強力な神の指導を受ける
幸福の科学では国内外の支部で「感染症撃退祈願」と「感染症予防祈願」を受けることができる

信じる、思念する、祈願を受ける。祟り神を祀らないという違いはあるが、まさに発想の根本は、平安・鎌倉時代の御霊信仰そのものといえよう。それがいいとか悪いとか正しいとか間違っているという判断は、ここでは行なわない(読者諸賢は各自の価値観や信念に基づいて判断されたし)。ここでは、幸福の科学のインフルエンザへのとらえ方から、御霊信仰と共通する思考が導き出せるという民俗学的な分析を示すだけにとどめておく。

さて、この特集の結論を引用しておこう。(※追記あり)

結論として、今回の新型インフルエンザは、本格的な世界的大流行(パンデミック)にはならない。最悪、全世界で感染者10万人以内、死者2万人以内で止まる。この流行は1年以内で終焉を迎えるだろう。

この結論と前出の背景、対策は、大川総裁によれば、幸福の科学支援霊団の高級霊である行基とエドガー・ケイシーの霊示に基づく。

ちなみに、世界保健機構(WHO)によると、2009年8月6日時点で全世界で17万7000人以上が感染、1462人の死亡が報告されている。

もちろん、今回取り上げたのは、幸福の科学という宗教団体の教義のごく一部にすぎない。しかし、これは幸福の科学の教義の(決して些末ではない)一側面であることは間違いないと思う。

8/19追記・修正

コメント欄にて下記の指摘があった。

>この特集の結論を引用しておこうの部分

確かに今確認してきましたが「今回の新型インフルエンザは、本格的な世界的大流行にはならない。最悪、全世界で感染者10万人以内死者2万人以内で止まる。この流行は1年以内で終焉を迎えるだろう」と書いてありましたのは確かです。しかし、それは①②③の"対策を行えばどうなるか"という条件付きだったはずです。よって貴方の記事は正確に引用していません。また、WHOのインフルエンザの被害報告はこのリバティの記事の内容とはまったく関係ありません。もし、対策を行ったにも関わらずこういう被害結果に終わったという書き方ならば理解できますが、あきらかに"①②③の対策が行われたことによる仮定の被害結果"とは無関係です。貴方の記事の書きようでは大川総裁は霊言という形での「嘘」を言ったというふうに読者に印象づけますし、信者はそういう「嘘」を信じている人間であると読者に印象づけます。よって記事の一部訂正を求めます。

最後の結論部分の引用についての指摘である。前提の一文を抜かしていたため、確かに原文と異なる印象を与えてしまう可能性がある。そこで、もう一度、前後含め正確に(やや長くなるが)引用する。なお、太字・傍線も正確に引用することとする。

 こうした対策を行えば、どうなるか。結論として、今回の新型インフルエンザは、本格的な世界的大流行(パンデミック)にはならない。最悪、全世界で感染者10万人以内、死者2万人以内で止まる。この流行は1年以内で終焉しゅうえんを迎えるだろう。

ただし、ここで疑問が生じる。3つの対策を、少なくとも幸福の科学の信者は行なっていたのではないのか。一方で、全世界的には対策をあまり行なっていないということも事実であろう。では、今回のインフルエンザに関して「対策」は行なわれていたのか、いなかったのか。

私はここにコールドリーディング的な物言いを感じる。つまり、「結論」の範囲内で収まった場合は「幸福の科学が3つの対策を行なったから」と言えるし、「結論」の範囲内で収まらなかった場合は今回のように「対策を行なっていないのだからこの数字は当てはまらない」と言える。「対策が行われたことによる仮定の被害結果」なのだからこの数字には意味はない、というのは少々無責任だろう。どの程度の対策がとられればよいのかが明記されていないからだ。これは少なくともこの記事の執筆者の曖昧な書きぶりにも問題があるといえる。

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2009年8月18日10:41| 記事内容分類:幸福実現党の研究| by 松永英明
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コメント(4)

>この特集の結論を引用しておこうの部分
確かに今確認してきましたが「今回の新型インフルエンザは、本格的な世界的大流行にはならない。最悪、全世界で感染者10万人以内死者2万人以内で止まる。この流行は1年以内で終焉を迎えるだろう」と書いてありましたのは確かです。しかし、それは�@�A�Bの“対策を行えばどうなるか”という条件付きだったはずです。よって貴方の記事は正確に引用していません。また、WHOのインフルエンザの被害報告はこのリバティの記事の内容とはまったく関係ありません。もし、対策を行ったにも関わらずこういう被害結果に終わったという書き方ならば理解できますが、あきらかに“�@�A�Bの対策が行われたことによる仮定の被害結果”とは無関係です。貴方の記事の書きようでは大川総裁は霊言という形での「嘘」を言ったというふうに読者に印象づけますし、信者はそういう「嘘」を信じている人間であると読者に印象づけます。よって記事の一部訂正を求めます。

マスクで予防!在庫切れ間近!手洗い、うがい、マスクが重要!

厚生労働省によると、新型インフルエンザのパンデミックが発生した場合、日本でも、約3,200万人が感染し、約17〜64万人
が死亡する恐れがあると想定されています。発生直後は食料品の需要が一時に集中し、思うように手に入らないおそれもあります。不要不急の外出をしなくてもいいだけの最低2週間程度の食糧・日用品は準備しておきましょう。

ブログ管理人です。
上記投稿ですが、管理人としてはまったくおすすめいたしません。新型インフルエンザの予防のためには、「不織布三層マスクを使い捨て」するのが必要ですが、N90やN99(あるいは「相当」)のマスクは患者に接する医療関係者でもなければ必要ありませんし、一枚5〜10円程度の価格が適正なものです。50枚で300〜600円程度のもので充分ですので、不必要に高価なマスクを買わないよう、ご注意ください。

詳しくはこちらを参照のこと。
http://www.kotono8.com/2009/05/18ah1n1.html

分析は面白く読ませて頂きました。
しかし、幸福の科学では、祟り神の存在やアニミズムは、否定はしていませんが、レベルが低い信仰だとしています。
愛の教えなど、中身のある信仰が主体です。

それから、私は、Libertyの当該記事を読んだときに、コメントNo.1の人のようではなく、松永さんが読んだように読みました。
(対策の有無に関わらず)「結論として、〜」ということであり、この「予言」は外れたのだ、と思います。

しかし、ノストラダムスの件にしてもそうですが、幸福の科学では、予言が外れることは当り前のことです。予言は、幸福の科学の教えの本質ではありません。

わざわざ、記事に、このような「予言」めいたことを書いたのは、「光明思念を強くする」ということを実践しただけでしょう。

(巷のマスコミのように)ただ恐怖を煽ったりするのではなく、「このように対策をすれば大丈夫」ということを発信せよ、というお手本を見せたのだ、と私は受け取りましたが。

このブログ記事について

このページは、松永英明が2009年8月18日 10:41に書いたブログ記事です。
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