硫化水素自殺

出典: 閾ペディアことのは

硫化水素自殺は、市販の薬剤を使用して硫化水素を発生させて自殺するもの。2007年ごろから2ちゃんねる等インターネット上で方法が紹介され、その後自殺者が急増したことを受け、マスメディアが大々的に取り上げることでさらに大きな社会問題となった。

なお、硫化水素自殺者がいた場合、救出しようとして二次被害を受ける可能性があるため、現場から速やかに逃げて119通報することが必要である。

※この記事は社会現象としての硫化水素自殺を扱うものであり、自殺を推奨・促進するためのものではありません。また、具体的な方法についての記載は除いています。

目次

硫化水素自殺の概要

酸性物質と金属硫化物を混合すると、有毒な硫化水素が発生して、生命に関わる危険が発生する。なお、酸性物質と硫黄を混合した場合には、硫化水素ではなく、塩素ガスが発生する(塩酸系洗剤容器に書かれている「まぜるな。危険」の表示は、この塩素ガス発生への警告である)。

一部では「一番安楽かつ確実」な自殺方法として紹介されたこともあるが、報道事例を検討すれば、自殺未遂に終わって失敗している例もあることがわかる。未遂の場合、報道されないことも多いと推測されるため、実際の成功率はさらに下がる可能性もある。また、高濃度の硫化水素では心筋梗塞などが起こることもあり、苦しまずに死ねるとは限らない。

楽に死ねる方法など無い!硫化水素自殺の闇 ≫ サプリメントコラム ≫ 知的健康生活マガジン QLife SQUAREより引用

硫化水素は呼吸系に作用し細胞が呼吸できなくする。つまり直接死に至る原因は「窒息死」である。呼吸しようとして肺は動くのに息が出来ない状況を想像すれば、それがどれくらい苦しいか、想像できるだろう。市販の洗剤を混ぜて発生する程度のガスで、首尾よく短時間で即死するくらいの高濃度のガスが発生するとは限らない、数時間はもだえ苦しむ事を覚悟しなければならない。遺体も法医学の専門家によれば、緑色に変色し溺死体のような見るに耐えない姿になる。また万が一死に切れなかった場合、鼻や肺など呼吸器系が損傷し酸素が脳にいかないため、脳に重い後遺症を残すなど、その後の生活も立ち直りが難しくなる。

硫化水素が発生していることがわかった場合、巻き込まれないようにするには、とにかく逃げることが必要である。硫化水素は重いため、できるだけ風上・上方へ逃げることが目安となる。硫化水素ガスは一般に、「卵の腐ったような臭い」がするとされるが、においを感じる前に巻き添えになるケースもある。ガスが無色で空気より重いために拡散しにくく、現場にかけつけた消防隊員が不調を訴えるケースもみられる。総務省消防庁は「現時点では早期の適切な避難が最善」としている。

硫化水素自殺情報の広がり

硫化水素中毒事故

硫化水素中毒事故は以前から発生している。特に清掃や工事中、マンホール内での作業で誤って硫化水素を吸入する事例が多い。

56 57 58 59 60 61 62 63 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
被災者数 6 7 11 18 19 16 13 7 6 10 2 11 8 12 8 13 5 7 13 7 7 18 2 4
死亡者数 0 3 3 9 5 7 2 3 2 1 1 2 7 2 1 4 0 2 6 6 1 15 0 3
発生件数 4 6 4 7 9 9 7 3 4 5 2 6 3 6 4 8 3 5 6 3 5 7 2 2

2005年12月29日、秋田県湯沢市高松の泥湯温泉「奥山旅館」近くの雪のくぼ地で、宿泊客の家族4人が倒れる事故があった。東京都豊島区西巣鴨2、東京大学理学部助手(47)と妻(42)、小学3年の長男(8)、同1年の二男(6)の4人が倒れており、病院に運ばれたが、妻子はまもなく死亡、意識不明の重体だった助手も亡くなった。県営駐車場の近くに硫化水素ガスの噴出口があり、その上に雪が積もっていた。噴出口付近はガスの熱で雪が解け、 くぼ地状になっていたが、子供の1人がこのくぼ地に落ちたフライングディスクを取ろうとして落ち、妻ともう1人の子が助けようとして落ちたとみられる。助手と従業員も3人を救助しようとしたが、助手もガスを吸って倒れた。

自殺の発生

市販品を使って硫化水素を発生させる自殺は、2007年3月6日、高松市の自宅アパート浴室で男性(24)が死亡した例が最初のものと思われる。

2007年7月13日、神奈川県秦野市の男子大学生(21)が自宅で硫化水素中毒となり死亡。兄(23)と母(49)も巻き込まれて死亡した。妹(18)が重体。遺書に「家族への不満はない」と記していた。救急隊員や警察官も目などの痛みを訴えた。意図的に硫化水素を発生させて自殺する事例が大きく報道されたのは、この事件がきっかけであったと思われる。

警察庁のまとめによると、2007年には27人が命を落としている。

2ちゃんねるコピペ

2007年には、インターネット上で硫化水素による自殺方法を紹介する内容が掲載されるようになった。

2ちゃんねるの多くのスレッドに、硫化水素自殺の方法を示したコピペが書き込まれるようになったのもこのころである。当初は単純に自殺方法のみが記されていたが、2008年はじめには、「練炭よりも簡単」などと硫化水素自殺を煽る文言が追加されるようになっていた。

練炭自殺に代わる、新しい自殺方法が開発されました。
火を起こす必要はありません。練炭よりも簡単です!

薬屋で簡単に買える2種類の液体の原液を、狭い密閉区間でただ混ぜるだけ!
一酸化炭素より強力な毒性を持つ【硫化水素】が一気に発生します。
★ よく「塩素ガス」と誤解されることがありますが、こちらはもう少し強力な【硫化水素】です。 ★
1000ppm以上の【高濃度硫化水素】を一気に吸えば、一瞬で意識を消失(ノックダウン)できます。
 ※ 「塩素ガス」では「ノックダウン」ができません!

このコピペの後半部分では、硫化水素を発生させるために必要な市販薬剤の名称と必要量などが詳細に書かれているが、ここでは省略する。

ネット上での硫化水素自殺情報では、必要な商品とその分量、目張りをすること、硫化水素発生警告の張り紙をすること、遺書を残すことが勧められている。

某自殺情報ページには以下のような記載があった。

ここで重要なのは、遺書(最近の若者はパソコンの中にテキストファイルで遺書を残すケースが多いようだが、直筆のほうがモアベターだと思われる。)の有無と、内側からの目張りです。これが無いと、警察は「自殺」ではなく「事件(自殺を装った他殺)」だと疑い、遺族や友人などにめんどくせえ思いをさせる羽目になる可能性が非常に高いです。あとは警告の張り紙。これは各自工夫してください。

他の自殺情報ページでは、張り紙のpdfファイルが紹介されている。

このため、特に「張り紙」を残したケースでは、インターネットからの情報に基づいて自殺を決行した可能性が高いと思われる。

マスコミ報道とネット情報規制

2008年3月27日、神戸市北区で27歳の会社員が硫化水素自殺を行ない、家族にも被害を及ぼす事件があった。次男は浴室の換気口に目張りし「有毒ガス発生。開けるな」と張り紙をして、浴室に閉じこもった。次男の部屋に家族あての遺書があった。

この日以降、連日のように「硫化水素自殺」がマスコミ報道されるようになる。報道では「インターネットに硫化水素自殺の方法が書かれている」ということが特に指摘され、ネットの有害情報を問題視する傾向にあったが、実際にはマスコミによって「インターネットで検索すれば硫化水素自殺の方法がわかる」ということを教えられたケースも多いようである。したがって、ネットだけではなく、マスコミ報道の姿勢にも問題があるといえる。

3月末から硫化自殺は一種のブームともいえるほど急増し、中には近隣住民350人が避難するなど大規模な被害をもたらす事例も発生した。その報道がウェルテル効果を生み出した側面は否定できない。4月以降も硫化水素自殺は連日のように報道されている。

その中で、警察などは「楽に死ねる」などの言葉とともに硫化水素による自殺方法を紹介したページを「有害情報」とし、プロバイダー等に削除依頼を求める動きに出ている。現在、多くのページが削除されているが、海外サーバー上の情報などは削除されていない。

中学理科教科書問題

中学理科の複数の教科書において、「物質の化合」の単元で、試験管の中で混ぜ合わせた鉄粉と硫黄の粉を加熱した後、塩酸を加えて硫化水素を発生させ、においをかいでみるという実験をイラスト付きで紹介している。

教科書会社は、イラスト中に記載しているとおり、「換気を十分に」「深く吸い込まない」「発生する気体は有毒」などの注意点をあらためて説明している。何十年も前から載せているスタンダードな実験であり、注意を守れば安全。

考察すべき問題点

硫化水素による自殺数は急増しているものの、現在、日本では毎年約3万人が自殺しており、実際の自殺における方法として硫化水素はわずかな割合にとどまっている。

「楽にきれいに死ねる」という誤情報によって、自殺志願者が硫化水素を選んだ可能性は高いが、硫化水素を防げば自殺が防げるわけではなく、他の手段を選ぶであろうことは容易に推測できる。

したがって、自殺企図そのものを防ぐための努力が必要である。

死にたくなる状況や心境に追い込まれる可能性は、どんな人でも存在している。そして、相談することによって死以外の何らかの方策が見つかることもある。したがって、たとえ死ぬ覚悟が固くても、死にたくなったらとにかく「いのちの電話」などに連絡することが必要である。

平成21年版 自殺対策白書:マスメディア報道との関連性

平成21年版 自殺対策白書(PDF形式)第3章第1節〈参考〉平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究より。

平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究

 平成20年前半、硫化水素ガスを発生させて自殺を実行する事案(以下「硫化水素自殺」という。)が多数発生しました。警察庁統計によると、平成19年に29人だった硫化水素自殺による自殺者数は、平成20年には1,056人と急激に増加し、社会問題となりました。なお、都道府県別の自殺者数の推移をみると(図1)、都市部に多いことがわかります。
 硫化水素自殺では、インターネットのWebサイト等に書き込まれた硫化水素の発生方法が模倣された可能性が高く、この方法が急速に広まった要因としては、硫化水素自殺の情報がマスメディア報道を通じて広く知られるようになったことが考えられます。
 硫化水素ガスは、致死性の高い有毒ガスで、自宅内で硫化水素ガスを用いて自殺を実行した場合、救助に入った家族が巻き添えになるケースや、屋外にも硫化水素ガスが漏れ出し、第三者に対する被害や近隣住民が避難を余儀なくされるケースも発生しました。
 内閣府としては、平成20年4月初めに報道各社への報道配慮の呼びかけを行う等の対策を講じてきましたが、Webサイト上の有害情報規制や該当商品の販売自粛処置等は平成20年4月末となり、具体的対策までには時間を要するなど課題を残しました。
 このため、内閣府では、「平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究」を実施し、硫化水素自殺事案が多数発生した平成20年を中心に、どのような報道が行われたのか等の分析を行い、現状把握を行いました。
 調査方法としては、新聞記事に関しては、全国紙及び地方紙全49紙で、平成16年1月1日~ 20年12月31日(5年間)に掲載されたすべての記事を対象とし、硫化水素自殺について抽出した記事について、記事の掲載面、面積等の露出量、内容等について分析を行いました。
 テレビ番組に関しては、東京エリアで受信できる地上波全国ネット局で平成18年1月1日~ 20年12月31日(3年間)に放映されたすべてのテレビ番組を対象とし、硫化水素自殺について抽出した番組について、テレビ局名、番組名、番組の放映時間、番組の放映時間帯等の露出量を定量的に集計し、内容ごとに分類しました。
 その結果、平成20年4月・5月時点の自殺者数の増加と、新聞紙面・テレビ報道の露出度は比例しており、また、報道内容についても、確認を行ったところ、自殺者本人だけでなく他者への巻き添えが起こり避難者が出た頃から急速に露出が高まったことがわかりました(図2~4)。なお、報道内容については、「ストレートニュース」「まとめ」「社説・論評」「その他」に分類を行いました(図5、6)。これにより、4月にはストレートニュースが多く見受けられることがわかります。これは、硫化水素自殺が頻発するようになり、事件そのもののニュースが多く報道されるようになったことを表します。そして、自殺者数がピークを過ぎると、「まとめ」のニュースや、「その他」に含まれる自殺予防の報道が増え始め、6月頃からは報道内容にも変化が見られ、硫化水素自殺に失敗した際のリスクの説明、硫化水素ガスが発生した場合の対処方法などが紹介されるようになっていきました。そのため、第三者に対する被害を防止するために報道が必要となったことも大きな特徴として挙げられます。
 今回は、インターネットでのWebサイト閲覧等との関係を捉えることは出来なかったため、今後は、Webサイトを中心とした自殺関連情報の現状把握及び対策についての分析も必要となってきます。
 インターネットを介した自殺については、内閣府でも、「自殺対策加速化プラン」の中でインターネット上の自殺関連情報対策の推進、インターネット上の自殺予告事案への対応等の項目を設けており、検索サイト管理者等との意見交換を行う等、更なる対応の推進を行っています。

事例年表

  • インターネット上での検索で見つかった報道記事に限る。すべての関連事件報道を網羅しているわけではなく、またすべての事件が報道されているわけでもないことに留意。
  • 未遂に終わったものは報道されないことも多いので、実際の既遂率は低いと考えるべきである。
  • 一部、自殺ではないが、硫化水素関連事故・事件も扱っている。
  • 時刻は、通報・発見された時点でのものである。

2007年

3月6日
  • 高松市の男性(24)が自宅アパート浴室で死亡。近くの小中学校で一時校舎の窓を閉めたり、周辺に交通規制が敷かれた。
7月13日
  • 神奈川県秦野市の男子大学生(21)が自宅で硫化水素中毒となり死亡。兄(23)と母(49)も病院に運ばれ、その後ともに死亡した。妹(18)が重体。学生が自殺を図り、意図せず家族を巻き添えにした可能性。遺書に「家族への不満はない」と記していた。救急隊員や警察官も目などの痛みを訴えた。
※この事例において救急医療を担当した東海大学医学部付属病院高度救命救急センターの山本五十年医師によるレポートが、救急振興財団の機関誌「救急救命」21号に掲載されている(PDF)。
7月16日
  • 熊本市のアパートの一室で硫化水素ガスが発生し、この部屋に住む20代男性会社員が死亡。会社から欠勤の連絡を受け、両親と警察が午後2時ごろ部屋に入ったところ、発見。
10月23日
  • 埼玉県越谷市で、軽乗用車内で埼玉県滑川町の女性会社員と友人の無職女性(22歳と21歳)を遺体で発見。車内にトイレ用洗剤と入浴剤の空き容器が残っており、「自分はだめ人間。死んだ方がいい」などと書かれた2通のメモもあった。2人は幼なじみ。

2008年

2008年以降の事例年表は別ページに分割した。特に4~6月の報道が群を抜いて多い。

2009年1月13日報道の警察庁のまとめによると、2008年の一年間の硫化水素による自殺者数は、前年比で36.4倍となる1056人。2007年は29人だった。

  • 01月:27人
  • 02月:30人
  • 03月:64人
  • 04月:204人
  • 05月:193人
  • 06月:131人
  • 07月:86人
  • 08月:69人
  • 09月:74人
  • 10月:76人
  • 11月:53人
  • 12月:49人

2009年以降


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